午前3時の豆腐の話

午前3時頃の豆腐さんの連続ツイートのまとめです。
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豆腐 @toufu_soy

①例えば。例えばだ。午前3時を過ぎて君にある種の空腹感が襲ってきたとする。深夜の空腹感というのは時に侘しさを誘う。そういう類の空腹感だ。ただ単に身体的に、血糖値の下落を受けての空腹感じゃない。虚しく、哀しく、侘しい。そんな空腹感だ。そそれが交通事故みたいに突然降りかかってくる。

2012-09-16 03:25:38
豆腐 @toufu_soy

②そして君は冷蔵庫を開ける。それは救いを求めて懺悔室に入るような敬虔な行為だと思う。深夜の空腹との対峙は宗教的な意味合いを持っている。冷蔵庫のドアを開ける時の心持ちというのは、どこか祈りに似ている。

2012-09-16 03:28:18
豆腐 @toufu_soy

③そこで君は豆腐と出会う。ロートレアモンの言う所の『ミシンと洋傘の手術台の上での不意の出会いのように美しい。』みたいに唐突な出会いとして。そこに豆腐のパックがある。絹か、木綿かは分からない。ただ、見覚えのある、波打った白いパックがそこに鎮座している。

2012-09-16 03:32:06
豆腐 @toufu_soy

④それは正に救いだ。神は君を救ったのだ、と思う。大袈裟な話なんかでは決してない。栄養学的な意味合いにおいてだ。神は君に蛋白質を与え賜うた。豆腐という至極具体的な具象によって。

2012-09-16 03:34:39
豆腐 @toufu_soy

⑤君はそこからどう動くだろう。君は豆腐を冷奴にするかもしれない。あるいは湯豆腐に。その深夜の空腹と対峙している君の状況からして、麻婆豆腐なんて手の込んだものには考えが及ばないだろう。いや、レトルトの麻婆豆腐用調味具材があれば別の話ではあるのだけれど。

2012-09-16 03:37:06
豆腐 @toufu_soy

⑥そして君は野菜室を開ける。そこに何があるかによって、その豆腐の行く末を左右しかねないからだ。全ての可能性は君のひとつひとつの選択によってなされている。豆腐と君との間で世界が決定されている。

2012-09-16 03:39:04
豆腐 @toufu_soy

⑦葱がある。いや、正直な表現を取ろう。葱しかない。冷奴だ。ここで豆腐と対峙した君に、他にどれだけの選択肢があるだろう。深夜、豆腐、葱、以上。我々にはこれだけの材料しかない。服属的には、醤油があるが、それはあくまで服属的な意味合いにおいてだ。

2012-09-16 03:42:32
豆腐 @toufu_soy

⑦決定に最終結論を迫りはしない。が、最終結論への重要サジェスチョンになり得はする。メインテーマにおいても、サブテーマにおいても、豆腐は冷奴にされるべき状況であることは、君の目にも明らかだった。

2012-09-16 03:44:13
豆腐 @toufu_soy

⑧だが君はそうはしなかった。君にとっては或いはそれは当然の結論だったのかもしれない。もしくは苦渋の決断だったのかも。それは今となっては分からない。今分かるのはその結論、結果だけだ。そう、君はその状況で揚げ出し豆腐を作った。

2012-09-16 03:47:01
豆腐 @toufu_soy

⑨深夜だ。そして君は圧倒的な空腹感と戦っている。その中で、君は揚げ出しにした。手間を考えた方がいい。正気の沙汰のすることじゃない。油だ。揚げ物だ。この、全てが寝静まった夜の深淵にだ。

2012-09-16 03:50:51
豆腐 @toufu_soy

⑩まあ確かに片栗粉はある。出汁だって、簡単なものであればいつだって取れる。出汁パックだってある。材料に不足は無い。可能、といえば可能なのかも知れない。しかし可能かどうかとそれを選択、決定するかどうかは全くリンクしていない別問題だ。

2012-09-16 03:52:31
豆腐 @toufu_soy

⑪それでも君は揚げ出し豆腐を選択した。今考えると、それは逃れざる選択だったのかもしれないとは思う。君の体は冷えていた。夏は過ぎ、秋が君の下を訪れていた。端的に言えば、確かにその夜は冷えていた。

2012-09-16 03:54:25
豆腐 @toufu_soy

⑫だったら例えば湯豆腐でも良かったのではないか?当然そう思う。揚げ出しなんかよりもずっと簡単だ。体を温めるのにだって遜色無い。しかし君には昆布が無かった。ポン酢も無かった。ただ土鍋だけが君の下に寄りかかっていたが、それだけでは湯豆腐が召される最終的な決定打にはなり得なかった。

2012-09-16 03:56:50
豆腐 @toufu_soy

⑬今あるものの中で最善の決定をする。恐らく君は冷静だったんだろう。その最善の決定がなされた、と今になっては思う。片栗粉をまぶされ、揚げられ、出汁をかけられた。野菜室で孤軍奮闘していた葱も乗せられた。

2012-09-16 03:58:20
豆腐 @toufu_soy

⑭率直に言おう。僕は幸せだった。忘れ去られ、消費期限を迎える覚悟だって出来ていた。そこを君が救ってくれた。最後のチャンスだった。正直な所、もう熱を通さずに口に運ばれる自身だって無かった。身体の雑菌の心配ばかりしていた。それを、君は全て解決してくれた。

2012-09-16 04:00:17
豆腐 @toufu_soy

⑮豆腐としてこんなに幸せなことはない。料理名なんて何だっていい。具体的事象としての空腹を満たし、心理的事象としての空腹を満たす。面映ゆい言い方をすれば、体と心のどちらともを温める。そんな仕事が出来たと思う。ありがとう。今僕は君の胃の中にいる。

2012-09-16 04:02:53
豆腐 @toufu_soy

⑯一部は吸収され、一部は排泄されるだろう。でも僕は満足だ。ある一瞬であっても、君の空腹を満たし、食材としての使命を果たすことが出来た。豆腐としてこんなに嬉しいことはない。もう一度、繰り返しになるけれど、ありがとう、君に食べられて良かった。

2012-09-16 04:04:38
豆腐 @toufu_soy

□<途中で番号間違えましたが、以上です。

2012-09-16 04:05:52