〔AR〕その24 セクション5

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション4(http://togetter.com/li/411931)
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BIONET @BIONET_

「慧音、無事!?」 人里の上空を駆けるアリスは、人が溢れる竹の広場で立ち往生する慧音の姿を見かけた。すぐに、アリスは声を張り上げて呼びかけると、慧音も即座に応え、同じ高度にまで飛翔してきた。

2012-11-28 21:13:50
BIONET @BIONET_

「アリスか! お前は正気か?」 「その物言い、貴方も正気と信じていいわね?」 「そう願いたいところだ……一体全体、なんなんだこの状況は」 慧音はアリスと共に変貌した人里を見下ろす。竹の広場には、人里の住人と幻影の人妖達が入り交じっていた。あたかも祭りのようだが、何かがおかしい。

2012-11-28 21:15:17
BIONET @BIONET_

アリスの幻視力は、この広場に見える姿のうち、半分以上が幻であると見抜いた。だが、現実に生きている人々は、そういった幻達を何ら違和感なく受け入れて、話をしたり、あるいは酒を飲み交わす者達もいた。 ここにいる、アリスと慧音以外の誰しもが、この状況を変だと思っていないのだ。

2012-11-28 21:19:42
BIONET @BIONET_

「ふとした違和感があった。そして気づいたらこのような有様だ。人々に呼びかけても、異変に気づく様子さえない」 「……ちょっとした悪夢ね」 隣人達と、見えているものが違う。これは筆舌につくしがたい恐怖と言えた。実際、慧音は普段の気丈さが嘘のように、表情が青ざめている。

2012-11-28 21:21:03
BIONET @BIONET_

「これが、巷に噂として流れていた、異変そのものか」 「間違いなく……ところで慧音、貴方、死んだ人間の幻を見たかしら?」 「!」 慧音は目をむいてアリスを見た。予想が的中した、とわかったアリスは、険しい表情でもって言葉を続けた。

2012-11-28 21:22:27
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「見たのね?」 「み、見た。今年に息を引き取った近所の長老や、もっと昔に流行病でなくなった子供……私が知る限りの、すでにこの世にはおらぬはずの人々が、姿を現しているんだ」 語るうちに、慧音の表情は一層青ざめていった。

2012-11-28 21:22:43
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弔ったはずの死者が目の前に現れるというのは、この幻想郷では、生者側の葬儀の不手際を意味する。死者は正しく弔わなければ、死体を妖怪に持ち去られたり、あるいは死者が妖怪や亡霊と化してしまうからだ。 「そう、この異変のキモは、死者の姿が再現されているということ」 「どういうことだ!?」

2012-11-28 21:23:02
BIONET @BIONET_

再現されている? 蘇っているのではなく? 慧音はアリスに詰め寄った。 「落ち着いて。まずはっきりさせておきたいのは、今私たちが見ている死者の姿は、全て幻であるということ。妖怪や亡霊ではないということよ」 「あ、ああ……そうなのか」

2012-11-28 21:23:19
BIONET @BIONET_

「人里の様子を見回っている間、人形を何体か遠隔操作で飛ばしたけれど、大なり小なり、似たような現象は幻想郷中のあちらこちらで起こっている。何でもない平原や森林に、亡者めいた姿が見えた。だから、今のこの状況が、人間に依存するだけの異変ではないことがわかった」

2012-11-28 21:27:45
BIONET @BIONET_

「……その口振りだと、お前は、人間の記憶にある故人の姿が、何らかの異変によって再現されたと見ていたのか?」 アリスは、少し自信なさげに頷いた。 「半分あたりで半分外れってところ。人間の記憶以外に、もう一つ、重要な要素があると考えているんだけど、それは正直さっぱりね」

2012-11-28 21:28:12
BIONET @BIONET_

「原因を考えるのも必要だが、しかし、現状をどうするかも考えねばなるまい。人間の記憶がトリガーの一部分であるならば、私の歴史食いは意味をなさない。一個人の認識にまで、私の能力は及ばないからな」

2012-11-28 21:28:27
BIONET @BIONET_

「むしろ、一般人の共通の認識を揺るがせて、パニックを誘発させるかもしれないわね。かといって、死者と対話し続ける状況が健全とは思えない。生きとし生ける者は、死を恐れるのと同じくらい、死に魅入られやすいわ」 喋りながら、アリスは、はたと気づく。

2012-11-28 21:31:25
BIONET @BIONET_

「上海人形からの連絡がないわ……阿求、無事かしら」 「阿求がどうした!?」 慧音が血相を変えてアリスの肩を揺さぶると、その動揺がアリスにも伝搬する。 「あ、あの子と夕方まで一緒だったんだけど、はぐれちゃって、一応上海人形を護衛につけたんだけど……なんてこと、捕捉もできやしない」

2012-11-28 21:37:11
BIONET @BIONET_

「なんて、なんてことだ!」 慧音はアリスから手を離し、ぶんぶんと頭を振った。多くのことが起こりすぎて、さしもの彼女も情報処理能力の限界に達しているようだった。 アリスとて、チリチリとした焦燥感が拭えなかった。異変の正体が判明しようとしまいと、彼女には対策方法など思いつかない。

2012-11-28 21:38:36
BIONET @BIONET_

アリスは残り少なくなってきた人形のうち、足の速いタイプをトランクから放ち、東の空へと飛ばす。 唯一思いついた最終手段、それは博麗の巫女に助けを求めること。 どれだけ当てになるかはわからないが、やらないよりはましだ。既にもう動き出していれば御の字といったところだろう。

2012-11-28 21:40:50
BIONET @BIONET_

後は、自分達はどうするべきか。このまま人里に止まっていても、いずれアリスも慧音も死者の幻影に魅入られてしまうかもしれない。今の人里で、正気を保ち続けるのは難しかった。 「……」 アリスは、混乱する慧音の手を引いた。 「アリス?」 「ちょっとついてきて」

2012-11-28 21:41:24
BIONET @BIONET_

慧音はアリスに手を引かれるまま、彼女に従う。慧音と共に、アリスは人里のあるポイントを目指した。 唐突に、アリスの脳裏に去来するものがあった。何故そんなことを思い至ったのか、アリス自身論理的に説明できなかった。

2012-11-28 21:42:01
BIONET @BIONET_

強いて動機を求めるならば、今日は元々メンテナンスのために人里を訪れた上に、遠隔操作で人形を飛ばしているため、手元の人形の数が心もとないことだ。 手元には――だが、人里には、一つ、人形があったのでは? アリスは、それをメンテナンスに来たのだ。

2012-11-28 21:42:19
BIONET @BIONET_

そうして、アリスと慧音が降り立ったのは、龍神のほこらであった。 「アリス、こんなところに来てどうするつもりだ?」 「……慧音、周囲を見てみて」 「……あれ?」 アリスに促されて周囲を見渡す慧音は、気づいた。 「何故だ? この周辺には、幻影がないぞ?」 「ちょっと失礼するわよ」

2012-11-28 21:42:40
BIONET @BIONET_

アリスは、会釈するようにほこらに立ち入る。 龍神像を背に、『彼女』が筆を動かしていた。メンテナンス中の『彼女』の体は、アリスが作業を中断する前に一旦元通りに復元しておいたので、動いていること自体は不思議ではない。 しかし、問題は、その筆の運びだ。

2012-11-28 21:44:53
BIONET @BIONET_

「……なんだ、あの動きは」 慧音も、最近の『彼女』の異常については把握していたが、今の『彼女』はさらにおかしな動きを見せていた。 『彼女』は人間の姿を精巧に真似、人間の動きをそのまま再現する。なおかつ河童の技術力が良い方向に作用したことで、人間を超えた動きを行うこともできる。

2012-11-28 21:46:34
BIONET @BIONET_

その『彼女』が、常軌を逸したスピードで、ひたすら何かを書いていた。その筆さばきは残像を伴うほどだ。今は紙がセットされていないので、紙の厚さ分だけ筆が浮いた状態であり、実際に何かが描画されているわけではないが、それでもものすごい速度で、何かを描き出そうとしている。

2012-11-28 21:46:52
BIONET @BIONET_

アリスは『彼女』の背後に回り込んで、同じ目線でその筆さばきを観察する。  数秒後、何かを決意したように、アリスは慧音を見た。 「慧音、家からありったけの紙とインク持ってきて」 「へ?」 「早く! もしかしたら、この異変を抑えることができるかもしれない!」 「わ、わかった!」

2012-11-28 21:47:37
BIONET @BIONET_

わけもわからず、しかし躊躇することはなく、慧音は踵を返し、駆けだしていった。 それを見届けた後、アリスは再度『彼女』の筆先を目で追う。『彼女』が動く度に、アリスは不思議な確信を深めていった。あるいはそれは、魔法使いとしてはあるまじき、神の導きのようなものを感じたためであろうか。

2012-11-28 21:48:38
BIONET @BIONET_

『彼女』が何故動いているのか、それは異変の原因と直結していることだろう。人形が、異変の影響でもって動き出すということは、アリスも幾度となく経験してきた。それ自体は理不尽であっても驚きには値しない。

2012-11-28 21:49:02