ヨウカイスレイヤー第一話エピローグその二「マツリ・ビフォア・ビフォア・マツリ」

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YOUKAISLAYER @YKSLYR

第一話エピローグその二「マツリ・ビフォア・ビフォア・マツリ」

2012-08-01 12:39:01
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夏のゲンソウキョウ。その端に位置するハクレイ・シュラインはいつものように静寂だ。この場所が賑やかとなるのは、ハツモウデやオーボンの時期、結婚式などの祝い事、そしてエンカイが開かれるとき程度である。ハクレイ・シュラインの巫女、ハクレイ・レイムはいつものように熱いチャを飲む。1

2012-08-01 12:48:12
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そこに一人の来客あり。「ドーモ、レイム=サン。実際会うのはあの日以来だな」タカギ・マリサだ。「コウリンの所でいろいろ直してもらったんだ。チイサイハッケロを新しく作り直してもらえるとは思わなかったがな」マリサは体の周りを浮遊する2つのミニ・ハッケコンバーターを弄ろうとする。2

2012-08-01 12:49:57
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「リンノスケ=サンか」レイムは正しいプロトコルで茶碗をタタミの上に置き、そして立ち上がると、マリサの方を見る。マリサはいつもの全身黒い装束に身を包んでいた。両手は物が詰まったフロシキで塞がれている。「今夜はエンカイだろ。コウリンからの差し入れだ」3

2012-08-01 12:53:13
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差し入れ!その言葉を聞いたレイムの眼にジゴクめいた光が灯る!「食糧か」「は?」「食べ物は入っておるか」「あ、ああ。もちろんだ」身の危険を感じたマリサは風呂敷の片方をレイムに差し出す。次の瞬間にはレイムとフロシキの姿は消えていた。「……ヤレヤレだ」4

2012-08-01 12:55:55
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そう、今日はエンカイが開かれるのだ。それも普段のものではなく、主にヨウカイたちを集めたエンカイである。始まるまでは実際かなりの時間があったが、ヨウカイ達はその強さに比例してプライドが高くなるため、エンカイの準備をしない。そのため、人間がこうして早目から準備にやってくるのだ。5

2012-08-01 13:00:51
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「レイム=サン、私は用事を済ませに出かけるぜ」返事はない。「……ヤレヤレだ。これが無けりゃいい人なんだがな」マリサはホウキにまたがり飛び去った。入れ替わりに現れたのは二人の人間。一人は長身で銀髪、メイド服に身を包んだ少女。もう一人は背の低い紫色の髪に伝統的な和服だ。6

2012-08-01 13:08:08
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「……おや、ハクレイ・シュラインなのに巫女がいません。どうしたことでしょうか」銀髪の少女が横の背の低い少女に問いかける。「大丈夫ですわ。ハクレイ・シュラインの巫女はどの時代でも一緒ですから」着物の少女は5円トークンを1枚取り出し、賽銭箱に投げ入れた。7

2012-08-01 13:10:58
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チャリン。箱内でトークン同士がこすれあう音が響く。やがて静寂。「……」「……ドーモ、ハクレイ・レイム=サン。私を欺くにはまだまだですわ。イザヨイ・サクヤです」サクヤが虚空に向けてアイサツをする。8

2012-08-01 13:22:57
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「……ドーモ、サクヤ=サン」レイムは二人の背後ワン・インチ距離に立っていた。つまりいつでもスレイすることができる位置だ。しかしその顔には「妖」「殺」と書かれたメンポは無く、手にはザ・フートンもタタミ針もない。今の彼女はヨウカイスレイヤーではないのだ。9

2012-08-01 13:26:08
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レイムはオジギを伴わない、友人間で行われるアイサツをする。「そして、ヒエダ・アキュー=サン。ドーモ、ハクレイ・レイムです」「ドーモ。ヒエダ・アキューです」アキューと呼ばれた和服の少女がアイサツを返す。「ヒサシブリ!相変わらず性格が悪いことで」10

2012-08-01 13:33:04
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「今日のエンカイはヨウカイ重点な。唯の人間のオヌシでは危険だ」「大丈夫です、すぐに帰りますから」「またインタビューか。面倒だ、マリサ=サンか当事者に聞けばよかろう」「私が話せることはすべて話しましたわ」サクヤが100円トークンを賽銭箱に投げ入れながら言う。11

2012-08-01 13:37:23
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「サクヤ=サンからはとてもいい話を聞くことが出来ました。偶然出会った方が当事者とはサイオー・ホースな」「それで十分であろう」「別の視点からの情報も必要ですから」「まるで文屋めいた物言いだな」「お呼びですか?」上空から声!「イヤーッ!」レイムは隠し持っていたタタミ針を投擲!12

2012-08-01 13:41:40
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「アヤヤヤ、お待ちを!レイム=サン、もう新聞勧誘はしませんから!」上空、ハクレイ・シュラインと外界をつなぐトリイの上に、器用に逆さにぶら下がる一人の少女がいた。奇妙なことに、少女の周りには謎の上昇気流が発生しており、彼女のスカートがめくれ上がることは決してない。13

2012-08-01 13:43:36
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「ドーモ、皆様方。アヤ・シャメイマルです」アヤは腹筋のみでオジギをしタタミ針を躱すと、ひねりを入れた5回転ジャンプを決め音もなく着地した。「御任せ下さいませ。この私めがエンカイ中の取材を引き受けましょうとも」アヤは不敵な笑みを浮かべ、開いた手の親指と人差し指の先をくっつけた。14

2012-08-01 13:49:47
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これは古来から存在する取引の際に使われる表現であり、マネー・サインと呼ばれる。2本の指で作られた輪がトークンを表し、遠回しに金銭を要求するという、アヤを含めた天狗全般に広く使われているあまり奥ゆかしくない表現だ。「どうです?今ならお安くしまグワーッ!」15

2012-08-01 13:55:02
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ヨウカイスレイヤーの素早い突きがアヤの鳩尾に命中!「天狗もヨウカイであったな。今ここで殺しておくのも悪くない」ヨウカイスレイヤーが鋭く言い放つ。「アバッ……ハイ、スミマセン」「……ヤレヤレね、構ってられないわ」サクヤは溜め息をつく。16

2012-08-01 13:59:05
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「オヌシも準備を手伝え」「えっ?」「エンカイの準備をしろ。さもなくばダンマクだ」「アッハイ」アヤはすでにドゲザをしそうであった。サンシタヨウカイなら失禁していたであろう殺意がヨウカイスレイヤーから滲み出ていたのを感じ取っていたのだ。アキューがクスクスと笑う。17

2012-08-01 14:02:34
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「賑やかでいいアトモスフィアですね、夜はもっと賑やかになるのでしょうけど。私も手伝いますわ」サクヤはどうにかして収納されていた大量の食材と調理道具を取り出した。レイムの眼が光る。「調理場借りてもよかったかしら?」「ヨロコンデー!」レイムは気分よく答えた。まるで別人だ。18

2012-08-01 14:07:51
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「私は帰らせていただくわ」アキューはレイムたちに背を向けて言った。「アヤ=サン、頼みましたよ。ウフフ」姿に似合わぬ不敵な笑みを浮かべると、そのままアキューは去って行った。アヤはレイムとサクヤに捕まえられ、ハクレイ・シュライン内部へと消えた。19

2012-08-01 14:08:55
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「アイエエエ!妹様!?妹様ナンデ!?」絶叫するパチュリー。「私が連れ出した」マリサが答える。「冗談じゃないわ!どうしてずっとああしておいたと思って!」「ああしておくのが駄目だとマリサ=サンが判断したまでだろう」慌てるレミリアに鋭い指摘をするレイム。21

2012-08-01 14:29:20
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右手には料理、左手に箸を持ちながらレイムは続ける。「閉じ込めておく必要などない。迷惑を考えると閉じ込められるべきはオヌシの方だ」「ヌウウッ……」涙目になるレミリアの顔をアヤが写真に収めていく。全員がサケに酔っているため、誰もその卑劣な行為に気付くことはない。22

2012-08-01 14:32:55
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「フラン=サンはもう心配する必要はないぜ」マリサが指差す先には、フランドールとチルノが2人しゃがみこんでいる。チルノがカエルを氷に閉じ込めると、フランドールは中のカエルだけを爆発四散させ、中が空洞になった氷塊だけが残った。「……ま、平和が一番だな」マリサは肩をすくめる。23

2012-08-01 14:38:28
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慌てるレミリアとパチュリーをよそに、メーリンとルーミア、そしてレイムの3人は食べていた。一人料理を任されたサクヤのワザマエは実際見事であった。サクヤは戯れに食べ物の一つをダンマクに替えると、それはメーリンの口の中で爆発した。ナムサン、蹲るメーリン。笑いが起こる。24

2012-08-01 14:43:19