キリング・フィールド・サップーケイ #1
「アイエエエエ……そ、そいつを早くどうにかするんだ!大変なことになるぞ!」ヒロシ・ヤスオは脂汗をかきながらUNIXを操作し、クレーンの腕を旋回させる。殺し屋から少しでも距離を取るためだ。「「ウオーッ!」」2人の傭兵は覚悟を決め、トンファーを振り回しながら同時突撃した! 22
2012-09-22 23:00:01だが殺し屋は瞬時に立膝状態を作ってトンファーをかわし、左右の股間にダーカイ掌打を叩き込んだのだ。「イヤーッ!」ボールブレイカー!「コワイ!」ヤスオは両手で目を覆った。部屋の隅で、ワータヌキの置物だけがその惨劇を呆然と直視する。傭兵たちは無言で倒れ、ワームじみて痙攣していた。 23
2012-09-22 23:12:56「おい、降りて来いよ。テメェを殺しに来たんだ」デソレイションは懐からサケトクリを取り出すと、ケミカルコール臭い息を吐きながらゆっくり立ち上がった。「雇われたのか?そ、そいつより多く払うぞ」ヤスオがどもる。『主に祈れ』スクリーンではあの男がオープニングの決め台詞を吐いていた。 24
2012-09-22 23:24:14「そういう問題じゃねえのさ、美学だよ美学」「アーレエーッ!」デソレイションは助けを求めてすがり付いてきた奴隷ゴスのひとりを邪険に蹴り転がしてから、UNIX椅子に向かって歩み寄る。ヨタモノめいた角度で首をかしげながら。「アイエエエエ……」ヤスオが絶望のあまり失禁した、その時。 25
2012-09-22 23:33:42突如、床に敷かれたタタミの一枚が精巧なメカニズムによって回転し、黄色ニンジャ装束のニンジャが飛び出したのだ。「ムウーン!」太陽飾りの武者兜を被ったその逞しいニンジャは、素早い五連続側転を決めてデソレイションの前に立ちはだかる。「ドーモ、遅くなりました、レイディアンスです」 26
2012-09-22 23:44:51ごく短い静寂。映画配給会社からのウィルス攻撃が開始されたのか、天井を這うLANケーブルの何本かがバチバチと蒼白い火花を散らし、対峙する二者の顔を病的に照らし出した。「……ドーモ、デソレイションです」彼は身じろぎもせず、真白い眼でニンジャを睨み返しながら、殺す方法を算段した。 27
2012-09-22 23:59:16「どうだ解ったか!このイディオットめ!」レイディアンスの到着にヤスオは俄然勇気付けられ、殺人ウイルスへの対抗ハッキングを再開していた。「裏社会の人間なら、アマクダリ・セクトの名を聞いたことがあるだろう!このハッカー・バロンに逆らうことは、アマクダリに逆らうも同然なんだぞ!」 28
2012-09-23 00:08:52デソレイションとレイディアンスは、タタミ2枚の距離でカラテを構えて向かい合い、ライターが擦られればたちまち爆発しそうなほどの一触即発アトモスフィアを漂わせていた。両者の額にじわりと汗が滲む。 29
2012-09-23 00:21:23(((ハメられたか?いや、依頼者は堅気で、動機はヤスオへの怨みだ)))デソレイションはこの一件がアマクダリ絡みとは知らなかった。ただ、その組織がどれほど強大かは知っている。だが……荒んだ胸の奥に、暴威の風が吹いた。「今更しょうがねえ、殺すぞ」デソレイションは捨て鉢に笑った。 30
2012-09-23 00:35:31「ムウーン!」レイディアンスが動いた。タタミに深く跡が残るほど強く爪先で足場を蹴り、ロケットめいた速度で前方に突撃しながら、強烈なカラテ・パンチを繰り出したのだ。「イヤーッ!」それを掌でいなすデソレイション。掌打!それを払うレイディアンス。裏拳!いなす!掌打!払う!いなす! 31
2012-09-23 00:48:01掌打!「イヤーッ!」ヨコヅナ・スラップめいた一撃が、武者兜の隙間を縫って敵の右頬に叩き込まれる。だが浅い!「ムウーン!」レイディアンスは一撃で勝負を決めるべく、カラテの大技ローリング・ソバットを繰り出した。……コッポ掌打によって、わずかに三半規管が狂ったことに気付かぬまま。 32
2012-09-23 00:55:30「イヤーッ!」デソレイションは威力の減じたカラテキックを胸板で食らいながら受け止め、相手の脚を片腕でがっちりとホールドした。「ムウーン!」危険を察知したレイディアンスが、奥の手であるヒカリ・ジツを全身から放つ!漢字サーチライト並の光の爆発だ!「ウワーッ!」ヤスオが絶叫する! 33
2012-09-23 01:03:03デソレイションもまた義眼の閾値エラーによって一瞬視界を奪われ、真白い虚無の世界に立っていた。だが彼はブザマに隙を作ることなどなかった。敵の足を掴んだ瞬間から、コッポ・ドーの殺人連続カラテムーブを開始していた。彼の精神ははじめから、荒漠たるサップーケイ世界に立っていたからだ。 34
2012-09-23 01:26:27破壊すべき敵の肉体部位がどこにあるかは、見えずとも解る。掴んだ敵の足の筋肉が、どのように収縮し、がら空きになった敵の無防備股間が、どのように右斜め下に移動したか……そこへ寸分の狂いもなく、デソレイションの掬い上げるような掌打が!「イヤーッ!」「グワーッ!」ボールブレイカー! 35
2012-09-23 01:34:41レイディアンスはワータヌキめいて目を見開き、全身の骨を砕かれたかのごとく、力無く仰向けに倒れた。デソレイションは未だ敵の右足首をホールドしたままであった。フィニッシュ・ムーブはまだ続いていたのだ。覚束ない意識のまま、レイディアンスは確信する。相手もまたニンジャであったと。 36
2012-09-23 01:55:01「……」デソレイションはタタミに倒れる敵の股間に狙いを定めて片足を上げ、そしてコッポ・キックを容赦なく叩き下ろす。シャウトすらなく無言のまま。ビッグバンめいた激痛がレイディアンスの下腹部を中心に広がり、そして荒廃だけが残された。「サヨナラ!」レイディアンスは悶死し爆発四散! 37
2012-09-23 02:01:43それは人力テクノめいた背筋が凍るほどのシステマティック殺人術であった。彼はただひたすら、最も効果的な弱点を容赦なく狙うだけだ。平安時代に封印されたというこの魔技を振るう者は、あらゆる良心と人間味と敬意を捨て去ることを要求された。そしてデソレイションとはそのような男であった。 38
2012-09-23 02:20:35「そんな……レイディアンス=サンが……」閃光による衝撃から回復したヒロシ・ヤスオは、爆煙を掻き分けて近づいてくる殺し屋を見下ろした。ヤスオは高所のUNIX椅子に座ったまま、両手を上げて命乞いをする。「ジーザスIVの違法ファイルをあげます……!数億のカネが動きますから……!」 39
2012-09-23 22:51:49ヤスオが対抗ハッキングを止めたことで、再び映画配給会社の殺人UNIXウイルスが流入してくる。部屋の隅に積まれたUNIXモニタの一台が爆発した。ヤスオはLAN直結者ではないため、辛うじて命拾いしている。LAN直結には、ウイルス攻撃でニューロンを焼き切られるリスクがあるからだ。 40
2012-09-23 22:57:41「おい、降りて来い、そうしたら少し楽に殺してやる」暗闇の中、スクリーンの明かりに照らし出されたデソレイションは、バロン・ハッカーを見上げて心底気怠そうに言った。デソレイションの顔に表情はなく、電脳オイランハウスで情事を終えたばかりの無頼漢めいた無表情であった。 41
2012-09-23 23:03:36「ハイ、今降ります」ヤスオが両手を上げたまま言った。だが彼には降りる気などなかった。下腹部にインプラントされた小型サイバネ・アーム2本が音も無く密かに展開し、キーボードをタイプしていたからだ!そのカニング行為はUNIX椅子のモニタに隠され、デソレイションからは全く見えない! 42
2012-09-23 23:18:10BRATATATA!UNIX椅子の底部が展開し、ミニガンが火を噴く!だが「イヤーッ!」デソレイションは流れるようなブリッジで射撃を回避し、懐に隠していたスリケンを投げ放った!「アバーッ!」スリケンはヤスオの額に突き刺さる。ナムサン!ハッカーは体を左によろめかせて落下した。 43
2012-09-23 23:26:11額からスリケンを生やしながらも、ヤスオにはまだ息があった。そうなるように加減したからだ。デソレイションはタタミに仰向けになったヤスオを見下ろし唾を吐きながら、サイバネ義眼の撮影モードをONにした。「面倒だしチャカか何かで殺してえが……こうしねえと、依頼人が納得しねえんだよ」 44
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