甲状腺癌スクリーニングを行う意義について考えてみた

福島県の小児に対する甲状腺癌スクリーニング検査が行われて、現時点で1例の患者が見つかっています。 まあ、空騒ぎという感も否めないわけですが、基本は現時点でのデータはベースラインで、今後このコホートで継続的にデータをとっていくことが必要なわけです。 で、これからどのように考えていくべきかちょっとまとめてみました。
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地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

これを「非被曝群」の有病率に対して福島県での有病率がどれくらい増えたら「有意に」増加が検出されるか、ということになる。http://t.co/V2KZsN47 に示された方法で計算してみる。

2012-09-22 21:40:28
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

有意水準5%(片側検定)、検出力10%として、倍に増加したら差が有意と検出できるなら各群32万例、3倍なら約10万例、4倍なら約6万例。今の福島県で8万例ということなので、大体約4倍くらいに増えたら有意、ということがわかることになる。

2012-09-22 21:41:06
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

jun_makinoさんはhttps://t.co/3qjVfdCB で結節発生頻度を調べる対照として他地域で1万例とれば十分とツイートしているけれど、これはhttp://t.co/ZRGQ1pdMの前後のやり取りから読んでも意味と根拠が不明。

2012-09-22 21:43:46
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

5mm以上の結節は大体被験者の0.5%。甲状腺癌発症率が結節発生率に比例するなら、上記の検討を踏まえてもし他地域で結節の頻度が0.1%強である(つまり福島の1/4程度の頻度)としたらせいぜい4000例あれば十分だし、逆に差が±0.1%以内で同等ということを示すなら約8万例必要。

2012-09-22 21:43:59
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

1万例という数値は「帯に短し襷に長し」では? そもそも結節保有率がわかったところであまり意味ないのではないかとも考えられるし。第一、上で推測した小児甲状腺癌の有病率から考えるとそれで出た結果はミスリーディングなものになりかねない。

2012-09-22 21:44:10
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

まあ、なんとしても「増えたこと」にしたいのであれば話は別だけど(違

2012-09-22 21:44:45
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

1万分のゼロは100万人分の7.5と違う、という変なことを言い出す人がいるからなあ。いずれにしても臨床研究で「まずは…」というのはあまり感心する態度ではない。考察、結論がgdgdのジャンクデータにしかならないと思う。

2012-09-22 21:45:05
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

もし、まず5mm以上の結節を有する被験者(リスク群)を見つけようとして一次スクリーニング(超音波検査)を行うとすると、今の値(0.5%)がベースラインであると仮定して(つまり福島県と他地域で同じ発生率と仮定)、(続く)

2012-09-22 21:45:34
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

(承前)福島県内および県外であわせて15~20万人を検査するとして、750人~1000人/年くらいのB判定以上の被験者が発生することになる。このうち5分の1くらいが実際に針をぶっ刺して確定診断するんだとすると…

2012-09-22 21:45:59
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

その集団に存在する甲状腺癌患者は高々数人。つまり、数人のためにその100倍以上のがん患者でない子どもに針を刺す行為が正当化されるか?福島県でこれをやるのはそれなりの正当性があるとしても、他地域でこれを行う正当性があるかがまず第一の倫理的問題。

2012-09-22 21:46:14
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

もう一つは、他地域で対照を取り、積極的に甲状腺癌を見つけるという行為が仮に正当性を有するのだとしたら、対照地域に選ばれなかった地域はどうなるのか?そこでは甲状腺癌を現状のままの発見体制のままでよいという正当性がないことが第二の倫理的問題となるだろう。

2012-09-22 21:46:47
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

まあ、倫理的問題だけを考えても福島県以外の土地でコントロールデータを取ることはあまり適切ではないだろうな。設備やマンパワー的に考えても難しいだろうし。

2012-09-22 21:47:16
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

一次検診の超音波、大体5分/人くらいかかる。http://t.co/HYCaCPvS 5分×8万=400万分=6667時間は福島県で要したということになるわけで、1日8時間検査をぶっ通しでしたとしても延べ833日かかる。複数台超音波検査装置を用意したのだろうけど。

2012-09-22 21:47:28
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

機械をそれ以外の地域で増強するのは、目的とそこから得られる結果、受診者の利益、機械を操作するスタッフの教育と増強、いろいろ考慮しなければいけないし、有所見者の病理診断だって相当負担になる。

2012-09-22 21:48:15
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

そもそも、より緊急性のある癌患者(もしくは癌が疑われる患者)の病理診断に通常は追われていることを考慮すれば病理医が甲状腺癌の診断にかかりっきりになるのは無理と思われる。それによって他のがん患者が不利益を蒙るのだとすれば、それもよろしくないことで

2012-09-22 21:48:50
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

コホート研究の場合、同じ集団を継続的に検査し続けることが研究デザイン上必要で、出来るだけ脱落なくコンプライアンスのよい試験でなければいけないわけで、更にハードルは高そう。

2012-09-22 21:49:06
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

で、「見つけようとして見つかった」癌とそうでない癌で予後が大きく変わるのであれば、早期発見は意義がある。任意型検診で見つかった癌の方が対策型検診で見つかった癌より予後がよい肺癌なんかは「見つけようとして見つける」意義はある。

2012-09-22 21:49:19
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

しかし、そもそも積極的に「見つけようとして」いなかった甲状腺癌が、それでも予後良好ということを考えると、他の疾患との優先順位から考えるとあまり検診を積極的に展開してもメリットが小さい。

2012-09-22 21:49:31
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

小児甲状腺癌は、チェルノブイリの事故の時に放射性物質に起因して増加したことがほぼ確実といわれている現時点では唯一の疾患であるけれど、他の癌が「増えていない」ことを意味するものではないわけで。

2012-09-22 21:49:46
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

これは、相対リスク(とその有意性)にばかり目が行っていると陥りがちな罠で、現時点でERRが小さくて有意でなかったとしても、ベースの絶対リスクが大きい疾患が住民にもたらしている健康被害の方が大きい、ということはあるわけで、そこはきちんと見積もる必要あり。

2012-09-22 21:50:30
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

↑これはLSS研究とかでも言えることだけど、追跡期間が完了していない時点での「○○の増加は有意だが、××の増加は有意でない」という結論がいつの間にか「○○は増えるが、××は増えない」にすり替わりがちなので要注意。

2012-09-22 21:50:42
地下楽師@Ph.D @tonkyo_Vc

観察対象を甲状腺癌に限ってしまったら、他地域で「対照データ」をとる意味はないだろうな、というのが正直な感触。それよりもストレスフルな生活環境が及ぼす影響についての評価をメインに据えて行う研究ならはるかに意味があると思うが。 とりあえず、今日はここまで。お騒がせしました。

2012-09-22 21:51:20