そもそも、利益と付加価値はまったく異なる概念である。
多くの経営者は、利益の消失を目の当たりにして、「問題」が発生したと認識する。利益=付加価値という世界観を前提とすると、利益が生まれなくなったのは、付加価値を生み出すことができなくなったためであり、それを修復することが経営の仕事、というわけだ。
2012-11-25 11:20:55このような世界観を前提とすると、利益を生み出すための一連の改革は、すなわち、付加価値を創造する作業であり、経営者としての存在価値、そして、自分の報酬は利益によって正当化されることになる。
2012-11-25 11:25:49人件費を抑制すること、「無駄な」費用を極小化すること、単位時間あたりの労働量を増やすこと、赤字部門を切り離すことが経営の重要な仕事となる。それが対症療法であっても、費用を削減し、目先の売上を確保し、利益に寄与する限り、付加価値が生まれたことになる。
2012-11-25 11:29:28しかしながら、私には、経営者のこのような世界観こそが、問題の根源だと思えるのだが如何だろう。少なくとも、二つの点において、この「世界観」は非効率だと言える。
2012-11-25 11:37:14そもそも、利益と付加価値はまったく異なる概念である。(典型的には、規制、寡占などの)構造的な条件さえ整えば、付加価値がなくても利益は簡単に生まれるし、逆に、付加価値が生まれたからといって、それを利益として顕在化させるかどうかは、経営者の選択による。
2012-11-25 11:46:16規制市場下においては、売上の増加、シェアの拡大に伴って、利益が生まれる構造的なしくみが事業に組み込まれていたため、経営者は、本当の意味で付加価値とは何か?という根源的かつ重大な問題に向き合う必要がなかったのだ。
2012-11-25 11:50:07そのような環境下においては、利益=付加価値と認識することで、自分の仕事を正当化することができる。実は、自分は本質的な付加価値を何も生み出してはいない、という現実から目を伏せることができるため、経営者にとって、非常に心地よい世界観であったとも言える。
2012-11-25 11:54:11規制下で長期間右肩上がりの成長を遂げてきた我々の社会において、すなわち、利益が確保されていた事業環境において、本当の意味で付加価値を生み出す事業など、はじめから殆ど存在していなかったのではないだろうか?
2012-11-25 11:59:54おおよそ1995年前後から、日本の産業界の各分野において自由化が加速し、利益を生み出す基本構造が崩壊し始める。グローバリゼーション/金融化という名の「ドーピング」によって、経済が成長していたかに見えたため、問題は一時期隠されていたが、その後デフレによって利益の減少が顕在化する。
2012-11-25 12:06:43それが現在「問題」として認識されているのだが、問題の本質とはむしろ、規制市場下では、付加価値の有無に関わらず利益が確保されるため、経営者は自分が付加価値を生み出していたと、錯覚していたこと、そして、そもそも、自分の事業に付加価値など過去一度も存在しなかった、ということではないか?
2012-11-25 12:15:09逆に考えれば、我々の社会は、事業のほんとうの付加価値と、付加価値ということの真の意味に、(恐らく資本主義史上)初めて真っ正面から向き合う機会を得ているのだろう。我々は長い資本主義史上、もっとも恵まれた時期に生きているのかもしれないのだ。
2012-11-25 12:23:13