ゴブリン退治

火星から血と脂の薫りの重圧ファンタジーが届いた ゴブリンなめんな
14
前へ 1 2 ・・ 5 次へ
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

六人はミード(蜂蜜酒)と塩漬け肉に舌鼓を打った。「明日早々に発ちます」リーダーは村長に言った。「地図はありますか?」「地図?奴らの居場所はまだわかっておらんのです」「なんと」リーダーは顔をしかめた。「では、周囲の探索からですね」「……」村人達はひそひそ声を囁き交わした。

2012-09-21 14:07:45
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

その夜、ゴブリンは南側の防壁を乗り越え、襲いかかった。楽観的な「冒険者」たちを嘲笑うかのような襲撃であった。まず投げ込まれたのは爆竹だ。ただの爆竹ではない。目玉をくり抜かれ、歯を抜かれた人間の頭に、爆竹が詰め込んであるのだ。恐るべき行為である。村人達は泣き叫んだ。

2012-09-21 14:31:56
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

防壁から身を乗り出したゴブリン達は奇怪な雄叫びをあげた。言葉がわからずとも侮蔑のニュアンスは明らかだ。見張り役の村人の喉笛に、ゴブリンの投げ槍が突き刺さる。槍には禍々しい逆棘があり、抜く事ができない。もっとも、刺された時点でその見張り役は即死していた。ゴブリンが雪崩れ込んできた。

2012-09-21 14:38:12
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「夜襲だと!」充てがわれた家から冒険者リーダーが飛び出し、直後、投げ槍に胴体を貫かれた。投げ槍には鎖がついており、槍を投げたゴブリンが強靭な膂力でこの鎖を引っ張ると、串刺しの冒険者リーダーは宙を飛んで引き寄せられた。ゴブリン達は地面に投げ倒された彼を滅多刺しにして殺した。

2012-09-21 14:45:18
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

ゴブリンが二匹、冒険者リーダーに充てがわれた家に入って行った。中から女の悲鳴が聴こえてきた。村で三番目の美女であった。やがて悲鳴は止んだ。おぞましき行為が行われた。いまや悲鳴と殺戮、こぼれる内臓の臭気が村を満たしていた。冒険者の三人は三角形に密集し、必死にゴブリンと戦った。

2012-09-21 14:54:29
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

密集隊形の冒険者三人はうまく戦った。大抵のゴブリンは裸に腰布という姿であったから、剣で殺す事は可能だった。連携もよく取れていた。五匹ほど倒したところで、三人の武器の刃は血と脂でなまくらになり、息も上がり、一人は深手を負い、鎧を着た大ゴブリンが現れると、もはや士気は地に落ちていた。

2012-09-21 15:05:50
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

大ゴブリンは騎士の敬礼に似た動きで、大斧を掲げて見せた。明らかにそれは人間の戦士の文化を嘲る意図のもとで行われた動作だ。悲壮な決意のもと、三人の一人が剣を振り上げ、向かって行った。大ゴブリンが斧を振ると、彼の体は胴体から上下にわかれ、草の上に落ちて死んだ。

2012-09-21 15:17:41
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「お前ら、みなごろし、おれたち楽しみ」大ゴブリンは人間の言葉で発した。二人は上がらぬ腕でなんとか己の武器を支え直し、大ゴブリンに対する。大ゴブリンの後ろでは、朦朧とした修道僧がゴブリンに頭を掴まれ、引き摺られて行くところだった。二人は同時に斬りかかった。

2012-09-21 15:22:00
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

うち一人は横あいから別のゴブリンが投げつけた槍に頭を吹き飛ばされ、首無しの状態で大ゴブリンに剣を振り下ろし、そのまま前のめりに倒れて死んだ。もう一人の剣は大ゴブリンに届いたが、鋼の装甲の隙間を捉える事はできなかった。大ゴブリンは頭突きを喰らわせ、斧の柄で殴りつけて殺した。

2012-09-21 15:40:33
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

大ゴブリンは彼らの死体を蹴散らし、斧を振り上げて吼えた。ゴブリン達は奇声を上げて跳ね回った。何匹かは食糧やワインの樽を抱え、何匹かは死体を抱えていた。修道僧や数人の女の村人は、鎖に繋がれ、そのまま乱暴に引き摺られて行った。……これがその夜の襲撃の一部始終である。

2012-09-21 15:44:32
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

魔術師はどうなったであろう?魔術師は生き残った。村長の息子とともに辛くも逃げおおせたのだ。村人は他にも少しの生き残りがいた。地下倉に隠れた者達は発見されなかったのだ。魔術師はいかにして逃げおおせたのか、語り直す事は、この話を進めるにあたって重要である。ゆえに少し時間を巻き戻そう。

2012-09-21 15:53:24
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

……その夜、魔術師と修道僧は離れで睦みあっていた。(浮浪者じみただぶだぶのフードつき衣類を幾重にも着込んだ魔術師の性別は村人達には不詳であったが、女なのだ。)行為を終え、思い出したように修道僧は言った。「種族が違うという理由で問答無用に彼らを害虫扱いする事に、ためらいを覚えます」

2012-09-21 16:08:25
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「そんな事、考えたことも無かったけど」魔術師は言う。修道僧はやや熱っぽく語る。「少なくとも、武器を振るったり火を使ったりするのだから、彼らは文化的存在である筈だ。コミュニケーションを取るべきではないだろうか?彼らを殲滅し絶滅させる事が正義なのか?人類の傲慢でありはしないかな?」

2012-09-21 16:11:30
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「そんな事をいつも考えているの?」「だってゴブリンといえば、ぼくら冒険者にまるで試し斬りのように襲われて、殺される存在と決まっているでしょう?それはある種、思考停止だと思いませんか?正しい機会や、コミュニケーションの意識があれば、もっと建設的な結論が出せるのでは?」「そうなの?」

2012-09-21 16:19:24
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「安直な結論のもと、彼らを虐げてはいけないと、僕は思うんですよ」「でも、それはそういうものなんじゃないの?」「だから、ゴブリン、イコールそういうものだという考え方をですね……」議論のこの辺りで、防壁から投げ込まれた生首の爆竹がけたたましい音と共に爆発し、ゴブリンが襲撃を開始した。

2012-09-21 16:24:56
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

二人は慌てて衣服を着込んだ。すぐにゴブリンが突入してきた。ゴブリンの手には斬り落とされたばかりの村長の首があった。修道僧は極度の精神的ショックを受け、その場にへたり込んだ。離人症のような状態であったと思われる。魔術師は指先をゴブリンに向けた。指先から炎の塊が放たれた。魔術だ。

2012-09-21 16:28:46
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

炎の塊はゴブリンの顔面を焼いた。ゴブリンは村長の首を放り出し、顔を掻き毟りながら倒れこんだ。それを踏み越え、新たなゴブリンが二匹躍りこんで来た。「嘘だ嘘だこんなの」修道僧はそんなような譫言を呟いていた。魔術師は後ろの窓を振り返った。駆け出しの彼女は、魔術を一日に二度しか使えない。

2012-09-21 16:31:26
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

ゴブリンが修道僧の頭を掴んだ。修道僧は抵抗らしい抵抗もできない。突然の暴力に晒されれば、大抵の人間はそのようになる。魔術師は修道僧に構わず、窓の外へ飛び出した(魔術師は冒険者一団のほぼ全員と関係を持っていた)。草を転がり、後ろに虐殺の騒音を聴きながら、闇の中を走った。

2012-09-21 16:36:30
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

魔術師の行く手には裂け目があり、川が流れ、粗末な吊り橋がかかっていた。橋のたもとには村人がいた。死体がそのそばに二つあった。村人はゴブリンにのしかかられている。村から逃げようとしたが、ここで追い縋られたということか。ゴブリンは村人にまたがり、歪な刃先の短刀を振り上げた。

2012-09-21 17:09:35
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

魔術師は温存していた魔術をここで使うしかなかった。炎が放たれ、このゴブリンの背中を焼いた。呪詛を吐きながらゴブリンが地面を転がった。のしかかられていた村人は石を摑み、逆にゴブリンに覆いかぶさって、滅多打ちにした。ゴブリンは痙攣して死んだ。魔術師は駆け寄った。村長の息子だ。

2012-09-21 17:11:29
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

「村はもうダメだ」村長の息子は泣いていた。二人は吊り橋を渡り始めた。対岸にあるのは、鬱蒼としげる森林だ。危険から逃れ、ふたたび危険の中に飛び込む事になるだろう。二人はほとんど言葉をかわさなかった。吊り橋を渡る。しかし背後からは狼じみた吠え声と、ゴブリンの叫びが近づいて来ていた。

2012-09-21 17:15:12
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

それは獣に跨るゴブリンである。更に三匹の徒歩の者が続く。魔術師に魔術はもう無く、村長の息子にも武器は無い。下の川は激流であり、飛び込めば岩々に身体をぶつけてバラバラになって死ぬだろう。村長の息子は何か祈りを呟いた。魔術師に祈る神は当然無い。……対岸から吊り橋を駆けくる者があった。

2012-09-21 17:19:40
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

ボロを纏った男はひと飛びに村長の息子と魔術師を飛び越し、彼らとゴブリン達との間に着地した。吊り橋が激しく揺れ、魔術師は手摺にしがみついた。ゴブリン騎手は手斧でこの浮浪者を叩き殺そうとした。跨る獣の首が刎ねとばされ、断面から血を吹いて絶命した。ゴブリンはバランスを崩して転落した。

2012-09-21 17:24:16
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

吊り橋から落ちて激流に呑まれるゴブリン騎手を尻目に、浮浪者は剣の血脂をボロの端で拭う。列になって向かってくる三匹を睨みつける。先頭のゴブリンの喉を突き刺して殺し、二匹目の腹を蹴ってひるませ、三匹目が繰り出す手斧に対しては、握る親指を拳骨で砕いて奪い取り、以て二匹目の顔面を斬った。

2012-09-21 17:30:20
MC9太郎ナラティブ @Gno_penO

二匹目は苦痛の吠え声をあげた。三匹目は武器を失い怯んだ。浮浪者はその眉間に剣を突き刺した。ゴブリンは死んで倒れ、剣を額に咥え込んだまま、吊り橋から下へと転落した。残る二匹目は得物の短刀を遮二無二繰り出そうとしたが、浮浪者は素早くボロの中から新たな短剣を抜き、心臓を突いて殺した。

2012-09-21 17:33:36
前へ 1 2 ・・ 5 次へ