山本七平botまとめ/日本人がいまだに患っている厄介な日本病「純粋信仰」

山本七平・岸田秀の対談集『日本人と「日本病」について』より抜粋引用
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山本七平bot @yamamoto7hei

26】【山本】それはちょうど、共産政権成立の由来を細かく分析されたのでは、スターリンも毛沢東も困ってしまう、それと同じ事情があったわけです。伊藤博文なんて、どうみても純粋じゃありませんからねえ。(笑)

2012-09-27 10:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

27】【岸田】ぼくはこれを例によって精神分析的に眺めるわけですが、結局、明治という時代は突然かつてない外圧にさらされた時代であったということですよね。したがって、日本はまず列強と対応しなくてはならなかった。と同時に、日本人としてのプライドも維持せねばならなかった。

2012-09-27 10:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

28】【岸田】この二つの側面が分裂してしまったという事でしょう。裕福な時代にあっては民族の誇りを保ちつつ、自らの現実的な生存を図るという事はさほど難しくない。しかし危機の時代、明治維新にあってはプライドを守る為には尊皇攘夷を実行するしかなかった。力さえあれば攘夷を打ち出した訳です

2012-09-27 11:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

29】【岸田】ところが、これは現実問題として民族の生存を図る方向と二律背反の関係にならざるを得ない。【山本】そうなりますね。【岸田】プライドを守れば滅びるし、適応すれば屈辱だ。日本という国家が二つの方向に分裂していた。

2012-09-27 11:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

30】【岸田】そして、その現実条件を無視してひたすら誇りを守ろうとした代表が松陰であったと、ぼくは考えるわけです。現実的な条件というものは必ず醜く、塵にまみれておりますから、それを無視することによって純粋さを保ったということですね。

2012-09-27 12:28:05
山本七平bot @yamamoto7hei

31】【岸田】大正期は、日清、日露の戦争に一応勝って、第一次大戦では大儲けをして、明治以後唯一のゆとりのあった時代だったと思うんです。だからこそ大正デモクラシーも可能だったし、明治以降の天皇制を誇大妄想狂にたとえるなら、その鎮静期にあたる。

2012-09-27 12:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

32】【岸田】分裂病患者の誇大妄想も、非常な危機にさらされると昂進するし、ゆとりのある時期にはしずまるらしいんですよ。吉田松陰という人は、自分の現実的な生命の安全などは考えなかった、その生き方からも純粋の元祖としての資格があるわけですね。

2012-09-27 13:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

33】【岸田】自分の得にならないことをすることが、純粋さの不可欠の条件なんです。彼は牢につながれても自分の主義主張を隠さず、逆に、牢番を説得しようとして、バレてしまうわけでしょう。正しいことを訴えれば理解されるという……。

2012-09-27 13:57:51
山本七平bot @yamamoto7hei

34】【山本】たしかに純粋だ。一心に訴えているのに耳を傾けないほうが悪い。これは「学生たちがあんなに自分をむなしくして熱心に訴えているのに、真剣に対応しなかった自分たちが悪い」という、大学の先生の自己批判に通じるものがありますね。

2012-09-27 14:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

35】【岸田】そうですね。留守中に女子学生の下宿にあがり込み、帰ってきたところを襲って強姦した男がいましたが、その言い草に唖然としたんですがね。「おれは真剣に彼女を愛してるんだ。これほど純粋な愛が通じないはずはない。おれの気持はそのうち必ず彼女にわかってもらえる。(続

2012-09-27 14:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

36】続>おれの場合は、ちょっと見かけた女にいやらしい助平心を起こして遊び半分に襲ったのとは違うのだから、強姦じゃない。責められる理由はない」と言うんですよ。本気でそう思っているんです。彼女は、彼がどこの誰か、顔も知らなかったんですよ。

2012-09-27 15:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

37】【岸田】見知らぬ男に突然襲われて処女を奪われた彼女の気持なんか眼中になくて、自分の「純粋な気持」だけが全てに優先し、それで全てが許されると思っているんです。純粋信仰から言えば、この場合も、彼の「純粋な愛」を理解しない彼女がわるいということになりますね。

2012-09-27 15:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

38】【山本】それで、その純粋信仰を現実の行動に反映させると、西郷隆盛のように「法」より「情」を絶対視するんです。西南戦争勃発のきっかけですが、彼の私学校の生徒が火薬庫を襲って兵器・弾薬を奪ったということを、彼は宮崎かどこかで聞くわけですね。もはや決起せざるを得ぬと意を決する。

2012-09-27 16:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

39】【山本】この場合、対策は二つしかないんです。一つはその青年を県令に引き渡すこと。彼は犯罪人ですから法的意識が先に立てば引き渡すことになります。それとも情において忍び得ずとばかり、その青年と心情的に一体化し、ほかの全てをもその青年の行動に巻きこんでしまうか、です。

2012-09-27 16:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

40】【山本】結果的には、後者を選んであれだけの大戦争を引きおこしてしまう。法的に行動して生徒に出頭を命じ、あとで政治的な代償、たとえば免訴の保証を得るなどという選択は不純なわけですよ。 【岸田】むしろ合理的に考えれば、西郷の弱さなんですがねえ……。

2012-09-27 17:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

41】【山本】人は彼の選択に弱さを見ない。 【岸田】日華事変の時だって不拡大方針の動きはあったけれども……。 【山本】声だけは始終きこえていた。 【岸田】それでは英霊にすまない、と。それまでに死んだ百人のムダな死をムダだと思いたくないばっかりに、千人も万人もムダ死にさせる。

2012-09-27 17:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

42】【山本】英霊というのは人間ではありませんからね。「この辺でやめようか」と尋ねても「相すまない」どころじゃない、「これ以上仲間が増えないように撤兵してくれ」と答えてくれる訳でもない(笑)日本では死人は神様ですが、人を神に祀るというこの伝統、一神教の社会では絶対みられませんね。

2012-09-27 18:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

43】【岸田】それは死ねば浮世の汚れから縁が切れるから、百パーセント純粋になれるんです。 【山本】おまけに純粋な行為の末、死んだのだとしたら、みんな松陰神社になりますな。(笑)~後略

2012-09-27 18:57:47