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山本七平bot @yamamoto7hei
1】一体小松氏は、いかなる動機でこの『虜人日記』を書いたのであろう。人が何かを書く場合、必ず動機があるはずである。<『なぜ日本は敗れるのか』
山本七平bot @yamamoto7hei
2】横井・小野田両氏の場合も何らかの動機があったであろう。だがその動機が何であれ、小松氏のように「経験した敗戦の記憶がぼけない内に何か書き止めておきたい気持」いわば時間と共に流れ去り消え去っていくものを文字に固定してつなぎとめておこう、という気持でなかった事だけは確かである。
山本七平bot @yamamoto7hei
3】もしそういう動機が両氏にあれば、小松氏のように苦心惨憺して書写材料を自ら創作しても、終戦直後のことを書き留めておいた筈である。二人の動機は小松氏と違い、その動機の中にすでに読者が想定されている。だが小松氏にはそれがない。
山本七平bot @yamamoto7hei
4】これが同氏と小松氏の動機の違いであり、その違いは結局、その内容の決定的な違いとなっている。といっても、由紀夫人の「編集にあたって」には「いつか出版したいと思っていたようでございますが、遂にその機会を得ないまま……」とある。
山本七平bot @yamamoto7hei
5】従って小松氏に、出版の意図が全くなかったとはいえない。だがこのことは、その動機の中に読者を想定することとは別なのである。ではそれは、どのように違うのか。…前述のN少尉は、U軍曹の戦死の情況を遺族に書き送った。従って、N少尉の念頭に遺族がなかったとはいえない。
山本七平bot @yamamoto7hei
6】しかし手紙を見て遺族が激怒した。もし彼がその要請に応じて釈明に行ったらどうなるか。簡単にいえばこのとき彼は遺族を意識し、遺族の取材に応じたわけである。そしてこのときの意識と、はじめて手紙を送ったときの意識ははっきり別であり、遺族を意識しているから両者は同じだとはいえない。
山本七平bot @yamamoto7hei
7】これが前述の「違い」である。後者は、遺族の頭の中にある「予定稿」を意識しているのである。そしてそこへ行けば、たとえN少尉が一言の虚偽も口にしなくとも、相手は、自分の予定稿に適合した部分しか取材せず、自分の予定稿の裏づけの言葉しか聞こうとしない。
山本七平bot @yamamoto7hei
8】従ってそこにあるものは、対話の如くに見えながら、実は、遺族の独白にすぎないのである。人はこの場合どうすべきか。予定稿に組み込まれ、はみ出した部分は捨てられることを覚悟して、何か言うべきか。それともN少尉のように沈黙で押し通すか。
山本七平bot @yamamoto7hei
1】私はここで、『月刊エコノミスト』(1974年12月号〕に載った田原総一朗氏の「わたしのアメリカ」の中の「ベトナム帰還兵」からの取材の状況を思い出さざるを得ない。大分長いが次に引用させていただく。<『なぜ日本は敗れるのか』
山本七平bot @yamamoto7hei
2】《帰還兵たちは、私達を取り囲むようにカメラの周りに集まって来た。私は手あたりしだいに彼らの一人一人にマイクを向けて言った。【田原】あなたはベトナムに行っていましたか?「行っていた」海兵隊の帽子をかぶった兵隊だった。》
山本七平bot @yamamoto7hei
3】《【田原】ベトナムで何をしていましたか?「ヘリコプターで運ばれて、裏面に廻って敵をやっつけた」【田原】何人ぐらい殺した?「よく憶えていないし、言いたくもない。(中略)……」隣には長髪に髭を生やした男がいた。【田原】あなたもベトナムに行ってましたか?「陸軍の作戦に参加した」》
山本七平bot @yamamoto7hei
4】《【田原】貴方の役割は?「機関銃を撃っていた。チライという所の戦闘では五十mぐらいの距離で敵と撃ち合った事があった」【田原】何人を殺したか?「よくはわからないが、五、六人には当たったように思う」【田原】貴方もベトナムに行っていましたか?「行っていた」…【田原】直接戦闘は?》
山本七平bot @yamamoto7hei
5】《「答えたくない。ただその時は何かを感じる余裕もなかった。いまでは勿論よくない事だと思っている」…終わりまで聞かずに私はその兵隊の前を離れた。何人かの帰還兵の話を聞きながら、私はいらいらしはじめていた。帰還兵達は私の質問に何の疑問もはさまずに実に素直に答える。》
山本七平bot @yamamoto7hei
6】《しかもその答えはまるで口を合わせた様に直接の殺し合いの話になると、よく憶えていない、話したくない、殺したかも…と言葉を濁し、最後にその時は悪いと思っていなかった、判断するゆとりさえもなかったが今では…とくる。まるでパターンだ。どれもがもっともらしい言い逃れのパターンである》
山本七平bot @yamamoto7hei
7】《本当は人間を殺すときに人間は何を思うのか、殺しの手応えとはどういうものなのか。たてまえではない、良心ぶった弁解ではなく、もっと本音が聞きたい。》
山本七平bot @yamamoto7hei
8】《本音が出ないのは、逆にいえば殺人殺戮と向かい合う、自分がかつてやった行為と向かい合うのを避けている、逃げている、ごまかしていることではないのか、と、私は次第に露骨に挑発的に、まるで喧嘩を売るように帰還兵たちに言葉をぶっつけていった。》
山本七平bot @yamamoto7hei
9】《【田原】人を殺すのは本当に悪いことなのか「ベトコンのほうだって殺人をしているじゃないか」【田原】なぜ、ベトナムの戦場では殺人が、戦争が悪いとは思わず、さんざん人殺しをした後で、悪かったなどと言ってみせるのか》
山本七平bot @yamamoto7hei
10】《【田原】つまりは、あなた方は自分の行為の免罪符を得ようとしているだけではないのか?その時だった。一人の男が割り込んで来ていきなりマイクをひったくろうとした。録音担当の安田哲男はデンスケを担いだまま路上に転び、カメラマンの宮内一徳はカメラをまわしながら逆に男に接近した。》
山本七平bot @yamamoto7hei
11】《「何のためにフィルムを撮るんだ。誰に断ったのか」男は大声で怒鳴り、腕をふりあげて宮内カメラマンのほうに向かう。何人かが、男に同調して、「ジャップ、取材をやめろ」と叫ぶ。…「お前ら日本人には話す必要はない」【田原】なぜだ。私達が東洋人だからって馬鹿にしているのか。》
山本七平bot @yamamoto7hei
12】《「無責任な野次馬だからだ。日本人はベトナム戦争を高見の見物で、そのくせごっそりと特需でもうけている。ベトナム戦争をくいものにして、さらにフィルムに撮って商売しようっていう魂胆なのだろう?」》
山本七平bot @yamamoto7hei
13】確かにこの記者(註: #田原総一朗 )の言っていることは御立派なのだ。全くやりきれないほど御立派なのだ。もちろん取材をうけているのは私ではない。しかしこれを読んでいるうちに、私はいつしか自分が取材をうけているような妙な気持になってきた。
山本七平bot @yamamoto7hei
14】「どれもがもっともらしい言い逃れのパターンである」と記者は断定している。「言い逃れ」、一体「言い逃れ」とは何を意味しているのだ。これはU軍曹の遺族がN少尉に言った言葉だ。
山本七平bot @yamamoto7hei
15】だが、これも結局は記者の「予定稿」にはまらないということであって、兵士は、N少尉同様、一言も言い逃れなどはしていない。この兵士の言い方は、確かにN少尉の言い方である。最も正直な言葉なのだ。一体この記者は、兵士が何と言えば、「言い逃れでない」と認めるつもりなのか!
山本七平bot @yamamoto7hei
16】もしもある兵士が、もっと巧みな言い逃れ、すなわち相手の予定稿通りのことをいえば、この記者はそれを「言い逃れでない」と認めるであろう。それはU軍曹の遺族が要求したことだ。
山本七平bot @yamamoto7hei
17】常にくりかえされるこの同じこと――N少尉が、遺族を訪れて「最も巧みな言い逃れ」をやれば、相手はそれに満足し「言い逃れでない」と感ずること。だが相手がそう感じたということは、対話が成立したことではない。否、逆であって、両者の間が決定的に断絶した、ということなのである。
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コメント

山本八平 @yamamoto8hei 2012年12月23日
田原総一朗 @namatahara のふざけたTWで、昔読んだ山本七平の田原批判↓を思い出した。昔から予定稿以外は切り捨ててしまうロクでも無いジャーナリストだったな。
故郷求めて @furusatochan 2013年3月19日
津波から必死で逃れた人のツイートに、このベトナム帰還兵と同じような話があったのを思い出した。日本に「田原総一朗」は大勢いる。
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