「アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル」(再放送バージョン)

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NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

そこは何の変哲も無い給湯室であった。畳敷きの茶室があり、火鉢とコタツが置かれている。壁には「定時退社」と毛筆された掛け軸が飾られている。ニンジャスレイヤーは迷わず、土足で茶室に上がって行った。 20

2012-06-15 20:35:41
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掛け軸をずらすと、ドラゴンが刺繍された木製のダイヤルロックが現れた。「情報は今のところ正確だな」「右に回して4,6,4。そのあと左に回して3」ナンシーの言葉に従いニンジャスレイヤーはダイヤルを操作した。がちゃりと音が鳴り、茶室全体が震動。ゆっくり降下を始める。エレベーターだ。21

2012-06-15 20:38:49
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長い長い下降を経て、茶室は不気味な機械音とともに停止する。いま茶室と接しているのは巨大なシャッターである。「もうすぐ開くドスエ」録音されたマイコの声が鳴り響いた。ナンシーはニンジャスレイヤーを見た。ニンジャスレイヤーは眉一つ動かさず即答した。「備えろ」 22

2012-06-15 20:42:05
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ナンシーは入り口のクローンヤクザから調達したNN445アサルトライフルを構えた。手馴れた仕草である。「開くドスエ」電子マイコ音声が告げる。機構部からスチームを噴出しながら、大仰なシャッターがゆっくりと開いた。 23

2012-06-15 20:44:16
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おお、なんたる光景!貧相なオカキ工場の下にこのような工場設備が隠されていようなどと、誰が予想し得たろうか?二人は今、巨大な地下プラントを天井際の渡り廊下から見下ろしているのだった。縦横に張り渡されたベルトコンベアー、10メートル四方はあろうかという水槽の数々……。 24

2012-06-15 20:48:25
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工場は今も忙しく稼働している最中であった。白光タイプの電気ボンボリの冷たい明かりが水槽に満たされた怪しげなバイオ液に反射し、地下空間は緑色に照らされている。ヨロシサンの家紋がレリーフされた得体のしれない機械の数々が、コンベアーを流れる怪しげな物体を右へ左へ、やり取りしていく。25

2012-06-15 20:51:35
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そして、おお、ナムアミダブツ!なんたる禁忌!ナンシーが震える手で指差す先を見よ、水槽の中、等間隔で並んでいるのは、裸の人間たちである。あの水槽は培養装置なのだ。二人は今まさにクローンヤクザの製造工場を見下ろしているのだ! 26

2012-06-15 20:54:41
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「なんて……なんてこと」「生体反応の正体はこれか」ニンジャスレイヤーは注意深く眼下の警備体制を確認しようとした。広大なプラントであるが、設備は完全に自動化されており、人影は無かった。機密保持の意味もあろうか。警戒しつつも、二人は螺旋状の階段を降りていった。 27

2012-06-15 20:58:48
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階段を降りきったニンジャスレイヤーとナンシー・リーは、地図上に記された別区画へ向けて歩き出す。今いる広大な区画は一年前の地図にも「ヤクザ」と記載がある。二人が目指すのはさらに奥に存在するはずの「マッポ」区画だ。 28

2012-06-15 21:02:39
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緑色に光る水槽の中で、裸体のクローンヤクザY12型が、朝礼するサラリマンのように規則正しく列を作り、直列している。目は瞑想のように閉じられ、胸には「ヨロシサン」の文字。 29

2012-06-15 21:07:05
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二人は水槽を横目で見ながら先を急いだ。「でも、こうも手薄なものなのかしら」ナンシーは訝った。「血の臭いだ」ニンジャスレイヤーは低く言った。「微かに感じる」 30

2012-06-15 21:08:19
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やがて、二人は下へ向かって傾斜する通路の入り口に辿り着いた。通路の入り口にはノレンがかかり、仰々しい字体で「マッポ」「大事」と書かれている。地図にはこの先の区画の記載は無い。ナンシーはアサルトライフルを構え直した。 31

2012-06-15 21:12:55
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「情報が確かなら、この通路の先にクローンマッポの実験区画がある」早足で歩きながら、ナンシーは手筈を確認する。「モニタ室に入って、そこにあるコンピュータに、この物理メモリを挿す。それでウイルスプログラムがインストールされる。同時に、『タヌキ』に関する情報を盗み取るってわけ」32

2012-06-15 21:15:06
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言葉にすれば、なんとも地味な計画である。プラントの水槽を根こそぎ叩き割る事も無ければ、バンザイ・ニュークで施設ごと吹き飛ばすわけでも無い。しかし、ナンシーの目的は、もとよりこの施設の破壊ではない。彼女の目的はもっと深奥の陰謀を捉える事だ。すなわち、タヌキ。33

2012-06-15 21:19:26
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ニンジャスレイヤーの協力をあおぐにあたりナンシーが提示したのもの。それはアンタイ・ニンジャ・ウイルス「タケウチ」の解毒剤だ。ヨロシサンの機密情報を盗み出せば、自ずとアンプルの所在も明らかになる。ナンシーはドラゴン・センセイを気遣うニンジャスレイヤーの切なる願いを把握していた。34

2012-06-15 21:22:35
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通路の突き当たりに、「とても秘密」と書かれたゲートが現れた。ナンシーはゲート脇の数字キーを素早く叩いた。4、6、4、3、8、9、3。ヨロシサンとソウカイヤのつながりを象徴する恐るべきパスワードだ。「開くドスエ」電子マイコ音声が響き、ゲートが重苦しい音を立てて開いた。 35

2012-06-15 21:25:47
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ゲートが開くと、そこは円柱状の巨大空間の底であった。天井はあまりに高いため、闇に飲まれて目視することができない。円柱の壁面には、見えなくなる高さまで、びっしりとシリンダー状の細長い水槽が並べられていた。 36

2012-06-15 21:28:54
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ひとつのシリンダーに一体ずつ、屈強な全裸の男が収まっている。クローンヤクザにそっくりだが、見よ、胸にはすべからく「マッポ思考ルーチン、ヨロシサン特許」と刻印されている。「これが全部クローンマッポなの!?」ナンシーは虚空を見上げ、呆然と呟いた。 37

2012-06-15 21:32:15
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

ナムサン!ここまで計画が進行していたとは。そしてこの数!これだけのクローンマッポがネオサイタマの治安機構に食いこめば、もはやソウカイ・シンジケートをとどめるものは無くなるであろう。待ち受けるのは暗黒の未来である! 38

2012-06-15 21:36:28
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「ナンシー=サン。急げ。あれではないのか」ニンジャスレイヤーが反対側のゲートを示した。ゲートには「モニタ室」「管理」と書かれている。ナンシーは緊張した面持ちで頷き、駆け出した……。 39

2012-06-15 21:40:52
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「イヤーッ!」その時だ! 40

2012-06-15 21:43:03
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一瞬の出来事! 頭上の闇から一直線に落下してきたなにかが、ナンシーの身体をつかみ上げた。「ンアーッ!」ニンジャスレイヤーのニンジャ反射神経は、かろうじてその正体を捉えた。落下してきた存在は、背中にくくりつけたザイルでバンジージャンプのように落下し、ナンシーを抱きかかえたのだ。41

2012-06-15 21:47:14
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げつけた。「イヤーッ!」謎の存在は軽やかにザイルを背中から取り外し、ナンシーを抱きかかえたまま、くるくると回りながら着地した。迷彩色のニンジャ装束、そして、異様な円錐形の編笠……。「ドーモ、はじめまして。フォレスト・サワタリです」42

2012-06-15 21:50:24
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「ドーモ、フォレスト=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはアイサツをかえした。「なるほど。セキュリティが薄いとは思ったが、ニンジャに護らせているわけか。だが、私と会ったが運の尽きだ」ニンジャスレイヤーは構えた。「ニンジャ殺すべし」 43

2012-06-15 21:54:33
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「ニンジャスレイヤーとは異な名前を」フォレスト・サワタリはナンシーを床に投げ捨てた。なんと!僅かな時間で彼女の肢体は金属ロープできつく縛られていた!「ンン」ナンシーがもがいた。豊満な胸を緊縛が強調し、猿轡まで噛ませる念の入りようだ。フォレストは笑い、背中の竹槍を取って構えた。44

2012-06-15 21:59:44