「キョート・ヘル・オン・アース」急「ラスト・スキャッティング・サーフィス」#5
「お前は死神か」半ば露出した顔でレイジは呟いた。口元には内臓ハレツの血の筋。既にカラテは尽き果てていた。辛うじて影が顔面粉砕を守る。「いかにも」ニンジャスレイヤーは未熟なる青年に殺人拳を叩き込み続けながら言った。「なら、なぜ一撃で終わらせない!夜のように慈悲深く!静かに!」 69
2012-09-04 01:30:58「死は無慈悲でブルタルだ。死者は還らぬ。オヌシの影はマヤカシに過ぎぬ……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはカラテを振り下ろす。重い右パウンドがハンマーめいて叩き込「グワーッ!」レイジの頭が浮かび白目を剥く!視界が一瞬真っ白になる。「さらばだシャドウウィーヴ=サン!イヤーッ!」 70
2012-09-04 01:48:47止めの右フックを繰り出す!だがその時!『シテンノ!』「グワーッ!?」後方からの低空トビゲリが彼を蹴り飛ばす!何者?ワイヤーアクションめいて吹っ飛び壁に叩きつけられた彼は、直ちに背後を振り向いた!あなや!そこには虫の息のシャドウウィーヴを抱え逃走する、幻影のブラックドラゴン! 71
2012-09-04 02:03:38敵はすでにショウジ戸を蹴破り、カワラ屋根へと逃げようとしている。天守閣へと向かうニンジャスレイヤーにとって、これ以上の深追いは不可能。だが生かせば必ずや「……禍根を残す……!イイイヤアアアアーッ!」ニンジャスレイヤーは全身の筋力を引き絞り、ツヨイ・スリケンを投げ放った! 72
2012-09-04 02:09:03SMACK!強烈なスリケンはニンジャ脚力をも凌駕する速度で飛び、ブラックドラゴンの心臓部を突き破る!影の操り人形はなおもカワラ屋根を駆けるが、それは爪先から徐々に雲散霧消していった。ついに師弟の姿は視界から消える。ニンジャスレイヤーは唸り声を残して踵を返し、上へと向かった。 73
2012-09-04 02:17:33シャドウウィーヴは朦朧とした意識のまま、影の操り人形とともに、カワラ屋根を転がり落ちた。下階の屋根に叩きつけられ、さらに転がり、灯篭に引っ掛かって止まった。末端から消滅し胸像のごとき有様となった師と並んで、中庭を眺める。暗黒物質の間欠泉がそこかしこで高々と吹き上がっていた。 74
2012-09-04 02:25:33あの狂った快楽殺人者の耳障りな笑い声や、パーガトリーのカラテシャウトが彼方で聞こえ、彼の鼓膜を引っ掻く。これが現実だと言わんばかりに。全身が軋み、もはや動けない。彼は涙を浮かべ、嗚咽しながら、無表情な師の眼を覗き込んだ。「何故最後に貴方を動かせたか、俺は知ってるんです……」 75
2012-09-04 02:35:22「死は、無慈悲で、ブルタルだと」レイジは歯を食いしばった。既に影の鎧は消え細身のパーカーとジーンズめいたぼろぼろの装束だけが残っていた。「反抗したんです……死は……認めたくない!死は!慈悲深く、優しく、撫でるように!ああ!そうでなかったら、彼女は微笑みながら死ななかった!」 76
2012-09-04 02:43:50「彼女はただの人間で、狂っていたけれど」シャドウウィーヴは泣き咽びながら、幻影の師匠を見た。自らの妄執が作り出した影を。その影はすでに生首ほどの大きさになり、人形めいた無表情を続けていた。師に何度も否定された人間性の脆弱さが最後に自分を救った。その意味する所は明らかだった。 77
2012-09-04 02:54:33レイジは、自らの死がすぐそこに迫っていることを悟った。彼の閉じた空想の中で、蒼ざめた馬の蹄音が聞こえてきたからだ。「マスター、ありがとうございました、生まれて初めて尊敬した人だった。でも俺は結局、ニンジャにすらなれなかった。サヨナラ……!」すると影の生首は雲散霧消した。 78
2012-09-04 02:59:47「…………」力を失ったレイジは、平安時代製の苔むした見事な御影石の灯篭にもたれた。その冷たい石を、自らのオブツダンと定めたかのように。彼の後ろに伸びる影は、無自覚のまま細く細く編み上げられて影の紙を作り、何度もくしゃくしゃに丸まってから、食卓につく幸せな家族の影絵を作った。 79
2012-09-04 03:07:58「ああ、俺の人生は終わった!それほど悪くなかったな!できることなら、俺の自分勝手な想像の中で死なせてくれ!…死よ!死よ!お前がもし今、蒼ざめた馬に乗って現れるなら、僕はこの首を差し出そう!」背後の影が波うち大きく編まれ、死せる馬に跨り鎌を持つ、幻想的な死神の姿を取り始めた。 80
2012-09-04 03:13:09流れ弾となったパーガトリーのカラテミサイルが、彼方から飛来する。レイジは覚悟を決め、物語に幕を下ろし、自分勝手な死を望んだ。彼の預かり知らぬまま、影で編まれた死神が、大鎌を振り上げる。彼の首を一思いに撥ね、醜い現実に蓋をするために。「サヨナラ!」レイジは血咳を吐き、叫んだ! 81
2012-09-04 03:18:48だが……ALAS!あの夜、彼の胸に宿った同居人は、その自分勝手な死を認めようとはしなかったのだ!幻影の死神は無数の影の糸になってほつれ、代わりに彼の体を牢獄の如く包み始める!「……嫌だ!」聡くも何かを察知したレイジは、恐怖の表情を浮かべた「……嫌だ!この先には闇しかない!」 82
2012-09-04 03:25:14「セプクを!」レイジが末期の叫びの如く突き出した腕を、影が包み込む。レイジは自我が混濁してゆくのを感じた。ようやく純粋な、けがれ無き存在になれたはずが、救いが、遠ざかってゆく。彼に憑依したニンジャソウルは、この上なく無慈悲であった。次の瞬間、シャドウドラゴンが身をもたげた。 83
2012-09-04 03:31:19第2部「キョート殺伐都市」より:「キョート:ヘル・オン・アース」急「ラスト・スキャッティング・サーフィス」#5終わり #6へ続く
2012-09-04 03:32:24