第四話 「護るべき笑顔は~ノー・ティアー!ノー・アゲイン!」 #6 「トライ&メイク」
- hosidukuyo
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「親戚のお姉さんみたいなもんさ」そう答えた勇矢の言は嘘では無い。「深水先生みたいな?」「『そっち』じゃない。まあ血縁関係は無いけどな…ほら食えよ…あーやが泣くぞ」ちらちら、と絢女が二人を窺っていた。彼女は料理を食べて貰えないと泣く。先程も夜葉の遠慮のせいで泣きかけた。 89
2013-02-04 01:11:02浅空勇矢は嘘を吐かない。夜葉の胸を狙ったのは本当だった。しかし襲われたのもまた事実である。裕岐は、彼が「嘘を吐かない様に真実を隠した」ことを見抜いていた。だがそれを指摘はしない。浅空勇矢が、嫌いな相手や敵を家に上げることを何より嫌う、と知っていたからである。 91
2013-02-04 01:11:13――19:12。新渡町、駅北部、シャッター街。「……どういう…ことだ……!?」UARの魔術師たちは一様に困惑していた。成田に着き、入国審査を終え、二時間ほどかけて新渡町に着いた彼等は、即座に半数を始点の儀式場…廃ビルへと向かわせていた。 92
2013-02-04 01:15:30そこで内部の調査を行う筈だったのだが、それは不可能となっていた。ビルが既に解体され、基部が僅かに残るのみだったからである。まだ解体の予定は先だった筈だ。「やっぱりあいつら裏切ったのか!?」「何故そう思う?」「だって無いじゃないですか!」「…馬鹿か」 93
2013-02-04 01:15:43「儀式場は間違いなくここだ。そして儀式は成功した。つまり先週の時点ではビルは間違いなくあった筈だ…例えワイドリバー達が裏切っていようがいまいが、工事予定の報告が誤っていようが偽りだろうがな…」一団のリーダーが的確に分析する…しかし彼にとっても解せないことだった。 94
2013-02-04 01:15:52日本の建築・解体技術が優れていようと、この規模の工事を一週間で行うだろうか?可能かも知れないが、かなりの突貫作業の筈だ。暫くして、現場付近で調査していた部下が戻ってくる。彼の情報はリーダーの仮説を裏付けるものだった。やはり本来の解体予定は来月であった。 95
2013-02-04 01:16:05そこに先週の木曜日、担当の建設会社に急遽多額の資金の振り込みと共に、市からの依頼があったらしい。廃ビル跡に出店予定の企業がその出展予定を早めたいと通告してきたのだという。一週間以内に最低でも地階までは解体して欲しいとの依頼だった。 96
2013-02-04 01:20:18無理押しにも程があったが、その『企業』から提供された資金は潤沢で、外部から人員・資材を借りた上で社員・派遣人員全員に臨時ボーナスを数万ずつ出しても釣り合いが取れる程であった。更には僅かばかりの近隣住民にも金を配る余裕すらあった。 97
2013-02-04 01:36:32「何とも……まあ…」有り得ない話だ。どうせ、出店予定を早めるという話は嘘なのだろう。しかし、魔術師達にとっての最大の手掛かりが失われた。ゆゆしき事態だった。オブジェクト・リーティングで儀式場の過去の記憶を分析するつもりだったが、これではどうにもならない。 98
2013-02-04 01:36:40「仮にそれを狙ったのだとしたら…敵も魔術師…」「ですがリバー達にそんな真似が出来るとは思えませんね…日本円で少なくとも数百万はかかっている筈です…或いはその更に数倍」「とにかく、今日は周囲を調査の後、解散。明日はその依頼元とやらを探ることとしよう」「はっ!」 99
2013-02-04 01:36:47――――――22:32。浅空家。今日の特訓は終わり、裕岐達は帰って行った。女装姿ではないので星護も一人で帰った。使用機体は昨日と同様。木・金は結希側に変更を加えて、土曜日と、余裕があれば来週にももう一度『仮想京都組』と戦闘をして特訓メニューは終了となる。 100
2013-02-04 01:40:28機体のチェックを終えた勇矢が物置を出ると、縁側で絢女が夜葉に抱きついていた。「もうちょっと一緒にいよーよぉ!」「いえ、結構…です。主人の元に戻りますのでっ」夜葉は全力で絢女を引き剥がそうとしているが、びくともしていない。 101
2013-02-04 01:40:37「あーや。離しなさい」見かねた勇矢が助けに入る。「えー」夜葉に胸を押し当て唇を狙いつつ、絢女が頬を膨らませる。「ウチのニンジャじゃないんだから、何時までも引き止めてちゃ悪いでしょ……僕の暗殺如きに時間かけさせちゃ可哀そうでしょ」「むー」 102
2013-02-04 01:46:29やや強引に二人の間に割って入り、左手で絢女、右手で夜葉に触れて引き剥がす。「すいませんね。夜葉さん」「………いえ」夜葉は縁側に座ったまま、絢女の体と、勇矢の右手を布で払った。「また……」先程も夜葉は食器を洗おうとして絢女に全力で阻まれていた。 103
2013-02-04 01:46:42勇矢は、絢女が夜葉をまだ『縛っている』ことを確認すると、強引に夜葉を抱きしめた。移動距離を制限された夜葉は躱せなかった。「っ!?」反射的に振り払おうとして、『今、勇矢相手には』全力が出せなくなっていることを思い出した。うっかり勇矢を殺さない様、弱弱しく停擦る。 104
2013-02-04 01:49:33「夜葉さん、いつも利用してごめんなさい…でも師匠よりも貴方が最適な時も多いんです……でも……いつか必ず終わりにします」「宜しく……お願いします。どうか……強く……なって下さい」自分が勇矢に殺され、『あの命令』から解放される時を思う夜葉は、涙を見せなかった。 105
2013-02-04 01:53:22勇矢が夜葉を解放すると、彼女は再び布で彼を払おうとしたが、素早く絢女の後ろに隠れられた。「明日も今日と同じスケジュールですから、深夜は外に出ないと思います…あーや」「うー。はーい」しぶしぶ、絢女が夜葉を解放すると、数度の跳躍でその姿は消えた。 106
2013-02-04 01:53:32―――そして、木曜、金曜と、同様にして時間は過ぎて言った。訓練と調整、試合と整備、実践と計画の積み重ね。合間合間に夜葉の襲撃を際どく躱す。勇矢自身の戦闘力にこそ劇的な変化は無かったが、勇矢チームの練度は数日で大きく向上した。 107
2013-02-04 01:56:11―来週に訓練を行わないのは勇矢や裕岐の事情ではあるが、試合直前に機体に無理をさせるのも良くない。明日の特訓の後は、今週得られたデータに基づき、改良と微調整に徹すれば良い。これで裕岐は心置きなく、梢とのデートに向かうことが出来るだろう。そして、勇矢は……………。 108
2013-02-04 01:56:40ミストルティン編第四話「護るべき笑顔は~ノー・ティアー!ノー・アゲイン!」 #6 「トライ&メイク」 終わり #7 「ラフ・アット・ユア・ライヴス」に続く
2013-02-04 01:57:00