◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その十)」◆

真上犬太氏(@plumpdog)によるtwitter連載小説 第11回目 第1回目はこちら http://togetter.com/li/372910
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真上犬太 @plumpdog

◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その十)」◆

2012-11-10 22:42:25
真上犬太 @plumpdog

◆「なんかいまいち合わないな」グレーの制服を身に着けながら、クイはぼやいた。人間のものと微妙に変えられたデザイン。日本警察所属を示す胸のエンブレム以外、徽章や肩章はほとんどない。『文句言わないの。気持ちは分かるけどね』そう言うぼたんも不満そうな顔だ。◆

2012-11-10 22:43:34
真上犬太 @plumpdog

◆『日本のお役所って、ほんっとこういうセンス無いわよねぇ。こ れがフランスの警察なら、もっとカワイイのが着れたわよ』「それならあんたがデザインしてやったらどうだい?」『あら! いいわね、それ! あとで上申しようかしら』ころっと機嫌を良くしたぼたんを後に事務室へ戻る。◆

2012-11-10 22:45:49
真上犬太 @plumpdog

◆「総員、整列!」全員がそろったのを見計らい、ロブが号令をかける。かっちりした制服に身を包むのは、黒髪のアジア人女性。室内待機していたNBCは、コアラのヒュープを除く全員が整列して、彼女の前に立っていた。専用の制服と装備を身に付け正対する姿は、まるで仮装行列のようだ。◆

2012-11-10 22:49:44
真上犬太 @plumpdog

◆だが、全員の顔は緊張し、昨日のような弛緩した雰囲気は無い。「ロブ装備課特殊装備係長補佐、全員の装備点検を行ってください!」『了解。総員、装備前へ!』指示にあわせ、全員が身に着けた装備を一旦外し、それぞれを指差呼称する。◆

2012-11-10 22:54:04
真上犬太 @plumpdog

◆『総員の装備チェック、終了いたしました!』ロブの宣言に、女性警官が笑顔で頷く。かっちりした制服に身を包む、黒髪のアジア人女性。「昨日に引き続き、ロブ、ぼたん、ヒートの三名は外務省の要請により、外相会談会場の警備とパトロール任務をお願いします」。◆

2012-11-10 22:55:33
真上犬太 @plumpdog

◆小顔でポニーに髪を結った女がクイに向き直る「貴方が新しく入ってきた子ね。私は」「おはようございます、雨宮燈子警部補。昨日付けで配属になりましたクイ巡査補です」正式な名乗りをあげ、敬礼を一つ。彼女がやってくる前、装備品を受け取るのと同時に彼女のことも調べてあった。◆

2012-11-10 22:57:44
真上犬太 @plumpdog

◆「う、うん。よろしくね。それじゃ、君のシフトだけど」「先だって遠山警部より要請を受けております。マスターサーバからも本日10:00より性能検査を行った後、捜査第一課に配備予定との辞令を頂戴しております」「そ、そっか。ありがとう」切り口上にしどろもどろになりながら彼女は笑う。◆

2012-11-10 23:01:09
真上犬太 @plumpdog

◆「は、初めての職場だし、警察の仕事なんて慣れないと思うけど……そんなに肩肘張らなくても大丈夫だよ?」「問題ありません。これが職務ですので」『クイ刑事、雨宮警部補のお心遣いです。少し楽にしてください』ロブに視線を送り、それからため息をつく。◆

2012-11-10 23:02:53
真上犬太 @plumpdog

◆「お気遣い無用です警部補殿。俺は備品ですからね、好きなように振り回して結構ですよ。壊れたら新しいのを入れればいいんですし」「ちょ……ちょっと、クイ君!」「職務中です、警部補殿」こちらの態度に面食らったのがありありと見える。こんな風に噛み付かれるとは思わなかったのだろう。◆

2012-11-10 23:05:26
真上犬太 @plumpdog

◆「君がどう思ってるのかは分からないけど、私は君たちを道具だなんて」「我々は法律上動産として扱われております、警部補殿」「少なくとも壊れたら買い換えるとか、そんなこと……」「国民の税金を無駄遣いすると、安易に公言するような非常識な方でなくて安心しました」◆

2012-11-10 23:07:50
真上犬太 @plumpdog

◆『あのねぇ? クイ刑事』深々とため息をつき、ぼたんがそっと肩に手を置いてくる。『燈子ちゃん……雨宮警部補はあたしたちによくしてくれるのよ。だから、そんなにつんけんしちゃダメ』「飼育係は動物と仲良くするのが仕事だからな」『クイ刑事、発言には気をつけて』「へいへい」◆

2012-11-10 23:09:49
真上犬太 @plumpdog

◆「君にも思うところがあるんだろうけど、少なくとも私は君と仲良くしたいし、いい関係を築けたらって考えてるよ」「ニンゲンの思想を縛ることなど、我々には許されていませんからね。思うだけならご随意に」こちらの言葉に苦笑を浮かべる女。それを確認しながら、クイは安堵していた。◆

2012-11-10 23:11:44
真上犬太 @plumpdog

◆この程度の『反抗』なら、ゲッシュは発動しないらしい。思考の揺らぎではなく、明確な敵意や害意に反応するのだろう。つまり、このお優しい飼育係のお姉さんを、言葉でいたぶる程度の自由は許されているということだ。「失礼しました、警部補殿。以後発言には気をつけます」◆

2012-11-10 23:13:28
真上犬太 @plumpdog

◆「……そうだね。別に私には構わないけど、遠山さんは厳しい人だから、気をつけてね」「はい。了解しました」そうだ、これからあの不愉快な顔を見続ける仕事なんだ。このぐらいの役得があってもいいだろう。かりそめの笑顔の下でクイは、そんなサディスト的喜びを弄んでいた。◆

2012-11-10 23:16:50
真上犬太 @plumpdog

◆「じゃあ、始めろ」灰色の壁で囲われた空間、遠山と井垣が壁際からこちらを見つめてくる。クイは支給された鋼の塊、オートマティックの拳銃を手に、所定の位置に立つ。地下一階に設けられた射撃場。最初の試験を行うため、クイは生まれて始めての兵器を手にしていた。◆

2012-11-10 23:21:09
真上犬太 @plumpdog

◆「射撃訓練開始して」「……訓練開始します」一呼吸置いて、クイは全神経を知覚、筋骨を射撃姿勢へシフトさせる。両手で銃把を固定、引鉄を絞る。破裂音、体に響く衝撃、硝煙の香り。射撃場の遥か向こう、50メートルは離れた位置にある人型の的に黒い点が穿たれていた。◆

2012-11-10 23:24:57
真上犬太 @plumpdog

◆「続けろ」「了解」。立て続けに三度、衝撃と破裂音。弾痕は一つのまま。「次」「了解」再び三度、今度は肩口に一つの弾痕。「次」「了解」三度の破裂音、右腰椎に一つの弾痕。「五部位だ」「了解」五度の射撃が、頭部、左右肩部、左右腰部、そして心臓を正確に貫く。◆

2012-11-10 23:30:21
真上犬太 @plumpdog

◆「次、100メートル」「了解」流れるようなリロード。左足を一歩引き被弾面積を減らしつつ、反動によるブレを一切感じさせない姿勢で射撃を続ける姿は、そのまま教本に取り入れても問題の無いほどの見事さだった。最終的に一発の外れも無く、射撃演習は終了した。◆

2012-11-10 23:33:05
真上犬太 @plumpdog

◆「すごいじゃないか! 500メートルまでのマンシルエットでコンマ1ミリレベルのズレしかないなんて!」「お前、まさか軍用じゃ無いだろうな」「警察支給の射撃マニュアルのおかげです」感慨も無く告げる。支給されたデータさえ的確なら、この程度は造作も無いことだ。◆

2012-11-10 23:35:41
真上犬太 @plumpdog

◆もちろん、個体によって筋力差や知覚能力の精度が違うため、全てのNBCがクイと同じには動けないだろうが、そう作られた自分たちにとっては、銃器の扱いなどゲーム程度の意味合いしかない。「次の試験をお願いします」「……ずいぶん殊勝だな、ええ?」「仕事ですからね」◆

2012-11-10 23:40:39
真上犬太 @plumpdog

◆そのまま、使用試験は次の段階に入った。場所は合成畳を敷き詰めた道場。白い武道着に着替えたクイは、目の前の巨漢を見た。見るからにごつい、ウシ型だ。「いくら射撃が強くても、お前らに発砲許可はほとんど下りないからな」対抗心を刺激されたのか、遠山の声が少し苛立ちを含み始めた。◆

2012-11-10 23:43:39
真上犬太 @plumpdog

◆もちろん、そんなことを気にするつもりは無い。クイは両手につけた指貫グラブの調子を確かめ、相手を見る。「対テロ課から借りてきた。こいつから一本でも取ってみろ」「いいんですか? 先輩……明らかにリーチとか違いすぎますよ?」不安そうな井垣を遠山が鼻で笑う。◆

2012-11-10 23:48:53
真上犬太 @plumpdog

◆「コイツより小さい犯人なんかいるかよ」『警部殿、私も井垣警部に同感です。彼とではハンデがありすぎる思われますが』「とにかく、動きが見られればいい。手加減してやれ」隠しもしない侮蔑に、クイは僅かに顔を引きつらせ、尋ねる。「警部殿、対手に当たって何か禁止項目は有りますか」◆

2012-11-10 23:50:51
真上犬太 @plumpdog

◆「壊すな。こいつにも仕事がある」「……了解」それだけ確認すると、線を引かれた開始位置まで移動する。相対した牛に一礼するとクイは両手をだらりと下げ、体を右側面を前にした半身になった。対する牛は小さく両手を前で揃え、へそのある辺りで構える形。◆

2012-11-10 23:53:55