西住殿の戦車講話#6 「装甲と砲弾の歴史Ⅳ」

西住殿による装甲と砲弾の歴史第四回。 今回はHEATのお話です。 従来の運動エネルギーに頼った砲弾とはひと味違います! ※修正版
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西住みほ @Miho_Nishizumi

装甲と砲弾の歴史その4修正版。成形炸薬弾(HEAT)についてです。例によってたいした事はつぶやかないので過剰な期待はしないでくださいね。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:01:03
西住みほ @Miho_Nishizumi

成形炸薬弾とは、主として対装甲車両用として使われる化学エネルギー弾です。High Explosive Anti Tank(対戦車榴弾)の略として「HEAT」とも呼ばれます。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:02:17
西住みほ @Miho_Nishizumi

High Explosiveというのは榴弾(炸薬を内蔵して周囲に破片をばらまく砲弾)ですが、HEATは炸薬を使用してはいますが破壊の原理は通常のHE弾とは大きく異なります。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:04:22
西住みほ @Miho_Nishizumi

成形炸薬弾という名前が示すとおり、この砲弾の弾頭部は炸薬をすり鉢状に成形した物が用いられます。すり鉢状に成形した炸薬を後方から燃焼させると、その凹部の中心に爆発のエネルギーが集中するという現象が起こります。これをモンロー効果といいます。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:06:49
西住みほ @Miho_Nishizumi

HEATのすり鉢状の炸薬の表面には金属製のライナーが取り付けられています。金属は極端な高圧になると高温での融解ではなく、流体として振る舞うという特性があります。この限界点を「ユゴニオ弾性限界」と呼びます。ライナーはモンロー効果による高圧でユゴニオ弾性限界を超えます。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:08:57
西住みほ @Miho_Nishizumi

ユゴニオ弾性限界を超えて流体化した金属ライナーは融着体とよばれる金属塊となって前方に高速で放出されます。これが「メタルジェット」です。この金属ライナーによる威力向上をノイマン効果と呼びます。メタルジェットはガスではなく、超音速で挙動する可塑性を持った固体金属です。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:11:28
西住みほ @Miho_Nishizumi

「可塑性を持ってる(流体のように振る舞う)けど、固体だよ」と言われてもピンと来ませんよね。まあ「とんでもない高圧がかかると、金属は流体のようになっちゃうんだよ」と思ってください。物理の専門家が聞いたら「違う!」と怒られそうですけど。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:14:17
西住みほ @Miho_Nishizumi

HEATが装甲に着弾すると、まず先端に取り付けられた着発信管によって後方の火管から起爆します。モンロー効果によって爆圧は凹部の内側に集中、前方に噴出します。この圧力でユゴニオ弾性限界を超えた金属ライナーも同時に前方に噴出、メタルジェットを形成して装甲に衝突します。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:22:10
西住みほ @Miho_Nishizumi

装甲に衝突したメタルジェットは、装甲に穿孔します。単純に穴を穿つだけでなく、装甲もユゴニオ弾性限界を超え、流体として振る舞い浸徹されます。装甲が貫徹されると、炸薬の爆風と燃焼ガスが侵入。内部の乗員や機器を殺傷・破壊します。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:24:56
西住みほ @Miho_Nishizumi

HEATの構造と、それによる装甲浸徹のイメージ図です。 #装甲と砲弾 http://t.co/nkRBg9vJ

2013-01-26 15:26:16
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西住みほ @Miho_Nishizumi

「可塑性のある固体金属」という妙な特性のメタルジェットですが、主装甲の外側に一枚鉄板を置いただけで威力は極端に弱まってしまいます。その特性を利用したのがスラットアーマーや中空装甲です。ドイツのシュルツェンなんかも同様の効果がありました。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:28:53
西住みほ @Miho_Nishizumi

ようするに、メタルジェットによる装甲の浸徹さえ防げたら、そのあとに続く爆風と燃焼ガスの流入は防げるわけです。逆に言うと、それが防げなかった場合、つまり装甲が浸徹・貫徹された場合、乗員の生存はほぼ絶望的になります。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:31:07
西住みほ @Miho_Nishizumi

なお、HEATは運動エネルギー弾であるAP弾やAPFSDSなどと違い、砲口初速・着弾時の弾速による威力の差がありません。ですので、高初速の戦車砲などに限らず、個人で携帯できる対戦車兵器や無反動砲に使っても戦車を破壊することが可能です。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:33:23
西住みほ @Miho_Nishizumi

HEAT自体はもともとは対戦車兵器というよりトーチカ破壊などのためのものでした。ところが、戦車の装甲の発達により、対戦車ライフルなどで対抗出来なくなってくると、成形炸薬弾を対戦車用弾頭として用いるようになりました。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:35:43
西住みほ @Miho_Nishizumi

バズーカやパンツァーファウスト、RPG-7などの個人対戦車兵器には、ほとんどこのHEATが用いられています。低初速であっても威力が削がれないHEATだからこそ、こういう兵器に使えるわけです。これが高初速を必要とする運動エネルギー弾ではこうはいきません。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:39:23
西住みほ @Miho_Nishizumi

スラットアーマーや中空装甲、爆発反応装甲など対HEAT能力のある装甲を貫徹するためには、タンデム形式のHEATが用いられます。主弾頭の前にサブ弾頭を置いて、二段構えで装甲を突破するという考え方ですね。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:41:28
西住みほ @Miho_Nishizumi

成形炸薬弾は対戦車兵器以外にも魚雷などに使われていたりします。最近の魚雷は誘導精度が上がって、直撃を期待出来るようになったため、成形炸薬弾で船殻を撃ち抜くことが可能になったわけです。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:43:42
西住みほ @Miho_Nishizumi

APFSDSは炸薬を用いていませんが、塑性流動を生じさせて装甲を浸徹する、という点ではHEATと似た装甲浸徹理論を使っているといえます。こちらは超高速で大きなL/D比の重金属製弾芯を装甲にぶつけ、結果ユゴニオ弾性限界を超えて塑性流動を起こすのですが。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:46:15
西住みほ @Miho_Nishizumi

HEATとAPFSDSが共に塑性流動を利用してる(HEATはモンロー/ノイマン効果によるもの、APFSDSは重金属の砲弾を超高速で装甲面に命中させ塑性流動を起こさせるものという違いはあるけど)のは、案外知らない人が多い気がします。だから共に複合装甲が有効なんですが。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:48:52
西住みほ @Miho_Nishizumi

ちなみにHEATには副次的にHE(榴弾)としての効果が期待出来ますが、基本的に軟目標に対しては効果があまりありません。そこで登場したのが多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)です。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:51:04
西住みほ @Miho_Nishizumi

HEAT-MPは装甲目標に対してはHEATとして、人員などの軟目標に対してはHE(榴弾)として射撃することが可能になっています。同口径の榴弾に比べると若干威力は落ちますが、汎用性の高さから多く使われています。 #装甲と砲弾

2013-01-26 15:53:27
西住みほ @Miho_Nishizumi

90式戦車用のJM12A1の写真があったので貼っておきますね。 #装甲と砲弾 http://t.co/INp8WBSF

2013-01-26 15:56:38
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西住みほ @Miho_Nishizumi

ロシアの125mmHEATの弾頭部はこんな感じです。翼安定式なので、HEAT-FSなどとも呼ばれたりします。 #装甲と砲弾 http://t.co/kQG1yV3E

2013-01-26 16:01:03
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西住みほ @Miho_Nishizumi

さて、とりあえずHEATの紹介はおしまいです。おつきあいくださった皆さん、ありがとうございました。 #装甲と砲弾

2013-01-26 16:02:09