「レイジ・アゲインスト・トーフ」#2「バックストリート・ニンジャ」 & #1「スシ・バー」・再放送Ver(実況なし)

ツイッター連載小説"ニンジャスレイヤー 第1部 「ネオサイタマ炎上/Neo-Saitama in Flames」"より @njslyr_rによる再放送「レイジ・アゲインスト・トーフ」#2「バックストリート・ニンジャ」と#1「スシ・バー」のまとめ(実況なし) #2&#1 (今ここ) #3 http://togetter.com/li/416450 #4 http://togetter.com/li/416458 続きを読む
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NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

■マディソンおばあちゃん■1■ 『…あれあれ、もう終わっちまった!こんなことなら町内のビンゴパーティーに間に合ったじゃないか。コラッ!アタシのせいじゃないよ!バックストリート・ニンジャは最初期に書かれた作品だからね。ネットは56Kモデムで、全てはシンプルだったのさ!』■知恵の実■

2012-03-10 22:06:14
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■マディソンおばあちゃん■2■ 『ニンジャスレイヤーはまだ、ニンジャソウルの事もソウカイヤの事も何も分かっちゃいなかったんだ。ウブだねえ!それで復讐とか言ってんだから、怖いねえ。そして気になる巻物の文字!こりゃ陰謀の匂いがするよ!あたしゃ物忘れが激しくて覚えてないけどね!』■袋■

2012-03-10 22:09:25
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■マディソンおばあちゃん■3■ 『さ、あたしゃビンゴパーティーに行ってくるよ!それじゃあね!あんたらはとっとと寝ちまいな!……何だって?物足りないって?ファーファーファー!あたしもさ!おや、どうやらもう一本やってくれるみたいだよ。ヒップ!ヒップ!フレーイ!ウィーピー!』■袋■

2012-03-10 22:12:35

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■再放送■ 第1部「ネオサイタマ炎上」より 「スシ・バー」 ■温かみ■

2012-03-10 22:14:40
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今宵もネオサイタマに髑髏のような満月が昇り、汚染物質を大量に孕んだイカスミのような黒雲がそれを覆い隠していた。色褪せたケブラー・トレンチコートを重金属酸性雨に濡らしながら、その三十がらみの下層労働者は、「や」「す」「い」「!」と書かれた無人スシ・バーのノレンをくぐる。 1

2012-03-10 22:17:45
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無人スシ・バーは、ネオサイタマで最も典型的なファスト・フードのひとつだ。老人たちが好む古き善き回転スシ・バーのような笑顔や暖かみは無く、かといって、若者が好むドンブリ・ポン社のチェーン店のような無軌道な騒々しさもない。無人スシ・バーには、人との関わりに疲れた男たちが集うのだ。 2

2012-03-10 22:21:52
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ここがドンブリ・ポン社の丼屋であれば、ドアを開けた途端、アンタイブディズム・ブラックメタルバンド「カナガワ」が奏でるBPM350のファスト・チューンが耳に飛び込んでくるだろう。だが、この典型的無人スシ・バーには、電子合成された雅楽の音と竹筒のカコーンという音しか流れていない。 3

2012-03-10 22:26:03
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ケブラー・トレンチの男は左右を見渡して席を探した。ノレンから一歩足を踏み入れれば、そこはもうカウンターで、四十人からの下層労働者やマケグミ・サラリマンたちが一列になって固定式の椅子に座っている。俗に言う、ウナギの寝床と呼ばれる横長の店構えだ。奥行きは、1メートルあるかないか。 4

2012-03-10 22:28:08
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店の一番奥、不潔なトイレの横にひとつだけ空席があった。客の背中に肩をぶつけながら、トレンチの男はウナギの寝床を進んでゆく。店内には「ちょっと失礼します」の一声を奨励する張り紙があるが、彼はそれを省みようとせず、オジギさえもしない。この男には、どこか捨て鉢なところがある。 5

2012-03-10 22:32:23
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「痛えな、あんた」夜なのにサングラスをかけたマケグミが、トレンチの袖を引っ張った。男はキリストのようにやつれた顔で振り向き、カール気味の髪の奥で、鉛色に濁った眼を光らせた。袖に隠れていた旧式サイバー義手がちらつくと、恐れをなしたマケグミは一礼をしてカウンターに向き直った。 6

2012-03-10 22:37:31
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喧嘩をする気にもなれない……貧民同士で潰し合って何になるんだ。フェイク漆が塗られた貧相なチェアに腰を下ろしながら、トレンチの男は心の中でひとりごちた。店内に流れる「イヨォー」という乙な電子音声とツツミ音で、ささくれ立った心を慰めながら、トレンチの男は目の前の白壁と向かい合う。 7

2012-03-10 22:41:38
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無人スシ・バーでは、すべての席が孤立しており、横の席との間にはヒノキ板の仕切りが立っている。この板を越えて話をすることは、基本的にはマナー違反だ。客が見るのは、手元のスシと、目の前にある墨絵の描かれた白壁だけ。まさに、スシのための完璧なワビサビ空間がここにあるのだ。 8

2012-03-10 22:45:43
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男はサイバー義手を備えた右手をポケットの中に突っ込むと、ぎこちない動きで三枚の百円玉を取り出し、それをカウンターの上に置いた。無人スシ・バーにイタマエはいない。男は眼前の壁に開いた小さなスリットに百円玉を一つ滑り込ませ、墨絵のトラの目が光ったのを確認してから、低い声で呟いた。 9

2012-03-10 22:49:51
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墨絵の龍が描かれた箇所がからくり扉のように開き、何の人間味もないメカ・アームに運ばれて、皿に乗ったタマゴの握りが姿を現した。男が皿を取ると、パタンとしめやかに扉が閉じる。 11

2012-03-10 22:54:05
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男はカウンターに置かれた古風なショーユ瓶に目をやる。それから、義手の右手と生身の左手を交互に見比べ、結局左手でショーユ瓶を掴み、タールのようにどす黒い液体をタマゴにかけた。 12

2012-03-10 22:56:09
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旧式サイバー義手は力の加減ができず、繊細作業に向いていない。その上、重金属酸性雨に弱く、維持に金がかさむときている。とんだ負債を負ってしまったものだ。男には溜息を吐く気力も無かった。何の感慨もなく、左手でタマゴ握りを口へ運ぶ。そして百円玉をもう一つ、スリットに滑り込ませた。 13

2012-03-10 23:01:36
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

墨絵の壁がパカリと開き、表面が七色に光り輝くうまそうなマグロの握りが現れる。男はこれも淡々と口に放り込む。 百円玉はあと1枚しかないが、今月はあと十日もある。男は少々迷ってから、スリットにコインを滑り込ませ、低い声でつぶやいた。 15

2012-03-10 23:05:18
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「マグ……いや、タマゴだ」 16

2012-03-10 23:06:27
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

彼の頬は痩せこけ、瞳はかつての輝きを失っている。天然マグロの目のように淀んでいる。墨絵師として身を立てるという彼の夢は、大方潰えたところだ。彼は業界最大手のサカイエサン・トーフ工場で働きながら墨絵の研鑽を続けていたが、トーフプレス機で右手を失ってから、全てが狂ってしまった。 17

2012-03-10 23:09:40
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

会社の保障で右手をサイバー義手に替えられる、と事務の女が手続きを取った所までは、まだ救いがあった。サイバー義手で幽玄を描く墨絵師、として売り出せる目が残っていたからだ。しかし、この男……シガキ・サイゼンに与えられたのは、四世代前の戦闘用サイバー義手「テッコ」だったのである。 18

2012-03-10 23:13:52
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

それでも今の時勢、保障が無いよりはマシだ。そう考えた彼は、なんとも御人好しで愚かだった。テッコは全く力の加減ができないため、全毛筆を自らの手で折ってしまったのみならず、職場復帰した次の日にはプレス機のバルブを破壊してしまったからだ。彼は解雇の上、膨大な賠償金を背負わされた。 19

2012-03-10 23:16:55