Flying Zebra氏によるトリチウムについての解説

物質の性質や原子力関連のトピックも交えて。
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Flying Zebra @f_zebra

まさかとは思うけど、もしかして武田センセは比喩とか言葉のアヤではなく、本気で福島で「核爆発」が起こったと思ってるのかな。何らかの「爆発」がなければ放射性物質の環境放出はないなんて思ってないよね、いくら何でも。どこまでが「芸」なのかよく分からない人だ。

2013-01-30 12:44:14
Flying Zebra @f_zebra

核融合科学研究所の重水素実験に関して、トリチウム汚染を心配する人がいるらしい。実験で生成するトリチウムはごく微量だ。「核」に関係する何やら危険そうな実験に対して頑張ってネタを探したけど、トリチウムくらいしか見つからなかったというところだろうか。

2013-01-31 19:44:35
Flying Zebra @f_zebra

せっかくなので、トリチウムについて整理しておこう。トリチウムは水素の同位体で、質量数1の普通の水素に中性子が2つ付いて、質量数が3になったものだ。天然にも僅かに存在するが、質量数が2の重水素(二重水素)よりもさらに少ない。半減期12年強でβ崩壊してヘリウムになる。

2013-01-31 19:45:12
Flying Zebra @f_zebra

ガンマ線を出さないため測定には液体シンチレーションカウンターが必要で、検出が難しい。さらに水素ガスH2や水H2Oの水素と置換して存在するので化学的な振る舞いは水素ガスや水と同じで、分離はまず不可能だ。つまり、見付けにくく捕まえにくいということである。

2013-01-31 19:45:50
Flying Zebra @f_zebra

非常にやっかいなようだが、それほどの害もない。放出する放射線はβ線だけなので外部被曝は問題にならず、主にトリチウム水(またはその蒸気)の摂取による内部被曝のみが問題となる。化学的には普通の水と変わらないため、食物連鎖による濃縮や蓄積は起こらない。

2013-01-31 19:46:31
Flying Zebra @f_zebra

人体に取り込まれた場合、その後摂取する飲食物に含まれる「普通の水素」と置換され、10日程度の生物学的半減期で代謝、排泄される。そのため飲料水などの基準値はWHOで10,000Bq/Lとかなり緩く、国や機関によってバラバラで統一もされていない。

2013-01-31 19:47:09
Flying Zebra @f_zebra

天然では宇宙線照射によって上空で生成され、地球全体で年間7.2×10^16(7.2京)Bqほど生成されている。半減期から計算した地球上の理論的なインベントリー(蓄積量)は1.3×10^18Bq程度だが、実際にはその100倍程度が存在するとされる。原因は、過去の大気圏内核実験だ。

2013-01-31 19:48:23
Flying Zebra @f_zebra

水素爆弾の原料なのだが国際規制物質には分類されておらず、簡単に入手できる。最近ではスーパーマーケットのウォルマートがトリチウム発光式の非常口標識を大量に使用していたことが発覚し、NRCが違反通知を発行している。電源不要で10年間メンテナンスフリーを謳った商品らしい。

2013-01-31 19:49:51
Flying Zebra @f_zebra

原子炉(軽水炉)や再処理施設でも生成され、気体や排水として環境中に放出されている。一般に、PWRプラントの方がBWRプラントよりトリチウム放出は数十倍多い。もちろん放出量は管理されているが、害が少ないため基準は代表的な放射性物質に比べるとかなり緩い。

2013-01-31 19:51:07
Flying Zebra @f_zebra

原子力発電所に関連したトリチウムの漏洩事故は、アメリカでここ数年急に注目されるようになった。多くの場合漏洩は以前から続いていて、何かのきっかけで測定してみたら検出されたというものだ。古い埋設配管からの漏洩だと、漏出箇所をなかなか特定できないことも多い。

2013-01-31 19:51:49
Flying Zebra @f_zebra

日本の原子力発電所では、配管をそのまま埋設することが少ないこと、建屋が岩盤に直接基礎打ちされ、間に地下水の存在する透水層が存在しないこと、海沿いに立地され、仮に漏洩があっても海側にしか流れないことなどから、これまで地下水の汚染に関して大きな問題は起きていない。

2013-01-31 19:53:08
Flying Zebra @f_zebra

トリチウム汚染の問題がアメリカ(の一部)で大きな「話題」になっているのは事実だが、今のところ健康影響などが出ているわけではない。(未検証の「噂」がたくさんあるのはいつもの通り) 事業者は対応に苦心しているが、これは当然だろう。しっかり対策してもらいたい。

2013-01-31 19:54:08
Flying Zebra @f_zebra

実はこんな危険があったのに今まで気付いていなかった、というのはセンセーショナルな話題なので何かと尾鰭が付きやすいが、何についても公的機関や実績のある民間機関が出している客観的なデータに基づき、冷静に判断するよう心がけたい。

2013-01-31 19:56:05
Flying Zebra @f_zebra

ちなみに、土岐市の核融合科学研究所での重水素実験では環境を汚染するほどのトリチウムはそもそも生成しない。キーワードだけに反応して、量の概念を忘れると正しい判断はできない。

2013-01-31 19:56:17
リンク www.nifs.ac.jp 重水素実験計画関連報告:核融合科学研究所 私たちは海水から無限のエネルギーを取り出すための研究をしています。核融合科学分野を先導する大学共同利用機関。総合研究大学院大学。日本独自のアイデアに基づくヘリカル方式による高温・高密度プラズマの閉じ込め実験、シミュレーション科学、核融合炉工学等。

上のページによると1回の照射が3秒で、それで発生するトリチウムが0.017GBq、1日当たりの照射時間はのべ5分だそうですから、1日当たりに発生するトリチウムは1.7GBqになりますね。トリチウム入りのアクセサリや腕時計の規制値が1GBqですから2つ弱ですか。

核融合実験とトリチウムに関するデマゴギーの発信元は大方この放送の録音だと見ていいです。