ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/08/04

falsewhere @nowherenotime

#twnovel 空気を抱きしめた。さっきそこに立っていたきみの残像がまだかすかに残っていた。残像のきみは無表情だった。キスしてみた。まだかすかに匂いが残っていた。思わずむせた。きみの空気は跡形もなく吹き飛んでしまった。ぼくの体の一部も消えた。

銭喰 @zeniqui

#twnovel 濁った沼や川の底に縄張りを統べるヌシがいるように、味噌汁にもヌシがいる。食卓の上でお椀を踊らせたり、ごはんを美味しくしたり、日々奇跡を起こしている。その姿は豆腐のようでワカメのようで蜆のようで万能葱のようであると伝わり、判然としない。その正体は、神のみぞ知る。

すわぞ @suwazo

#twnovel 友人は田舎に許嫁がいるらしい。「いまどき？」「仕方ないんだ。蔵を開けちゃった責任があって」夏の晴れた昼間しか開けてはいけないと言われていた蔵に、雨の夜、こっそり忍び込んだのだという。「蔵に干し人魚なんている筈ないと思ってたんだよね」友人は決して魚介類を食べない。

miecha @miechorz

#twnovel 水の底から上を見上げる。日差しは水面近くではきらきらと輝き、内側に沈むにつれ穏やかな光に変わる。忘れた頃に浮き出る泡もきらりひらめく。ソーダのような青い世界との境には、遊ぶ子供の足と浮き輪がひらひら。ねえ、君たちもこっちへおいで。ここも楽しいんだよ……。

layback @laybacks

中の人などいない。ネズミは言う。君は着ぐるみだろう？　違う。ネズミは断固として譲らない。おそらく野生化する前に飼われていた娯楽施設で洗脳されたのだろう。あなたはネズミです。中の人などいません。そんな風に。そして着ぐるみを脱ぐことも忘れてしまった。可哀想なネズミ。 #twnovel

添嶋譲 @literaryace

ホースで水をまいています。コイヌは空にほんの一瞬見える虹を探してぐるぐると回ります。目が回っちゃうよ？「コイヌ男の子だからだいじぶ」こんなもんかな。「もう終わり？」これわかる？ コイヌは指さすほうを見ました。プールだ！ 尻尾をぶんぶん嬉しそうです。船もってくる！ #twnovel

かなりひこくま @kanarihikokuma

その夏、姉と僕は二人で冷凍庫を開けた。氷を取り出すと姉は流しに向かい水道の蛇口を開け、氷を硝子のコップに移した。氷は１０個あって、ひとつのコップに氷は５個ずつだ。姉は氷を手にとると額にあて、真剣な顔でこう言った。「この氷は去年の氷だからな。食うと腹を壊すぞ」　 #twnovel

あっぷるピエロ @apple_dop

少女は魚を連れて歩いていた。白いワンピースから伸びた足の周りを、透明な魚が泳いでいる。目を疑って足を止めると、首を傾げた少女と目が合った。少女はおれの視線を辿り足元を見て「ああ。海から出てきたんですね」と裾をひらりとまくる。途端、裾の中から海があふれ出してきた。#twnovel

七歩 @naholograph

蜘蛛の巣は毎日僕の通り道に張られてる。ここに張るのは不正解だ。毎日壊されるじゃないか。学べばいいのに。#twnovel　餌をとるために巣を張る。ここに張るのは正解だ。毎日獲物が通るじゃないか。今はまだ上手に捕まえられないけれど、頑張る。試行錯誤で、いつかあの人間を捕獲する。

ヨシムラ @ortk

入学式の日に、校門へ続く坂道にげんなりして三年。この坂を登るのも今日で最後。あの時一人で登った坂も、今日は二人で登る。手を繋ぎながら坂道を登るのは意外に難しいなんて、君と出会うまで知らなかったな、と思いながら横顔を覗く。なに？ と言いたげな顔に微笑みで返す。 #twnovel

とおる7th @windcreator

打ち上げ花火を見上げながら、彼女の打ち明け話を聞いていた。見上げる夜空は綺麗で、彼女が花火の合間に零す言葉さえも、なんだか綺麗なものに思えてきて。あぁ、世界は、こんなにも綺麗なのに、あまりにも残酷だ。一際大きな花火の後、徐々に夜が帰ってくる。終わりの合図はない。 #twnovel

とおる7th @windcreator

彼女はいつも長い坂道のてっぺんに居る。汗だくになって辿り着くと、彼女はにっこり笑ってくれる。ただそれだけの為に、自転車を押して毎日登る。今日は年に一度の花火大会だから、僕は夜の坂道を登って彼女に会いに行く。響く音と揺れ。坂の上で青白く揺れる少女に、僕は恋してる。 #twnovel

宇見拓家 @umi_takuya

#twnovel 背が低い男子はやっぱり恋愛対象外なのだろうか。坂道を登りながら登校している時に君の後ろ姿を見上げながらいつもため息を漏らす。でも下校中の君になら声をかけられそう。なぜなら君の後ろから声をかける僕は、その時だけ君より少し背が高く見えるから。 #twnovelOFF

とおる7th @windcreator

四年に一度、我が家ではオリンピクニックが開催される。幼い娘の言い間違いを、ノリの良い両親は本当に”開催”した。毎月家族で遊びに行くのとは別で、四年に一度の特別な旅だった。旅の最後にはみんなで手作りの金メダルを交換して記念撮影。嫁いだ先で、今度は私が開催するのだ。 #twnovel

碧 @mimimdr

わかるよ星人が現れた。わかるよ星人とは、悩みや苦しみに共感することで人々を救おうとする者である。わかるよ星人はわかるよ、と言いながら心をいためる。今日は劣悪な家庭環境で育った故に殺人犯となった男の心を取り出し、フライパンで炒め、食した。この味は美味しい、わかるよ。#twnovel

リュカ @ryuka511

女は窓際の席に座った。入口の古い鐘がカラコロ鳴る度顔を上げ落胆する。やがて店主がすまなそうに閉店を告げた。長居を詫びた女に店主はスープを差し出し微笑む。「ブラックばかり飲んでいらっしゃるので胃に優しいものを。お代は不要です。」女は「ありがとう。」と涙をこぼした。 #twnovel

ゆう @yukiririkiriri

渋谷「月箱」で開催中のついのべ豆本♪部「１４０字の物語展２０１２」も、早くも明日（8/5 17時）まで。今回の目玉は、合作ついのべ豆本「失せ物屋」！　→　http://t.co/KYWCCrJA