山本七平botまとめ/【アパリの地獄船④】/人を狂わす「飢え(ハングリーはアングリー)」/~南京大虐殺の”まぼろし”の中で、起きた捕虜殺害事件とは~

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/アパリの地獄船/164頁以降より抜粋引用。
2
山本七平bot @yamamoto7hei

①…飢えは人を狂わす。 前に『文藝春秋』…川島四郎氏が赤軍派のリンチを栄養学の面、即ち一種の飢えから解説しておられた。 学問的な事は私にはわからないが「空腹は怒り(ハングリーはアングリー)」の言葉通り、単なる一時的空腹さえ、人間の冷静な判断を妨げる。<『ある異常体験者の偏見』

2012-12-12 04:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

②これが「飢え」となり、更にその時、このままでは「餓死必至」という状態に陥るか、陥ったと誤認すると人間は完全に狂う。 飢えは確かに戦争の大きな要素で、これは戦争を勃発させもすれば、やめさせもする。 自分の意思を無視して穀倉地帯に「手が動く」、それが破滅とわかっていても手が動く。

2012-12-12 05:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

③しかし一たび飽食すると、あの時なぜ手が動いたか理解できなくなる。 これは戦場の小衝突や虐殺、収容所の突発事件やリンチ、また捕虜虐殺等における、非常に解明しにくい事件の、真の原因の一つになっている場合が多い。

2012-12-12 05:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

④以下にのべる私の体験は「飢えの力」が、危機一髪、まさに恐ろしい虐殺事件を起すかに見えたときの実情である。 鈴木明氏が『「南京大虐殺」のまぼろし』の中で、次のような事件を記しておられる。 これはこの″まぼろし″の中で、確実に存在した事件の一つである。

2012-12-12 06:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤いわゆる″南京大虐殺″の記録は、私も『百人斬り競争』の分析に必要な部分を相当に徹底的に洗い切ったが、それらの記録は、明らかに次の四つにわかれる。

2012-12-12 06:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥一)多少の誤差はあっても確実に事実であるもの ニ)伝聞と体験が混同しているもの 三)伝聞(戦場の伝聞は非常にあやしい)を事実の如くに記しているもの 四)政治的意図もしくは売名や自己顕示、また時流に媚びる為の完全なデッチあげの四つであり…以下の記録は明らかに一)である。

2012-12-12 07:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦当時その現場にいた平林少佐ほか一名の談話を、鈴木明氏の記事から引用させていただく。 《…「収容した、たしか二日目に火事がありました。その時、捕虜が逃げたかどうかは憶えていません。もっとも、逃げようと思えば簡単に逃げられそうな竹囲いでしたから。それより、問題は給食でした。

2012-12-12 07:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧われわれが食べるだけで精一杯なのに、一万人分ものメシなんか、十分に作れるはずがありません。(中略)庭の草まで食べたという者もいます。ただし、若い将校はしっかりしていました。感心したのを憶えています」

2012-12-12 08:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨『僕はいま、どう想像しても、その極限状態を実感として捉えることはできない。たしかに、千五百人の疲れ呆てた軍隊が、一万あまりの捕虜をかかえた時のあらゆる事態を想定した時、その困惑ぶりはおそらく想像を絶するものがあったろう。』

2012-12-12 08:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩(中略)だから、「捕虜を江岸まで護送せよ」という命令が来た時はむしろホツとした。(中略)「捕虜の間に、おびえた表情はあまりなかったと思います。兵隊と捕虜が手まねで話をしていた記憶があります。(中略)とにかく、江岸に集結したのは夜でした。

2012-12-12 09:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪その時、私はふと怖ろしくなってきたのを今でも憶えています。向うは素手といえども十倍以上の人数です。そのまま向って来られたら、こちらが全滅です。とにかく、舟がなかなか来ない。(中略)捕虜の方でも不安な感じがしたのでしょう。突然、どこからか、ワッとトキの声が上った。

2012-12-12 09:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫日本軍の方から、威嚇射撃をした者がいる。それを合図のようにして、あとはもう大混乱です。一挙にわれわれに向ってワッと押しよせて来た感じでした。殺された者、逃げた者、水にとび込んだ者、舟でこぎ出す者もあったでしょう。なにしろ真暗闇です。機銃は気狂いのようにウナリ続けました。

2012-12-12 10:28:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬次の日、全員で、死体の始末をしました。ずい分戦場を長く往来しましたが、生涯で、あんなにむごたらしく、悲痛な思いをしたことはありません(中略)」

2012-12-12 10:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭いまは郊外で農業を営んでいる鈴木氏も現場にいたというので訪ねてみた。氏は、「自衛であった」ことを、強調して、話に入った。 「兵隊は、本当に一生懸命メシを作ったんですよ。本当に殺るつもりなら、何であんなに、こっちが犠牲になってやるもんですか。(中略)」》

2012-12-12 11:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮私はこの原因のほとんどを「飢え」に、そして一部を「暗闇」と「水への不安」におく。 私自身この時の中国人と全く同じ位置に立たされたことがあったから、そう考えざるを得ない。 鈴木明氏は「護送する側」の恐怖を書いておられる。確かにそれがある。

2012-12-12 11:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯と同時に「護送される側」にも、また物凄い恐怖がある。 そしてこの両者の恐怖をエスカレートさせ、ついに、時には共に破滅させる爆発に至らせる引金が、実に「飢え」そのものと本能的ともいえる「餓死への恐怖」、そしてここでも、また我々の場合でも「暗闇の恐怖」と「水への恐怖」がある。

2012-12-12 12:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰これらすべては、人間のもつ本能的ともいえる恐怖であろう。 それは「アパリの地獄船」とか「バターンの復讐」とかいわれた事件であった。 もっとも「バターンの復讐」はデマで、実態は、前記の中国兵の場合とほぼ同じであったろう。

2012-12-12 12:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱アメリカ人の計画的な本気の復讐は、そんな手ぬるい中途半端なものではない。 彼らは何かやるとき「手心を加える」ということを知らない。

2012-12-12 13:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑲これは是非善悪の問題でなく、生き方・考え方の問題だから、彼らと交渉や議論をやるのなら「こちらも手心を加えるから、そちらもお手やわらかに」などという心構えでは絶対に失敗する。 失敗してから相手を非難しても無意味である。

2012-12-12 13:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑳やるのなら、自分が潰れるか相手を潰すか、双方必死でもちこたえて妥協できる一点を探すか、のいずれかしかない。 従って事前に万全の準備をし、徹底的な長期戦を覚悟してからはじめないと、必ず失敗する。

2012-12-12 14:28:00