山本七平botまとめ/【鳥屋籠(とりやかご)】/鷹にも人間にも必要な教育(鳥屋籠)とは/~徹底した「鳥屋籠」がない現代教育の不幸~

山本七平著『無所属の時間』/鳥屋籠/32頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【鳥屋籠】大分前、至光社の武市さんと対談した。武市さんは、日本よりむしろ海外で有名な、絵本の製作者・出版者である。対談は大変に面白く、私にとっては対談というよりむしろ、教えられることのみ多かった。<『無所属の時間』

2012-12-20 04:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

②中でも特に感銘をうけたのが、鷹匠による鷹の教育法である。 鷹は大空を自由自在に飛びまわる猛鳥であり、元来、人間の教育などをうけつける存在ではない。 一体どうやって教育するのか。 教育はまず、徹底的な訓練、ときには鞭による体罰も加えられる訓練ではじめられる。

2012-12-20 04:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

③そして鷹が、鷹匠の指示に盲従するようになると、この徹底的な訓練は終わり、鳥屋籠(とりやかご)に入れられる。 鳥屋籠とは目ばりをされた、中がまっくらな籠である。 餌は与えられるが、この暗黒と孤独の中に、鷹は、数ヶ月押し込められる。

2012-12-20 05:27:52
山本七平bot @yamamoto7hei

④鳥屋籠から出された鷹は、羽毛が抜けかわり、教えられたことは全く忘れてしまって、全然別の鷹になり、完全に野性に戻ったように見える。 そこで、再び教育がはじめられるが、今度は一切、一方的訓練はせず、体罰も加えず、鷹匠は専ら鷹と対話をして教えていく。はじめは全く手に負えない。

2012-12-20 05:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤しかし、ある段階まで来ると、鷹はするするとかつて教えられた事を思い出す。そしてこの思い出した事は、既に教えられた事でなく、鷹自身のものとなっているので、鷹は、自らの判断によって、意識する事なく過去の訓練を活かし、ここではじめて、一人前の鷹が出現するのだという。

2012-12-20 06:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥人間の教育も、基本的には同じことではないのか、違う点があるとすれば、人間は、自分の意志で鳥屋籠に入ることができるということだけではないのか、と武市さんは言った。

2012-12-20 06:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そして今の教育の不幸は徹底した訓練も「鳥屋籠」もない事ではないのか。 鷹の訓練は複雑とはいえ人間より簡単である。 人間は生涯、様々な”教育”を受け続けねばならない。 従って絶えず一定期間自らを「鳥屋籠」に入れておかないと、生涯何も身につかないのではないか、と武市さんは続けた。

2012-12-20 07:27:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧私は武市さんの話を聞きながら、多くの先達、先輩、画期的な仕事をした同輩を頭に浮かべていた。 面白いことに、これらの尊敬すべき人びとには、みな、一種の鳥屋籠時代があった。 それはときには軍隊であり、虜囚であり、また闘病であった。

2012-12-20 07:57:38
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨更に考えてみれば、鎖国時代も戦争中も一種の鳥屋籠時代なのかも知れぬ。 大正期に、二大政党による政権の交替が、様々な問題を含むとはいえ、既に実現していたのだから。 そしてそれらは戦争中に完全に忘却させられ、そうされる事によって逆に身につき、戦後に受け継がれたのかもしれない。

2012-12-20 08:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩だがわれわれは鷹ではないのだから、以上のように無理矢理″鳥屋籠″に入れられる体験はもうたくさんである。 いま考うべきことは、武市さんの言う通り、各人が、どのようにして自らを鳥屋籠に入れるかということであろう。

2012-12-20 08:57:44