フー・キルド・ニンジャスレイヤー? #1

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あるいは道路脇に「外して保持」テープを張り渡してテリトリーを確保した山師がモンキードロイドを操ってみせ、宙返りはピンクのLED残像を湿った空気に滲ませる。「スッゾコラー!」「アイエエエ!」ヨタモノに因縁をつけられた市民が悲鳴を上げ、隣ではケバブ売りがオミクジ機を回す。48

2012-12-04 23:10:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スクランブル巨大交差点の信号が青になれば、対岸にダムめいて堰き止められていた多量の市民が一斉に道路を横切り始める。信号に押しとどめられた車列はそのわずかな待機時間すら気に食わぬと見え、横断者達を今にも轢き殺しそうな勢いでエンジンをふかし続けている。 49

2012-12-04 23:15:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

無言の横断者達の中に、くすんだトレンチコートとハンチングの男もいる。フジキド・ケンジ。人の波に逆らわず、ただ歩く。「キャンディ!ワー!」突然ビルの巨大モニタパネルが点滅し、新人アイドル「ジャムナンコ」の無機質ポップスが爆音で流れ出す。「キャンディチャン!」フジキドは無反応だ。50

2012-12-04 23:22:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そうして彼は表通りを数ブロック下ったのち、横道へ、そしてさらに奥へ足を進める。とたんに表通りの喧噪は後ろに、薄闇と無秩序な配管パイプの狭間で小規模ネオン看板が点滅する個人商店街。「ローン一発」「中古販売」「精気」「電話が長い」。彼は「釜茶」のノーレンをくぐる。 51

2012-12-04 23:30:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ダマラッシェー!」ノーレンをくぐりかけた彼は、背後に異質な威嚇の叫びを聴く。そして悲鳴。打擲音。「アイエエエ!」「……」彼はノーレンに手をかけたまま、しばらく固まっていた。「どうしたンで?」埋め込みサイバーサングラスの老人店主が煩わしそうに言った。「冷やかしですか?客か?」52

2012-12-04 23:37:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ズガタッキェー!」「アイエエエ!」ニンジャスラング!ニンジャが何らかの暴力行為に興じているのだ!だが、フジキドはやがて言った。「ええ。客です」そして店内に入り、蒸気を噴き出しながら回転する茶釜を眺める。「何にします」と店主。「チャを」「どんなチャを」「何でもいいです」 53

2012-12-04 23:40:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

地下街に通ずる階段の隅に腰掛け、マフラーに顔をうずめて、エーリアスは沈思していた。時折その横をサラリマンや体育会学生、ベースボールキャップを被った老人が通り過ぎる。「ちょっとどいてくれますか?」声をかけたのは配達員だ。大荷物を二人掛かりで下へ運ぶ。エーリアスはその場を離れた。55

2012-12-04 23:54:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……!」歩きながら、彼女は頭を掻いた。途中の屋台でイカケバブを購入、歩きながら何口か齧るが、眉根を寄せて、路地裏のゴミ箱に捨てた。「……」彼女は路地の更に奥を見やった。耳を澄ます。彼女のニンジャ聴力が争いの音を捉える。やや逡巡した後、彼女はそちらへ向かう。 56

2012-12-04 23:59:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スッゾオラー!」「アイエエエ!」「ザッケンナコラー!」「アイエエエ!」「スッゾコラー!」「アイエエエ!」エーリアスの眼前には、褸切れを被った男がヤクザじみた三人の男にサッカーボールめいて蹴り転がされ続けるマッポー光景があった。「待て!待て待て待てッて!」彼女は駆け寄った。57

2012-12-05 00:09:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アッコラー!?」一人が私刑の輪からはずれ、エーリアスに向き直った。「取り込み中だオラー!」「いやその……」エーリアスは口ごもり、「なんか死んじまいそうだし」「このジジイは頑丈だからイんだよ!」残る二人のうち一人がいきなりスパナで襤褸切れの男を殴った。「グワーッ!」 58

2012-12-05 00:13:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やめろッて!」「アアー?」ミラーボールシャツのヤクザがすごんだ。「シィーヒッ……シィー、ヒッ……」襤褸切れの男は痩せた手で頭をかばい、嗚咽した。はだけた布の下、痩せた胸が垣間見えた。そこには「禅」の漢字がある。刺青……否。まるで焼きゴテ拷問の痕だ。59

2012-12-05 00:17:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒーッ、ヒーッ……ニンジャ」襤褸男はフードの下からエーリアスを見た。その目が恐怖で見開かれる。エーリアスも眉根を寄せた。この襤褸男、ニンジャなのだ!彼女は困惑した。三人のヤクザは非ニンジャである。「あンた……?」「チェラッコラー!姉ちゃんかわりにカネ払うか?ア?」 60

2012-12-05 00:22:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

頭目とおぼしきキモノヤクザが凄んだ。「身体で払わせましょうぜ」とジャーヘッドヤクザ。「そうね」キモノヤクザが頷く。「ちょっと待て!断るに決まってんだろ」「スッゾオラー!」ミラーボールシャツのヤクザが被せるように叫び、向かって来た。手にはブラックジャック(角材を詰めた革袋)! 61

2012-12-05 00:25:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エーリアスは反射的に跳びさがり、両手をぶらぶらと振りながら、フットワークを踏む。「知らねえぞ。俺だってそこそこやるんだぜ。本当だぜ」「アッコラー!」ミラーボールシャツヤクザがブラックジャックを叩き付けにきた。「イヤーッ!」エーリアスはその顎先に掌を打ち込んだ。意外にもハヤイ!62

2012-12-05 00:27:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!?」不意をつかれたミラーボールシャツヤクザは脳震盪を起こしてその場に倒れた。「ザッケンナコラー!」ジャーヘッドヤクザがスパナで殴りかかって来た。「イヤーッ!」エーリアスは紙一重でスパナをかわし、その顎先に掌を叩きつけた。「グワーッ!」脳震盪!転倒! 63

2012-12-05 00:29:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「い……イケる!」エーリアスは己の両手を見つめて呟き、それからキモノヤクザに凄んだ。「おう、お前も、こんな風になるか?アーッ?」「テメェ……」「今のはアイキドーだ。俺は二歳の頃からやってる……22段だ!こんなナリだからって、ナメんなよ……」「チィーッ」キモノヤクザは逡巡した。64

2012-12-05 00:31:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャ!ニンジャだ!」襤褸男がエーリアスを指差し、震えた。キモノヤクザは一瞥した。「チィーッ……ハッタリかましやがって」言葉とは裏腹に、キモノヤクザはじりじりとすり足で後退を始めている。エーリアスはカラテを構える。「来いよ」「スッゾ!」キモノヤクザは遁走した。 65

2012-12-05 00:36:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「行こうぜ、なあ」エーリアスは襤褸男に手を差し伸べた。「場所変えようぜ。落ち着かねえし」路上で呻く二人のヤクザを横目で見る。襤褸男は震え、逃れようとした。「ニンジャ……」「あンたもだろ」エーリアスは言った。襤褸男はしばしためらった後、手を取り、立ち上がった。 66

2012-12-05 00:39:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エーリアスが驚いた事に、老人と見えたこの男は、実際そこまで老いてはいなかった。中年といったところだ。痩せているのとみすぼらしさとで、ずっと老けて見えていたのだ。「……ドーモ。エーリアス・ディクタスです」エーリアスはアイサツした。 67

2012-12-05 00:41:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

襤褸男は彼女の予想に反して、まともにオジギを返した。襤褸がはだけ、再び胸元の「禅」のスティグマが目に入った。「ドーモ、エーリアス=サン。私はね……ウミノ・スドといいます」 68

2012-12-05 00:43:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ!ハァーッ!」窓から差し込む街路灯の明かりが、青年の筋肉を闇に浮かび上がらせる。執拗な腹筋トレーニングである。「ハァーッ!ハァーッ!」青年は腹筋トレーニングを繰り返す。「イヤーッ!」やがて青年は寝た姿勢から突如回転ジャンプで跳び上がり、膝立ちに着地!「シューッ!」70

2012-12-05 00:51:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

膝立ちの青年を取り囲む闇の中、薄ぼんやりと浮かび上がるは、複数のUNIXモニタ表示。こうしている間も、IRC通信のログが高速で流れ続けている。肺の中の空気を五分かけて吐き出した青年は、床に折り畳まれた赤黒のニンジャ装束を着込んだ。全身の汗はあっというまに蒸発し乾いていた。 71

2012-12-05 00:59:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

青年……セイジは、神聖な赤黒装束に身を包むと、再び部屋の中央へ戻り、アグラ・メディテーションを開始した。握り、開く拳に炎が弾け、火の粉が宙に舞い、消える。そのたび、天井に大きくショドーされた「忍」「殺」の文字が闇の中に浮かび上がる。 72

2012-12-05 01:05:01