リラちゃんのゾンビサバイバルログ
目が覚めると、外が明るくなっていた。
天気が良くなっただけなのか、夜が昼になったのかはよくわからない。
けれど、来たときよりは視界が開けたので、とにかく人かシャワーが浴びられそうな設備を探して歩くことにした。
後者は意外とすぐ見つかった。といっても、民家だけれども。一応チャイムを鳴らしてしばらく待った後に、上がりこんで誰も居ないことを確認した。タンスを漁ってタオルを出し、シャワーをお借りした。我ながら勇者の素質がある。
シャワーはお湯は出なくて冷たかったが、べたべたしなくなっただけで随分とありがたい。
服もお借りしてしまおうか悩んだけれど、乾燥機つきの洗濯機があり動いたので、そちらをお借りした。どうやらガスだけ止まっているということのようだ。
乾燥機からほかほかセーラー服を出して、袖を通した。
家をなるたけ現状回復させて、心の中で家主に丁重にお礼を述べて立ち去る。
しかし人の気配は無い。
住宅地のようなのだけど、チャイムを押せども庭を覗けども人っ子一人いない。不気味だ。
-もう自分は死んでしまって死後の世界というやつに来てしまったのだろうか。
ふとそんな風に考え始めたところで、耳にかすかな「声」が届いた。
確かに、声だった。きゃっ、という押し殺した小さい声。
不確かながらも、声がした気がした方向へ行って辺りを探る。
すると、尻尾のようにはねる何かが見えた。犬……?
近づくと、車庫のシャッターにはさまれて動けなくなっている少女が居た。尻尾に見えたのは、金髪を止めた長いツインテール。片手に何かを抱えていて、上手く動けないようだ。
「だ、大丈夫?」
錆付いているのかすべりの悪いシャッターを力いっぱい押し上げる。
なんとか彼女が這い出られるくらいまでは高さが確保できた。
少し警戒したようにこちらを見上げてきたけれど、安全な相手と判断したのか彼女は少しだけ笑って「ありがとう!」と言った。が、言うが早いか取りこぼした缶詰と思しきものを拾い集めて走り去っていった。スパッツから覗く足がまぶしい。
……ここへ流れてきて初めて会った人間なのに、話も出来なかった……。
けれど人が居たということは、やはりここは現実なのかな、とも思う。呼び止めればよかったな、と後悔しながら、またあてどなく住宅街の道を進んだ。
するとまた、何か聴こえた。
声……というより唸りのような低い音。さっきとうって変わった嫌な予感がしたところで、急に日差しがさえぎられた。
見上げると、黒くて巨大な何かがあった。さっきまで無かったのだし、ふごふごと呼吸音がするので、生き物なのだろう。ただ、人としては大きすぎるし、臭すぎる。
(……熊!?)
それが私を認識して腕を振り上げるより少しだけ早く、熊と気が付いて身を翻した。一撃目を後ろから肩に食らって、泣くほど痛いがとにかく走る。
動物園から逃げたの?それでこここんなに人が居ないの?ていうかすごい臭いんだけどなんなの?獣臭じゃなくて腐臭なんだけど!?!?
そんなことがぐるぐると頭をよぎる。2区画分も走ると、随分距離が離れたようだ。ありがたいことに、動きはかなり鈍そうだ。陰に潜んで一息つくと、急に肩の痛みが倍増した。
せっかく洗った制服は右肩から袖にかけて大きく裂かれてしまった。仕方なく右袖を裂け目から破いて落とし、包帯代わりにした。
(いっそ死後の世界のほうがましだったかも)
そう思うけれど、肩の痛みは何より現実味があった。
<<HP:88、食料:97>>
※※しのさんはアイコンのコレットのイメージにしたけど口調とか覚えてなかった……
【1日目】
今日のリラ:【休息】横転し廃棄された無人の電車が今日の寝床だ。傾いた座席で眠る・・・意外と悪くない寝心地だった。HP:+4 食糧:-2 http://t.co/HyMJfxXW 今更だけど始めてみよー
2012-08-06 23:55:52運が無いのは自覚してた。
中学の修学旅行でみんなの前で大凶引いてみたり、上空を行く鳩に狙い撃ちされたり、前の日から本州に渡って並んで買った携帯が初期不良で戻ってきた頃には特価になってたり。
話のねたには困らないね、と前向きに考えていたけれどさすがに今回は洒落にならない。
-未確認生命体の繁殖が確認されたため戒厳令が宣告と共に一切の出入りが禁止されました。
ただそれだけの事実がニュースで流れていた、読めないつづりの町。
今、見渡して標識と思しきものから読み取れる地名はそれと同じだった。
いつもと同じように、学校が終わって、本州の小さな小さな船着場から、フェリーで20分の我が島へ戻ろうとした、はずだった。
急に暗くなり、見上げると暗雲が立ち込めて橋の向こうで稲光が走っていたところまでは、視界は水平だった。その後はとにかくおぼれないように、それだけ必死だった。
たどり着いた岸から、疲れ果てた体を奮起させて少し歩いてみたけれど人は気配がまったく無い。町としての建造物は色々あるのに、色々とおかしい。人気が無いし、ありえない壊れ方をしていたりしているのだ。
町の名前の標識を見つけるまでは、人さえ見つければ警察なり救急なりに電話さえしてもらえばなんとかなると思っていた。
けれど、それさえ甘かったと分かったところで、私は目に付いた物陰に入り込んだ。
路面電車が止まっていたのだ。ただし、横転して。
そのまま放置されているということは、この路線はそもそも現在、動いていないのだろう。
座席の下のヒーター部分に腰を掛けて、鞄の中を確認する。
教科書なんて入っていないけれど、それ以外も海水にに浸って殆どただのごみとなっている。携帯は当然ながら塩水で電源さえ入らない。
日焼け止めはまだ使えるかな、と思うけれど、まずはこの塩水でべとつく肌をなんとか洗いたいところだ。
「あ!」
奥底にチョコレートの袋が入っていた。個装を袋に詰めたタイプ。未開封なので中に水も入っていない。よかった、今日の昼にこれをデザートにしなくて本当に良かった。
引っ張ってあけようとしても力が入らないので、ギザギザになっているところから裂いて開ける。ひとつだけ、と思いつつ、つい2つ目にも手を伸ばす。甘い。
甘いものを食べたら、眠たくなってきた。
ちょっとだけ……と誰に言い訳するでもなく、目を閉じて意識を飛ばした。
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