よんさまの数学講座・実数編(仮題)

こういう講座を待っていましたた!と拍手でお出迎えしたくなるお話です。
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四一郎 @yon_ichiro

(22)一方、「ある・ない」と「ない・ある」はいくらでもありえます。たとえば、x≦3を満たす有理数全体の集合をA、それ以外の有理数全体の集合をB、とすればこれが「ある・ない」の例。これは、A、Bへの分割をナイフで切るイメージでとらえると、刃が有理数にカチンとあたった状態。

2012-12-19 23:56:39
四一郎 @yon_ichiro

(23)そこで終われば簡単だったんですが、実は「ない・ない」の場合がありうるんですね。たとえば、t×t≦3を満たす有理数全体の集合をA、それ以外の有理数全体の集合をB、とすると、これが「ない・ない」の例。さっきのたとえで言うと、ナイフが有理数たちをすり抜けスカッと空を切った感じ。

2012-12-19 23:59:03
四一郎 @yon_ichiro

(24)で、この「ない・ない」で困ってしまわずに、「いや、そのナイフは有理数じゃない数に当たってるんだよ! そういうのを無理数って言おう!」っていうのが、デデキントの実数の構成です(有理数と無理数を併せて実数といいます)。スカッと行ったみっともなさのあまり逆切れした感じですな。

2012-12-20 00:01:16
四一郎 @yon_ichiro

(25)でも、この強弁を通して、有理数の隙間(いっぱいあるなあ……)を全部埋める(一つ一つ埋めてたら終わらないですよ、概念的に、ずばっといっせいに埋めるんです)と、さっき行ったような数列の極限について、一般的なことを主張できるようになる。そこからさらにいろいろなことができます。

2012-12-20 00:03:17
四一郎 @yon_ichiro

(26)続いてカントール(Cantor)による実数の構成法。こちらは有理数列を使います。数列 x1、x2、x3、…は有理数からなる列で、しかもコーシー列であるとしましょう。コーシーは数学者の名前。「コーシー列」の説明は次にしますが、いかにもどこかの数に収束してくれそうな感じです。

2012-12-20 00:07:05
四一郎 @yon_ichiro

(27)数列x1,x2,x3…がコーシー列であるとは:どんなに小さい正数εを言われたとしても、「この番号から先の数は、どの2つをとっても、その差がεより小さいよ!」と主張できるような、そんな番号を提示できる、ということ。大雑把には、先に行けばいくほど互いの差が際限なく縮まる数列。

2012-12-20 00:11:49
四一郎 @yon_ichiro

(28)コーシー列は、いかにも収束してくれそうですが、やはり、有理数だけしかない世界では、いつでも収束先があるとは言い切れません。そこで、どんなコーシー列でも収束することにしたい、わけですが……。ここでカントールは、「コーシー列自体を数とみなそう」という乱暴なことを言うのです。

2012-12-20 00:14:27
四一郎 @yon_ichiro

(28番外)(今のところ、(28)で言った内容は不正確。あとで細くします。有理数からなるコーシー列全体を、0に収束する有理数からなるコーシー列全体で、割る、というのが正確です。)

2012-12-20 00:15:53
四一郎 @yon_ichiro

(29)有理数からなるコーシー列が、もしもとある有理数rに収束するなら、そのコーシー列はそのrと同一視する。もしもどんな有理数にも収束しないならば、そのコーシー列こそが(有理数ではない)未知の数に対応しているのだ! と言い切って、それをとある無理数と同一視する。

2012-12-20 00:18:13
四一郎 @yon_ichiro

今日のネタはやさしく書くのがむつかしい……私の修行不足が如実に現れている……。

2012-12-20 00:19:14
四一郎 @yon_ichiro

(30)《有理数からなるコーシー列》がもしもある有理数に収束しているならば、その《列》とその有理数が対応していると見られる。これを逆手にとって、たとえ《コーシー列》が有理数に収束していないとしても、それはある数(非有理数)に対応しているのだ、ということにしてしまう。

2012-12-20 00:22:27
四一郎 @yon_ichiro

(31)やっぱりこう書くとえらい強引な手法ですねえ。デデキント流でもカントール流でも、「こういうとき困るじゃん」「いや、困らないように新しい数つくりゃいいんだよ」ってことだもんなあ。でもここを一回飲み込めば、あとの数学での仕事は楽なんですね。

2012-12-20 00:26:26
四一郎 @yon_ichiro

(32)なお、カントール流では「全然違う2つのコーシー列の表す数(実数)が一致していると考えるしかない」という状況が生まれます。これはまあ仕方がない。実際には、差が「0に収束するコーシー列」になるような2つのコーシー列は同一視する、というテクニックでなんとかします。

2012-12-20 00:33:49
四一郎 @yon_ichiro

(33)というところで、一応、実数なるものをどう定義するかは説明しました。なお、実は、そもそもの問題の出発点だった「a1<a2<…<2を満たす数列」のようなものすべてに対して、収束先を用意する、ということによっても、実数は作れることを付け加えておきます。

2012-12-20 00:35:48
四一郎 @yon_ichiro

(34)で、ここまでぐだぐだと述べてきて、みなさん、実数の構成ってどんなものだか、雰囲気だけでもわかっていただけたでしょうか? どうでしょう、なんか構成法がずいぶん抽象的というか、一括処理すぎるというか、雲をつかむようというか……あまり「手作り」の感じはしないですよね……。

2012-12-20 00:38:42
四一郎 @yon_ichiro

(35)「有理数全体をカットするありとあらゆるやり方」にせよ、「有理数からなるありとあらゆるコーシー列」にせよ、なんだかずいぶん大げさな話で、具体的に「数を作った」という実感にとぼしい。そう、この実感のとぼしさこそが、《実数》という名前に反して、その怪しさの原因だと思います。

2012-12-20 00:45:48
四一郎 @yon_ichiro

(36)よく無理数の例として出されるのは、√2 などの「ルートの数」ですが、これは「x^2-2=0 の(正の)解」というように数式で容易に特徴づけられるので、やっかいではない。(このように、有理係数n次方程式の解となる実数を「代数的数」といいます。実数全体からすると、稀です。)

2012-12-20 00:53:31
四一郎 @yon_ichiro

(37)実際にやっかいなのは、ぜんぜん特徴づけがない実数です。そして、そんなのがほとんどです。「少ない」とか「ほとんど」とかいう言葉の意味をきちんというには《濃度(cardinarity)》のことを言わねばなりませんが、それはまた今度、ですね。

2012-12-20 00:58:22
四一郎 @yon_ichiro

(38)直線を一本考えると、それを数直線だと思い、その上には数がぎっしり乗っていると考える、のはごく普通のことに思えます。しかし、そこでいう「数」とは大半が無理数で、その特徴づけ、というか、正体は、全然言語化できません。そんなのも数だと思って、数学は進みます。

2012-12-20 01:03:19
四一郎 @yon_ichiro

(39)数学というと、絶対不変の真理を追究している! とか、逆に、非人間的な世界! とか思われがちなのですが、実際には、人間がその心をもって「こうでないと困るよな、それにはこうすればいいよな、でもなんか怪しいものできあがっちゃったな……」とか悩みながらやっていることなのですよ。

2012-12-20 01:05:08
四一郎 @yon_ichiro

(40)実数とは何か? ということについては言い出すときりがないのですが(完備性とか全然言ってないし)、とにかく定義とその精神だけは書いてみました。私の手に負えることではなかったかもしれませんが、わかりにくいことがあればどうぞお聞きください。それでは、今晩はこれにて!

2012-12-20 01:07:34