山本七平botまとめ/【アパリの地獄船①】/人間が傲慢になれるのは飢えていないときだけ/~日本人の発想から根本的に欠落している「飢餓」~

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/アパリの地獄船/153頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①前略~私は新井氏の私への反論と森氏への反論を…徹底的に読み返しているうちに、編集者として、摘出して著者に問うべき「論旨の食違い」や「論理的矛盾」あるいは「説明不足」等とは別に、氏の発想に、何か根本的に欠落しているものがあるのに気がついた。<『ある異常体験者の偏見』

2012-12-10 21:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

②私にはあって、氏にはない「何か」である。 一体それが何であろうか。 「飢え」だ。 この推定は百%誤りがない、これは「飢餓」もしくは「飢えの力」ともいうべきものを知らない人の論理だ。

2012-12-10 22:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

③「飢餓」――人肉食の噂さえまき散らす「飢餓感」、 そして人間を発狂同様の状態にしてしまい、思いもよらぬ行動を起させるあの「飢えの力」、 それを知っている者の、動物的本能ともいえるあの「飢餓への恐怖」、 氏にはこれが全くないことに気づいた。

2012-12-10 22:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

④「人間は被造物である」などという言葉の、哲学的・宗教的意味は私は知らないし、知る気もしない。 だが人間は、一定量の食物を絶えず注入していない限り正気ではいられないという点では、麻薬中毒患者のような一面があり、(続

2012-12-10 23:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤続>『食物の禁断症状』を起すと『麻薬の禁断症状』以上に狂い出し、麻薬中毒患者同様に動き出すように造られてしまった生物なのだ」と私は思わぎるを得ない。

2012-12-10 23:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥その人がどういう思想・信条を持とうと、どういう社会制度の下で生きていようと、この事には差がない。 私は、医原性麻薬中毒の体験から、特にこの感が深い。

2012-12-11 00:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦人間が傲慢になれるのは、飢えていないときだけである。 飢えてさえいなければ、神の如き気分になって、正義の旗印を高くかかげて全世界を糾弾できる。

2012-12-11 00:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧従ってそういう格調の高い(?)、時には居丈高な論説などを読むたびに、私は「ハハア、この人は満腹しているな」と思わぎるを得ず、従って何の感動も受けないが、(続

2012-12-11 01:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨続>しかし決定的ともいえる「飢え」の中にあって、なお人が口にする鋭い言葉の中には、やはり「人間は人間であって動物ではない」と感じ、生涯忘れられないほどの強い感銘をうける非常に崇高な言葉もある。

2012-12-11 01:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩もっともその言葉を紹介しても「昭和元禄満腹の民」は、何が崇高なのか全くわからないかも知れないが……。 …私は弁護士出身のLというアメリカ軍将校に私的な仕事をたのまれ、彼が転勤するたびに、自分のいる収容所から、あちこちの収容所に出勤するという妙な収容所生活を送っていた。

2012-12-11 02:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪…将官収容所に出勤して「閣下連中は今でも当番づきで特別給与だというが本当か?」ときかれたりした。…まさにその通りで、ここにだけは、当番兵がおり、驚くなかれ「残飯」というものが存在していた。

2012-12-11 02:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫私はA少将の当番兵と親しくなった。彼はもう四十近かったと思う。兵隊は三十以上の人間をみな「ジイ」と呼ぶ。従ってみながジイと呼んでいたので私は彼の名は知らない。 このジイは見るからに実直な人で、昔と全く同じようにA少将につかえていた。これは非常に珍しいことであった。

2012-12-11 03:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬戦争中は閣下、閣下と土下座せんばかりの態度をとり、戦争が終れば、今までの土下座を一変させて罵倒するというような態度は、本人はどういう気持か知らないが、見ている私などには逆にそれが奴隷根性に見えて不愉快であった。

2012-12-11 03:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭罵倒するなら戦争中にすればよい。 しかしそれはできない。 そしてこういう人に限って、今度は収容所長のアメリカの軍人には何一つ言えず、いわば土下座しているのである。 ジイはそういう人でなかった。彼を見ていて気持がよかったのは、彼を律しているのが、一つの「自律」だったからである。

2012-12-11 04:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮もちろんその「自律」の質は私とは違う。 しかし自律が自律である以上、各人各様に違うのが当然で、みなが同じなら、これは自律のように見えて、実は、何者かに律せられている他律にすぎまい。

2012-12-11 04:57:40