バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #4

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アッ、アハッ、アハハハ!」サラリマンは名刺の代わりにハンケチを取り出し、額の汗を拭う。「恐ろしさを体験できて光栄です!コワイ」場は騒然となり、闇カネモチ達はざわざわと互いに言葉をかわした。「ドヒョーが汚れてしまうほどの激しいイクサであった」ガンダルヴァが恍惚と呟いた。 46

2013-01-16 14:35:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドヒョー上ではバロールが再び元の姿に戻り、奥ゆかしく待機していた。「勝者バロール=サン!」まばらな拍手が起こる。ガンダルヴァは咳払いをし、もう一度言った。「勝者!バロール=サン!寿いでいただけますかな?」「ワ……ワオオーッ!」闇カネモチ達は笑顔になり、競い合って拍手した。 47

2013-01-16 14:47:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前とあのニンジャと。どちらが出来る」去り際、オーバーウェルムは己を殺すかのように微動だにしないアコライトを見下ろした。「……」「お前の明日の相手は彼奴がよかろう」オーバーウェルムは呟き、身を翻した。その横を、ストレッチャーに乗せられたシマムラが運ばれて行った。 48

2013-01-16 14:52:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヨージンボーに気に入られたか、ボンズ殿?エエッ?」ジバヌチが鋭い目を向けた。「だがワシは満足しておらん。まだまだ腑抜けたイクサよ。もっとだ。タイガーを檻から放て」「……あなたの拘りが不思議です」アコライトは言った。ジバヌチは顔を歪めた。「天啓よ」 49

2013-01-16 15:10:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第三戦が始まったが、ジバヌチはさほど注意を払わなかった。彼は話し続けた。「ケチなニンジャ、ケチなイクサを回し、イディオット同士、雁首揃えて上っ面のタフを競う……くだらん社会よ。安い社会。実際安くてかなわん」爛々と輝いていた。「……安くてかなわんのだ!」 50

2013-01-16 15:14:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「キレイトテモ……ステキ……」「ステキコト……」「ダイスキ……」「カワイイ……」転がすような笑いと喘ぎ声、湯が飛沫をあげる音、キナコを褒め、愛でる声。白く綺麗な、象牙めいた指、差し出されるサケ、没薬と蒸気で煙る世界はスクリーン越しめいて、なかば夢の中に遊ぶようだ。 52

2013-01-16 15:36:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

世界は金色で、緑の草木が揺れ、湯は心地よく、嫌なものが何も無い。島へ移送される途中に感じていた恐怖も絶望も、更には、そうなるよりももっと昔に彼女が苛まれていた閉塞感も、今こうして触れている不可解な世界と同様、煙ごしのおぼろな風景でしかない。 53

2013-01-16 15:41:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キナコをつききりで世話するのはハチミツという名前のオイランだ。神の園ではオイランこそがミコー・プリエステスであり、美と快楽の深淵に身を沈め、ひいてはガンダルヴァを悦ばせる事が神の教えにかなう。キナコは彼女の方が自分よりもずっと美しいと思う。でも、彼女はキナコが好きだという。 54

2013-01-16 15:47:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「本当にステキ、カワイイ」ハチミツはくすぐったい。「ヤメテ、ヤメテ」キナコは笑い出した。跳ね散る湯はガラスを散らしたようにキラキラ光り、かぐわしい香りを放つ。いつからここに?いつまでここに?キナコはふと、考えようとする。とても馬鹿馬鹿しいことだ。「夢みたい」キナコは呟く。55

2013-01-16 15:52:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「夢?本当よ、全部ホントウよ」ハチミツはキナコの髪を撫でた。「ガンダルヴァ様が全部くれたのよ」「うん」キナコは涙を拭った。「うれしくて」「悲しい?」「もう悲しくない」「悲しいの?」「暗くて、寒くて、嫌だった。みんなが人の事を妬んで、怒って……」「やめよう?考えるのやめよう?」56

2013-01-16 15:57:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「うん」キナコは目を閉じた。ドクターフィッシュ。水瓶に満たされた爽やかな飲み物。果物。「キレイ」暗い自室、ストーブを焚いて、UNIXの前でポーズをとった……夜中の三時、部屋の扉を母親がうるさく叩いて……中継してるのに。いやらしい目で見てきた、あの婚約者。みんな幻だった。 57

2013-01-16 16:03:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

きっとキナコの努力が実ったのだ。褒めてくれる。キレイな、暖かな、カワイイ……「カワイイ」ハチミツが笑った……「おばあちゃん、ごめんなさい」キナコは呟いた。「おばあちゃん?」ハチミツが頬を撫ぜた。「ううん、知らない」「見て、もうすぐ」ハチミツが香炉を掲げる。「あなたももうすぐ」58

2013-01-16 16:11:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キナコはうっとりと、ヴェールの向こうで揺れ、戯れる影達を眺めた。「ガンダルヴァ様」ハチミツが呟いた。巨大な蛇のシルエットが身をもたげ、吼えた。笑い声が狂おしく、けたたましく、没薬はますます濃く、水飛沫が踊り、ハチミツが笑い、「もうすぐ」笑い声、絶叫、笑い声、煙。 59

2013-01-16 16:18:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴウゴウと風が鳴り、波が岸壁に砕ける音が窓越しに届く。アコライトは背筋を伸ばし、正座して待っていた。正座する彼の目の前のタタミには、カエルのオリガミが置かれている。これは単なる飾りではない。オリガミ・メールなのだ。差出人は……アナスタシア! 61

2013-01-16 17:03:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エキジビションを見届け、中庭から去ろうとするアコライトの装束へ、すれ違いざまにアナスタシアが滑り込ませたのがこのオリガミだった。アコライトは自室へ戻ったのち、カエルを開き、中に書かれたメッセージを読んだ。「私を助けて。あなたを助けるために」……文面はそのように始まった。 62

2013-01-16 17:06:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナスタシアはアコライトが何らかの秘めたる目的を持つ事を察知し、さらに、今日のエキジビションを通して、そのカラテの実力を確かめた。オリガミには最小限の情報しか書かれていなかった。警戒しているのだ。かわりに、彼女を今夜、自室へオイランデリバリーするよう、指示されていた。 63

2013-01-16 17:17:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アコライトは彼女の指示に従った。宮殿の移動は事前の想像以上に制限されている。彼のニンジャ洞察力は廊下や庭のあちらこちらに設置されたカメラ類を見つけ出していた。巡回する護衛戦士も多い。闇取引の場だけあって、厳重の極みである。何らかの糸口を掴まねば、ただカラテして帰る事になる。 64

2013-01-16 17:20:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナスタシア。彼女は単なるジョイ・オイランではない。ガンダルヴァの側に侍り、秘書めいた仕事も任されている。信頼を得ているのだ。そんな彼女が、アコライトに何の助けを求めようというのか。見当がつかぬが、何らかの突破口になる可能性もある。垂らされたこの糸を見過ごす事はできない。 65

2013-01-16 17:28:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

当然、ボンズであるアコライトの佇まいを不審視したガンダルヴァないしオーバーウェルムが、神の園に害なす者を炙り出すため、罠を張ったという見方もある。しかし、まごまごしていてはダメだ。危険を冒さねば確かめられぬ物事があり、つまりは今この時である。 66

2013-01-16 17:31:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」アコライトの視線は戸口に定められていた。その隣に置き時計がある。約束の時刻から30分が過ぎた。彼は待った。打ち寄せる波の神秘的アンビエント音……。 67

2013-01-16 17:40:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「……」さらに四分の一時間が経過。アコライトは立ち上がろうとした。そのとき、戸口がノックされた。「ドーモ」女の声である。アコライトは眉根を寄せた。「……どうぞ」「よかった」 68

2013-01-16 17:41:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アコライトは素早くオリガミを懐に収めた。入り込んできたのは、黒髪のオイランであった。「ドーモ、アコライト=サン」彼女はその場で正座し、額をタタミにつけた。「フワリドスエ」「ドーモ、フワリ=サン」アコライトはおずおずとオジギを返した。「貴方は……その」 69

2013-01-16 17:46:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アナスタシア=サンが私を遣わしたドスエ」フワリはにっこり笑った。かがんだことで、豊満な胸が強調される。「アナスタシア=サンが、貴方を?」「……例の件で」フワリはアコライトを見た。二人はしばし見つめあった。「例の件ですか」「そうドスエ」たおやかに頷いた。 70

2013-01-16 17:50:56