#僕の廃墟体験記 2(ゾンビサバイバル、体験記風まとめ。)

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@n_kano_mywords

「荷物、お持ちしましょうか。」「えっ」「とっても重たそうにしてましたから…」突然の青年の気遣いに戸惑う僕、確かにそれは重くのしかかって…。お力になれればと手を差し出されたが、その好意にあずかっていいものか困った。それは量的な重みではなく多分、心理的な何かだから… #僕の廃墟体験記

2012-07-22 18:44:12
@n_kano_mywords

「ええ、そういう意味でも、「大丈夫」ですよ。」にっこりとほほ笑みかける青年。そう、普通だったらこういう時、相手の裏に隠している悪意とか、盗もうとしているとか、そういうものに気付くいて警戒してしまうのだが、ここでの青年からは、そんな真意はみじんも感じられなかった。#僕の廃墟体験記

2012-07-22 18:47:57
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頭では疑っているのだが、僕の心は疑うのを拒否していた。僕は肩ひもをはずし、鞄を青年へと預けた。財布ははいったままだったが、別に構わない気がした。盗まれないという妙な確信があったし、この青年はそういうもの―お金や地位―に価値自体を感じていなさそうに思えたので。 #僕の廃墟体験記

2012-07-22 18:54:31
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「なるほどこれは「重たい」ですね。」その重みを確かめるように受け取りながら、銀髪の青年は、言う。僕は、解放されたように身が軽く歩きやすくなった。少し申し訳なく思ったが、気付いた青年がフォローした。「いいですよ、僕は元気ですし、責任を持って「もっていきますね」。」 #僕の廃墟体験記

2012-07-22 18:59:55
@n_kano_mywords

「もっていきますね。」その言葉に僕は大変安堵した。……妙な話である。だって、自分の荷物を、他人が(それもみずしらずの他人)もっていきますね、といった、そのことに対して「安堵」するなんて、ばかげている。…そこまで論理思考が追いついてから、僕ははっとした。 #僕の廃墟体験記

2012-07-22 19:04:16
@n_kano_mywords

「もっていくって…どこへ。」僕は、目を見開いて隣の青年へ問いかけた。青年は、え、とちょっと意外そうな顔をしたが、すぐに取り直して、「ああ…それほど辛かったんですね…」と言った。「え…」「あなたはこの子を供養しに来たんですよね。でも、それすら思い出せないのか…と。」#僕の廃墟体験記

2012-07-22 19:09:28
@n_kano_mywords

「…供養……この子…?」「ええ、鞄の中。開けてみます?」僕はどきりとした。青年の方をを見ているが、焦点は合わない。気付いた青年が申し訳なさそうに言う。「あ…すみません、そうですよね、「苦しい」「目を背けたい」こと…なのはわかります。」青年は息を一息ついた。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 09:14:09
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そして、彼は続ける。「でも…ね、世間では、とりわけ神社の中では、そういった辛いものは穢だからと禁忌として蓋をされてしまうものですが…、僕は、その者の生きた証は丁重にもてなすべきと思うんですよね。」 静かな調子だったが、しかし強い意思を感じた。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 09:30:50
@n_kano_mywords

まあ、と青年はすぐ元の調子に戻って続ける。「こんなことを言うと「みんな」からブーイングの嵐でしょうけど。」「みんな…?」青年は肩をすくめて笑う。「ふふっ、言い過ぎてしまったみたいですね。」心なしか、青年の後ろでしっぽがゆれた気がした。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 09:35:24
@n_kano_mywords

「あの…あなたは…。」「それはそうと、今、預かっちゃいましょうか、「彼」を。」「彼…」僕は薄々感づいてきた、…僕の鞄には、生き物の死が…きっと。「鞄、あけちゃっていいですか?」「あ、…はい。」青年は石畳の上に僕の鞄を置いて、中から大きな袋。緑色の袋をとりだした。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 09:46:37
@n_kano_mywords

その深い人工的な緑を目にして、僕の脳裏には様々な記憶が洪水のようになだれこんできた。僕はあまりにも目まぐるしく、吐き気をもよおすような記憶達を追い払おうと必死になった…。しかし、やつらは僕の深部にずぶずぶとのめり込んでいく。僕の意識はただただ吸い込まれていった。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 10:22:06
@n_kano_mywords

思い出したくもないような残虐さ、そして笑顔。頭の中では闘いながら、でも実体の僕は、ただ立ち尽くしているだけだったた。「こんな袋じゃ、あんまりですよね…。」 銀髪の青年はがため息をつく。彼は向こうをむいているので多分僕の変化には気付いていなさそうに見えた。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 12:05:01
@n_kano_mywords

少し待っていてください、と言って、青年は袋をもってさっき来た方、神社の外へ向かって走り出した。風が一瞬そよぐ。はっと驚いて、ワンテンポ遅れて振り向くと、…そこには誰も見当たらなかった。………僕は一人取り残された。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 12:15:47
@n_kano_mywords

さっきの穏やかな空気はもう感じられなくなった。青年とともに消失したのか。残ったのはただの静寂、ただの空虚。僕は堪らなく何か―或種の感情、が沸き上がるのを感じた。僕の目的は…「猫を供養したい」瞳の銀髪の青年、おそらく……に亡きがらを預けた今、僕がすべきことはもう… #僕の廃墟体験記

2012-07-23 12:33:42
@n_kano_mywords

ない。 そう小さく呟いて、僕は、おもむろにカッターをとりだし――業務用カッターは常に携帯していた―― 左胸に突き立てた。刹那、目をつむった。…痛みはなかった。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 13:33:57
@n_kano_mywords

死ぬ…とはこういうことなのか。痛くも怖くもないじゃないか。あるのは…感じるのは、暖かい闇の中で包まれているような。安堵感。……力が抜けて筋肉が弛緩した。瞼もゆるんで、うっすら開けた視界のには、ぎゅっと握った手の甲が……… #僕の廃墟体験記 もちろん僕のものではない。

2012-07-23 14:15:51
@n_kano_mywords

驚いて、目をあけてると、先程の青年がカッターをもった僕の手を力強く握りしめ、おさえつけていた。その切っ先は、肌にはささっていなかった。つまり、僕は、…「しんでない」。 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 16:05:08
@n_kano_mywords

僕は、声がでない。不可思議なことは山ほどあったし、それに付随する感情も多すぎて…どれを選んでいいか、判らなかった。茫然自失な僕に無言で微笑みかける青年。その目は、金色に光っていた。「とりあえず、」ようやく青年が口を開いた。「コーヒーでも、飲みましょっか。」 #僕の廃墟体験記

2012-07-23 19:01:57

6日目後半。 ほんわか編。

@n_kano_mywords

淹れてくれたコーヒーは美味しかった。「でしょう? 以前店にきたお客さんが教えてくれた特性ドリップなんですよ。」穏やかに、でも少し得意げに言う銀髪の青年。 実は、あの後、僕は境内の奥へ行くよう青年に促されて、ついて行った。 #僕の廃墟体験記

2012-07-24 12:58:40
@n_kano_mywords

実は、もう拝殿の随分近くまで来ていたらしい。少し歩いたところで、開けた場所に出た。前方には神社の本殿があり、左に長手水場、右には、少しのベンチと…ケータリングカー? 白地に温かいオレンジの塗装で、大きく開かれた向こう側のメニューには美味しそうな軽食やコーヒーが。 #僕の廃墟体験記

2012-07-24 13:03:13
@n_kano_mywords

(ケータリングカー: ケバブやクレープ販売とかのアレ 移動販売用の車)

2012-07-24 13:04:02
@n_kano_mywords

クレープ販売等でおなじみのあの車がなぜ境内に?という疑問はよぎったが、そのケータリングカーの雰囲気は不思議と神社の雰囲気にマッチしていた。狐につまれたような顔をした僕をみて、「ふふっ。」と青年はほほ笑むんで言う。「出張の、ヘルプサービスで来てるんですよ。」 #僕の廃墟体験記

2012-07-24 13:11:59
@n_kano_mywords

どうぞ、と促されて、僕はベンチに座る。サービスですよと言って、青年はコーヒーを勧めてくれたので、申し訳ないなと思いながら、ひと口飲む。美味しかった。  #僕の廃墟体験記

2012-07-24 13:15:20
@n_kano_mywords

「でしょう? 以前店にきたお客さんが教えてくれた特製ドリップなんですよ。」ほほ笑んで言う青年。「お客さん…」「ええ、喫茶店を経営されてる方でした。特製のコーヒーが、凄く美味しくて。」懐かしそうに遠くを見て言う青年。その瞳は心なしかさっきの猫の目に似ていると感じた。#僕の廃墟体験記

2012-07-24 13:20:22