【これまでのあらすじ】俺たちには特別な力が! → 敗戦 → ありませんでした → バブル → 短所がむしろ長所では? → 崩壊 → ありませんでした
2012-11-11 19:08:13「しねがいおます、マッチを買ってください。しねがいおます、マッチはいかがですか……」マッチ売りも老婆である。21世紀のネオハマシティーは全てが未来的であった。車も速い。
2012-11-11 19:09:06「マッチはいりませんか? なにかと便利ですよ」老婆が袖をひいたのは、邪眼の男――メイオーダイその人であった。彼の後ろで2人の部下が言いかわす。「哀れなものだな」「獅子とサラリマンの区別もつかぬとは」「揺らしましょうか」「できるか貴様に? この老婆、すでに頭を打っているぞ」
2012-11-11 19:10:20「馬鹿にするな」と言ってポケットから拳を抜いた部下を、メイオーダイは手で制した。両眼を閉じたまま、指揮者めいて指をふる。その指は老婆の顎をかすめた。
2012-11-11 19:11:32「オフゥ……」脳を揺らされた老婆は路上にくずれおちた。「オフゥ……七面鳥……丸焼きでしねがいおます……」老婆はそのまま、冷たい道の上で息絶えた。
2012-11-11 19:12:31「ナイスショット!」「社長、ナイスショットです!」部下たちはすかさず賞賛の声を上げ、今この場でなされた恐るべき暴力行為を社長のナイスショットに見せかけた。通行人たちはそれで納得する。これがストリートのリアルであった。
2012-11-11 19:13:39「あれも悪い老婆じゃなかったな」「幸せなラストじゃないか」「人間はこれでいいんだ」言いかわす部下たちをよそに、メイオーダイは夜空に対して片眼を開ける。一睨みで雪が降りだした。「何をしている…オバケスレイヤー……」ほどなくして大豪雪。しかもクリスマスであった。
2012-11-11 19:14:48「オバケ、殺すべし!」ミナゲド・バンジは力強く一喝した。夜のシュラインに同意の声がこだまする。「アグリーです!」「アグリーです!」
2012-11-11 19:18:05しかしミナゲドは、頭の中で非情なソロバンを弾いていた。(時間稼ぎにしかなるまい……)。暴力融通闇サイト〈フェイスヤクザ〉でかき集めた一夜かぎりの戦友たち。これから始まるワンナイト血みどろフェスタを何秒サバイブできるだろうか。
2012-11-11 19:19:13(やはり最後の頼りは……)。カラテに捧げてきた日々を、ミナゲドは今になって懐しく思いだす。パイセンの拳。パイセンの下段。パイセンのふくらはぎ。復讐の火にくべてよい日々だったろうか。黒い手袋に眼を落とす。(俺の拳、実際安くはないぞ!)。ミナゲドの頭に雪が積もった。
2012-11-11 19:20:31ネオハマ駅裏口――ネオハマドゾクアマゾン。昔ながらのジャングルと深山幽谷がはびこるその一帯は、表口のネオハマシティーとは似ても似つかない。人類の前線基地だった無数のシュラインだけが、人々のあがきの歴史を今に伝えている。
2012-11-11 19:21:54「――出た! オバケが出た!」フェイスヤクザのビッチ特戦隊ことコユズミ・アクメが高い声を上げた。その指のさす彼方に、全員の視線が集まる。フハッ! シュラインズ・ゲートをくぐって、何者かが境内テリトリにのたくりこんできているところだ!
2012-11-11 19:23:48「ウラメシヤ、オチムシャヒコです」顔面の刀傷。肩に刺さったヤブスマ。「イメトレです」と書かれたTシャツ。どう見てもオバケであった。
2012-11-11 19:25:05「ファック!」「オバケファック!」あびせられるファックなバイブスにオチムシャヒコはいっそう首をかしげた。「僕のどれが何かをした?」
2012-11-11 19:27:17「その質問には俺が答えよう」ミナゲド・バンジは一歩前へ出た。「おぼえているか、おまえが殺したミナゲド・サクラを!」「……誰さん?」「ですよね」
2012-11-11 19:28:25ミナゲドは、オバケのウツロなソウルにつくづく絶望した。殺した人のことなど、何一つおぼえていない。人を人とも思わず殺人している。だが同時に新たな怒りもわいた。こいつらに後悔させてやる。こいつらに因果を悟らせてやる。
2012-11-11 19:29:27「……仏に悟れクソ野郎」ミナゲドの口から呪いの言葉が出た。「出たーミナゲドさんの強制解脱命令だー!」「これは殺害予告まで伸びる!」仲間たちの士気が上がった。
2012-11-11 19:30:06「やってやるぜ!」「殺すぞコラー」「誰だいまセンエツ予告した奴は!」「いいよ殺すんだから!」シュラインの森にファックなバイブスが満ちる。
2012-11-11 19:31:31オチムシャヒコはいっそう首をかしげた。「なんで僕が殺されなくちゃならないの?」「俺たちが殺すからだ!」「令状は?」「え?」「死刑令状は?」「……ねえよそんなの! 国じゃなくて俺たちが殺すんだよ!」「なぜ?」「おまえが殺したからだよ!」
2012-11-11 19:32:47「はー」オチムシャヒコは呆れたように首をかしげた。「君たちねえ、これはリンチというやつですよ。許されませんよそれは、法律的に」殺したら殺される。そんな人間たちの常識は、オバケに通用しない。
2012-11-11 19:33:55「法律読んでくださいねー。読んだことありませんかー? 「心の神をロストしてたら無罪」って書いてありますよー」正確な引用ではなかった。しかし、確かにそういう主旨の条文はある。いつのころからか〈魔人条項〉と呼ばれるようになった一文だ。
2012-11-11 19:35:02