かおるさとーさんの『氷菓』#17 解説

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かおるさとー @kaoru_sato

そして『クドリャフカの順番』。『夕べには骸に』の作者は『安心院鐸玻』。これには作画と原作の二人が関わっていることが判明していますが、あとがきを読むともう一人、背景を手伝った人物がいることがわかります。これは前回の16話で、奉太郎がご丁寧にも全文を読んで聞かせてくれました。

2012-08-18 23:12:08
かおるさとー @kaoru_sato

『アジムタクハ』という名前は、この3人の名前の頭文字を1文字ずつ取って並び替えたものではないかと、奉太郎は考えました。つまり“ク”ガヤマ“ム”ネヨシ、“ア”ンジョウ“ハ”ルナ、この二人の頭文字をアジムタクハから取り除くと、残る文字は“ジ”と“タ”。

2012-08-18 23:13:17
かおるさとー @kaoru_sato

総務委員会の中にいて、名前に“ジ”と“タ”のつく人物。去年の文化祭に参加した2年生以上の人間で、加えて陸山会長と親しく、いろんな場所に出入りしても怪しまれない人物。この条件に該当する人間は、総務委員長・田名辺治朗。彼こそが十文字事件の犯人、“怪盗・十文字”です。

2012-08-18 23:15:12
かおるさとー @kaoru_sato

奉太郎の推理に田名辺先輩は小さく拍手をしました。推理は当たっていたようです。そしてその瞬間、里志も小さくつぶやきます。「まったく、期待以上だよ、ホータロー」。里志は奉太郎に期待していました。ただ、こうも見事に成果を出されると、差を見せつけられたようで複雑な気持ちになるでしょうね。

2012-08-18 23:16:07
かおるさとー @kaoru_sato

(原作では、里志はこの交渉の場面を目撃していません。アニメでは里志の心情を強く描くために、うまく推理の場面と絡めて表していましたね)

2012-08-18 23:18:36
かおるさとー @kaoru_sato

しかし、そこで奉太郎の「やるべきこと」が終わったわけではありません。奉太郎は犯人当てをしたかったわけではなく、これを文集販売に利用できないかと考えているわけです。その方法とは、はっきり言うと脅迫。犯人であることをバラさない代わりに、「氷菓」を売りつけようとします。

2012-08-18 23:19:02
かおるさとー @kaoru_sato

ただ、相手が総務委員長の田名辺先輩だったので、そのまま脅迫するわけではなく、お互いの利害が一致するだろう案を提示します。総務委員会で「氷菓」を買い取り、それを通販で売ってもらうという提案です。そしてそのために十文字事件をサポートすると申し出ます。

2012-08-18 23:19:30
かおるさとー @kaoru_sato

15話の終わり間際に奉太郎が神山高校のサイトを閲覧するシーンがありますが、通販を扱っていることは画面と奉太郎の言動によって説明されています。また、同じく15話で里志が「自作自演で……」と言いかけていましたが、奉太郎はこの言葉から今回の案を思いついたのかもしれません。

2012-08-18 23:20:10
かおるさとー @kaoru_sato

(化学部から手に入れたナトリウムと製菓研から手に入れた水鉄砲を使って校了原稿を燃やすという展開は原作どおりですが、里志のスマホに電話して客の目をひきつける、という方法はアニメオリジナルです。こちらの方が無理がなくていいですね。着信音も、わざわざ注意を引きやすいベル音にしています)

2012-08-18 23:21:19
かおるさとー @kaoru_sato

すべての推理を聞き終えて、里志は自嘲するような笑みを浮かべます。自分ではたどり着けなかった十文字の正体に、奉太郎は見事にたどり着きました。それも里志とはまったく違った方法によって。

2012-08-18 23:21:51
かおるさとー @kaoru_sato

里志にとって、奉太郎は最も親しい友人といっていいでしょう。その友人が、自分にはとてもできないことをやってのける。里志は才能のある人間、変わった人間を見るのが好きです。しかし奉太郎は、彼にとってあまりに近しい存在。そんな相手を見上げるばかりになってしまったとしたら……。

2012-08-18 23:22:14
かおるさとー @kaoru_sato

里志は一方的に奉太郎に勝負を挑んでいましたが、これは同時に自分との勝負でもありました。里志はずっと、自分に特別な才能はないと考えてきましたが、それが果たして本当に正しい見積もりなのか、それを測る意味合いもあったと思います。『愚者』で奉太郎がそうしたように。

2012-08-18 23:22:38
かおるさとー @kaoru_sato

結果は芳しいものではありませんでした。ずっと貫いてきた自分のモットーに反してまで、結論を出そうとした里志。それをすることに果たして意味はあったのか。しかし本人は、もうそれ以上結論を出すことに拘泥することはないかもしれません。データベースは結論を出せないのですから。

2012-08-18 23:22:57
かおるさとー @kaoru_sato

(……彼には他に、結論を出すべき事柄が存在しますから)

2012-08-18 23:23:28
かおるさとー @kaoru_sato

(アニメでは里志がかなり奉太郎に対してこだわりを見せているため、摩耶花が服をつかむシーンがひどく印象深く映りました。切なさが伝わってきます)

2012-08-18 23:24:21
かおるさとー @kaoru_sato

文化祭閉会式。陸山会長の挨拶で、文化祭もいよいよ幕を閉じます。挨拶の途中で後ろを振り向き、陸山会長が田名辺先輩に向かって「おつかれ」と声をかけるシーンが描かれていましたが、意味深な言葉ですね。これについては後述します。

2012-08-18 23:24:43
かおるさとー @kaoru_sato

式後、摩耶花は河内先輩に会いに行きます。渡り廊下でたそがれている河内先輩に、奉太郎から借りた『夕べには骸に』を見せると、先輩はどこか気の抜けたような様子で、しかし摩耶花と正対しようとはしません。その心の内側は、まだ摩耶花には見えていません。

2012-08-18 23:25:03
かおるさとー @kaoru_sato

冗談だと、先輩は言います。湯浅部長が言っていたように、本気ではなかったのでしょうか。摩耶花はその言葉を受けて、こちらも気が抜けたように、力の入っていた拳を緩めました。

2012-08-18 23:25:19
かおるさとー @kaoru_sato

河内先輩は、『夕べには骸に』を読むことを、途中で止めてしまったと言います。傑作かどうかは読めばわかる。しかしその傑作を、特に漫画好きというわけではないと思っていた、自分と親しい友人が生み出したとしたら……果たして心穏やかでいられるでしょうか。

2012-08-18 23:27:01
かおるさとー @kaoru_sato

河内先輩は、『夕べには骸に』を部屋の押入れの奥にしまい込んで、さらに漫画に対して違う考え方を持ち込むことで、名作の存在をなかったことにしました。しかし、摩耶花によってそれは打ち破られました。摩耶花が期待を寄せる名作は、きっと河内先輩もそうしたかったものなのでしょう。けれど。

2012-08-18 23:28:47
かおるさとー @kaoru_sato

あまり漫画を読まないと思っていた友人が、突然自分の作品以上のものを作ってしまう。それを素直に賞賛して期待を寄せるなど、彼女にはできませんでした。もしもこれが、親しい友人の手によるものでなかったら、河内先輩も期待を寄せることができたのかもしれません。

2012-08-18 23:29:36
かおるさとー @kaoru_sato

期待は諦めから生じると里志は言いました。しかしその諦めを認めてしまうには、河内先輩の漫画の腕前は優秀すぎました。摩耶花がいいと感じたもう1冊の宝物・『ボディートーク』。『夕べには骸に』よりは1枚落ちるけど、とてもいい、河内先輩の作品。

2012-08-18 23:30:23
かおるさとー @kaoru_sato

自分の作品が一枚落ちることが、河内先輩にはわかったのでしょう。そしてその一枚の差がどれほどのものかも、河内先輩はなんとなく理解してしまったのかもしれません。途中までしか読まなかったはずの作品から、なんとなく、しかしはっきりと。

2012-08-18 23:31:35
かおるさとー @kaoru_sato

そんな河内先輩の葛藤に、屈託に、摩耶花は気づき、涙します。河内先輩のことだけではなく、百枚落ちると感じた自分のつたない漫画のことも思い返して。その涙は、手すりに描かれた猫の目に落ちます。涙を見せなかった河内先輩の思いを代弁するような演出ですね。

2012-08-18 23:34:03
かおるさとー @kaoru_sato

地学準備室に4人が再び集まります。残った「氷菓」はわずか4部。2日前の朝にはあれほど積まれていた文集が、いよいよ完売目前までやってきました。遊びも兼ねた里志のアピール、千反田さんの不慣れな交渉、摩耶花は漫研をなかなか離れられませんでしたが、ワイルド・ファイアで一矢報いました。

2012-08-18 23:34:37