金木犀さんの「宇宙」という言葉の起源についての考察補講(近現代篇2)

金木犀さんによる 「宇宙」という言葉の起源についての考察(近現代編)http://togetter.com/li/160411  金木犀さんの「宇宙」という言葉の起源についての考察http://togetter.com/li/90338  の訂正と追加
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金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

「宇宙」という言葉の起源についての考察(近現代編)http://t.co/rvtEhzpV 金木犀さんの「宇宙」という言葉の起源についての考察http://t.co/V9Z9P4l2 の訂正と追加をつぶやいていくとしましょう。補講(近現代篇2)とでもしましょうか。

2012-10-16 23:36:48
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

前回は、「古代中国で生まれた「宇宙」という言葉が、近代になって「space」「universe」「cosmos」の訳語として使われるようになったのがいつ頃なのか、古い英和・和英辞典を元に考察してみました。」というところで終わってたんですね。今回はこの先です。

2012-10-16 23:42:58
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

辞書は、その宿命として、生まれたばかりの言葉を収めることは困難です。ゆえに、訳語としての「宇宙」は、ある程度世の中に浸透し、定着したと考えられる段階になってから英和辞書に収録されたと考える方が妥当でしょう。

2012-10-16 23:48:12
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

ただし、『諳厄利亜語林大成』(あんげりあごりんたいせい:文化11(1814)年)は、編纂の事情とある種仲間内の手控えという性質もありますから、ここでは除いてもよいでしょう。

2012-10-16 23:50:14
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

さて、今回私は、以前のツイートを受け、「宇宙」という言葉が、明治維新以降の近代日本において、いかに現代的な意味――科学用語として変容し摂取されていったかを調べ、考えました。

2012-10-16 23:53:35
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

宇宙、最近とみにニュースで見る言葉の起源は2300年前に遡りますが、今の意味で使われるようになったのはほんの一世紀半くらい前のことです。

2012-10-16 23:57:56
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

とはいえ、いきなりのことなので、どこから調査したものか考え、用例調査なら新聞だろうと考えて、データベースで検索してみました。すると読売新聞の明治32(1899)年11月8日朝刊の「茶ばなし」というコラム記事に、次ツイートのような記述があったのです。

2012-10-17 00:05:02
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

◎流星が宇宙に存在する数は、先ず言わば此世界で塵の飛ぶ様なものであって、之れが空気に触れると摩擦して光を発する。此の流星が十一月の半ばに最も多く現わるることは、小学読本にも載って居る。(翻刻筆者、常用漢字に改め、句読点を附した)

2012-10-17 00:06:25
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

ここで注目したのは、「小学読本にも載って居る」というところ。「読本」とは教科書のことなので、現代語にすると「小学校の教科書にも書いてある」となります。お気づきの方はお気づきだと思いますが、教育による普及が、現代的な「宇宙」の意味の定着に一役買ったのではと考えたのです。

2012-10-17 00:09:16
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

とはいえ教科書はなかなか調べづらいだろうな、としばらく放置していたら、ある時『日本教科書体系』(講談社)という本を見つけたのです。渡りに舟とひもといてみると、その近代編の第21巻からが理科に充てられていました。

2012-10-17 00:14:39
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

書誌>海後宗臣等編『日本教科書体系 近代編第21巻 理科(1)』(1965年7月、講談社)

2012-10-17 00:15:03
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

はじめから理科だと当たりは付けていたのですが、見つからないわけです。私が調べようとしている学校教育黎明期の理科教科書は、「理科」という名前ではなく、「博物学」という名前だったのです。

2012-10-17 00:16:32
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

本が手に入ったら、あとはひたすら読み込んでいくだけです。すぐに初めての用例が出てきました。『牙氏初学須知』(がししょがくしゅち)、明治8(1875)年の博物学教科書です。アメリカ人の書いた本を翻訳したという序文が付いています。

2012-10-17 00:19:31
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

書誌>『牙氏初学須知』(田中耕三訳、沢渡太郎訂、明治8(1875)年2月)(原著:"Simples Lectures sur les Sciences. les Arts et 1, Industrie". J.G arrigues, 1872)

2012-10-17 00:22:07
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

『牙氏初学須知』巻之一 第三 天体系統に「天体系統トハ宇宙ヲ集成スル天体ノ総称ニシテ、其真ノ法則ヲ発明セシハ、普魯士(プロシア)ノ星学士歌自尼(コペルニクス)ナリ、」とあるのが、教科書で「宇宙」という言葉が現れた最初の例です。天文学者のこと、当時は星学者と言ったのですね。

2012-10-17 00:26:19
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

翌明治9年翻訳刊行の『具氏博物学』にも「宇宙」が現れます。こちらも博物学の翻訳教科書。

2012-10-17 00:28:28
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

『具氏博物学』巻一第一編 有形界有形界の境域論「夫レ人ハ万物中ノ最霊ナル者ナレハ、宇宙間ノ万物ヲ窮察スルコト能クスへシ。然ルニ地所ノ何如ヲ論セス、其属目スル所ハ唯纔(わづか)二全宇宙ノ小区ノミニ過キス」(常用漢字に改め、句読点を附した)

2012-10-17 00:32:18
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

同書巻四 第四編 動物界「上条(筆者注:前巻までの内容を指す)、既二宇宙間ハ、地球・太陽系・恒星等ヲ造構セル物卜、其含蓄セル物トヲ包括スルコトヲ論説セリ」(常用漢字に改め、句読点を附した)

2012-10-17 00:34:02
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

書誌>須川賢久訳、田中芳男校閲『具氏博物学』明治9年(1876)年2月(原著は次ツイート)

2012-10-17 00:35:53
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

原著>"A pictorial natural history : embracing a view of the mineral, vegetable, and animal kingdoms, for the use of schools".作者は次

2012-10-17 00:38:29
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

作者と刊年> S.G.Goodrich. 1842の1870フィラデルフィア増刷本

2012-10-17 00:39:04
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

今挙げた『牙氏初学須知』(明治8年)および『具氏博物学』(明治9年)はともに理科(当時は博物学という)の教科書として、近代教育発祥期用いられた本であり、これらによって教育を受けた世代が、「宇宙」という言葉を現代的意味で自らの生活の中で用いたであろうことは想像に難くありません。

2012-10-17 00:42:23
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

「宇宙」という言葉を現代的な意味で知った世代は、その言葉を用いて文章を記すようになります。先の読売新聞は1899年、書名に用いられたのは、三宅雪嶺『宇宙』(政教社、一九〇九年)、アレニウス著 二戸直蔵・小川清彦共訳『宇宙開聞論史』(大蔵書店 一九二一年)などが早いです。

2012-10-17 00:45:33
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

ちなみにH.G.ウェルズの『宇宙戦争』は、光用穆の訳により1915年に刊行されています。

2012-10-17 00:46:38
金木犀@火箭迷 @kin_mokusei

ここで、一つのストーリーを想定してみます。「宇宙」を、小学校教育の中で現代的な意味で習った明治初年の小学生たちは、やがて大人になり、学校で習った意味で「宇宙」を話し、書き、あるいは教えるようになります。彼らは始め少数派ですが、教育が続けばやがて多数派になります。

2012-10-17 00:50:14