海老原嗣生『決着版 雇用の常識「本当に見えるウソ」』への疑問
パワハラやセクハラ、同僚の雰囲気、残業のレベル、そういった定性情報を随時入力させる。インターン修了時にもDBに就業情報を入れる。こうやってDBを充実させていく、というもの。
2013-01-26 10:29:132ちゃんねるのような暴論や、やらせ発言などで場が汚れないように、インターン学生の担当教授や、合同研修センター、ブラック駆け込み寺など、きちんとした監視下にある情報を載せる、と書かれてある。
2013-01-26 10:29:22しかし少し考えればわかることだが、自分が参加したインターンシップ先や就職先の「雰囲気」のような情報を、誰もが閲覧できるDBに書き込むことは、その本人にとってのリスクが大きすぎる。
2013-01-26 10:29:34書き込みが匿名だとしても、インターンシップ先や就職先が中小企業であればなおさら、個人が特定されやすい。もし私がその学生を受け持っていたら、職場でこんなことを見た、こんなに残業があった、といった情報を学生がオープンなDBに書き込むことは止めるだろう。
2013-01-26 10:29:50また、企業も学生に守秘義務を課しているだろう。内定した学生が、さっそく内定後のことについては口外しないように、と口止めされ、研修内容などに関して語れなくなる、という実態もある。
2013-01-26 10:30:11もちろん大学がインターンシップ参加後の学生の振り返り情報を持っていたり、問題のある就職先に関する情報を持っていたりすることはある。それが体系的に保存され、活用されているかどうかは所によりけりだろうが。ハローワークも同様だろう。
2013-01-26 10:31:16しかしそれは、オープンにできる情報ではない。個人を守る、という観点からも、そして、一人の個人のネガティブな感想を不用意にオープンにすることに組織としての責任が伴うという観点からも。通常は、ネガティブな情報は内々の場での注意喚起に用いられているだろう。
2013-01-26 10:32:02海老原(2012)は「食べログ」のようなDBと書くが、「食べログ」のようなDBとは性質が異なり、職場の「雰囲気」などのナマの情報、特にネガティブな内容を含んだ情報は、オープンなDBには簡単にはできないだろう。
2013-01-26 10:32:23結局、オープンにできるDBは、現在の就職情報サイトに掲載されている「先輩社員の声」のような、あたりさわりのない内容にしかならないだろう。そのことは、海老原氏も当然想定できるはずなのだが、そういう懸念への言及は海老原氏は行っていない。
2013-01-26 10:32:52なお、公平を期して言えば、海老原(2012)の中小企業情報データベースは、フル・オープンなものであるとは書かれてありません。しかし、学校やハローワークなどの閉じた組織の内部で関係者だけが閲覧する情報ではないように読めます。
2013-01-26 14:45:01(7)その他、誤表記と思われるもの
ついでに海老原(2012)の誤表記と思われる箇所を以下に記しておく。(最初は誤表記を筑摩書房に連絡しようかと思っていた。そのうち、そういう問題ではないな、と思い始めた。)
2013-01-27 23:32:02↓ (誤)NはNumber → (正)NはNumber of cases (参考)→http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2010/11/60kbo112.htm
p.61の図表6-1に「N」が「48.0%」とあるが、NはNumber つまり、この設問に関する有効回答数と考えられるので、「48.0%」という表記は変。正しくは「48」か?(元調査は未確認)
2013-01-27 23:32:15p.84-85、図表8-6の解説に「8つの項目のうちの、5つまでに一つの傾向がみられるのだ(太字で示した項目)」とあるが、項目はいずれも太字では表記されていない。
2013-01-27 23:32:24さらに、図表8-6は一見すると8項目ではなく9項目あるように見える。最初の「問題点がある」という項目だけは性質が異なるのだが、それが区別されていない。
2013-01-27 23:32:37そして、残り8項目の%が、「問題点がある」と回答した企業を100%とした場合の内訳なのか、回答企業全体に占める割合なのか、この図表では判然としない。
2013-01-27 23:32:51元のデータはこちらhttp://t.co/PIB2mWvmの「付属統計表(企業調査)」の第9表。これを見ると8項目の%は「問題がある」と回答した企業を100%とした場合の内訳なのではなく、回答企業全体に占める割合であることがわかる。
2013-01-27 23:33:03p.165 雇用戦略対話第7回会合の資料1を伝える日経記事への批判の中で、【内閣府の推計は、「高等教育機関進学者」であり、ここには大学のほかに、専門学校・短大・高専が含まれている】と書かれてあるが、
2013-01-27 23:35:22確かにこの資料には「高等教育」という記載はあるものの、最下段では「大卒・専門学校卒」と書かれてある。この資料には「短大・高専」は含まれていないように思える。 http://t.co/hy9zSCqA
2013-01-27 23:38:03そもそもこの内閣府の推計で、なぜ短大・高専を無視して大卒に専門学校だけを加えたのかは不明であるし、「大卒の2人に1人」というこの資料1の記載も不正確(大卒だけではなく、少なくとも専門学校卒を含んでいるので)。
2013-01-27 23:36:34つまりは、日経記事がいいかげん、というよりも、そもそもこの内閣府の推計自体があまりにもざっくりとしすぎていることに問題があると思う。以上、さしあたり気づいた範囲で記しておきます。
2013-01-27 23:36:55