吸血鬼なう、な俺（完結）

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。しばらく無言だった居候は、ため息をつくと俺の背中に自分の背中をくっつけるように座り直した。「あれを見るなんてさ…覗き魔。変態。馬鹿。阿呆」「…悪かったよ」「…灰になれ」コツン、と後頭部をぶつけてきた。「飲まなくなったのは…あの日からよ。あの夜」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「アンタを噛んだあの夜から、アタシは一滴も吸ってない」まさか。その返事は、予想もしていなかった。「あれからって…一体何日経ってるんだよ」吸血鬼は。血を吸わないと、存在できない。「アタシは力が弱かったから。アンタよりは長く吸血鬼やってきたけど…」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「血を吸わなくても我慢できる。力が弱い分…そう、できたのよ」振り返る。肩越しに見る居候の姿は、会ったときよりもひどく小さく感じられた。「だけど、時期が悪かったみたいね…アンタと出会ったときの事覚えてる？」「覚えてない」「嘘。恥ずかしいんでしょ」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「ウルサイ」居候が笑う。「まあ、ぶつかった拍子に、キスされて、ショックで気を失ったなんて、ね」「うるさいよ！俺の歴史は改竄したんだよ！」「ごめんね」「え？」「アンタが吸血鬼になる必要はなかった。あんな事にはならなかった。すべては…アタシのせい」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「吸血鬼は、人間から血を吸うけど、全部が全部吸血鬼になるわけじゃない。一定量を超えなければ血を吸われても、それだけの事なのよ」「じゃあ…俺は」「ぶつかった瞬間に、アンタ唇が傷ついちゃったでしょ。その血をみたアタシは自分で自分を抑え切れなかった」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「あの夜は満月だった。吸血鬼が一番概念に縛られる夜。それは、最強になる夜であり、最弱にもなる夜。アタシは血の誘惑に勝てなかった。貪るように吸って、アンタの血を必要以上に…吸血鬼になるまで…吸ってしまった」声が震える。「アタシのせいなの。ごめん」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「気を失ったのもそのせい。急激に血を失ったんだもの」「…そうか」「だけど、それがきっかけでアタシの力は一気に高まった。それまでは、たまに少しずつしか吸ってなかったんだけど。あの時は、数十年分くらいを…一気に飲んだから。だから…アタシは決めたの」

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「もう、血はなるべく吸わない。力が強くならないように。吸血鬼の弱点が増えないように。そう、我慢しようって」「なんでだよ」「アンタが心配だから」「…」「アンタって吸血鬼になったばかりなのに血は吸わないし、日中にランニングしたがるし…馬鹿ばっかり」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「こんなんじゃ、一人になったら大変じゃない。だからアタシが面倒みなきゃって」「俺は子供か」「子供よ、全然ね」居候が苦笑する。「ひでーよ」「一人は大変よ？ボケも突っ込みもいないじゃない」「お笑いか」「一人は駄目。一人は…寂しいから」「…」「駄目」

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「お前がそうだったから…か？」「え？そう…ね。そう、かも」いつかの表情を思い出す。「皆、眠りについちゃった。出会った人は沢山いたけど、皆みんな…死んではいないけど…」居候が。「寂しいよ、会えないのは…」あの強気な吸血鬼が。「つらい」泣いている。

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。居候が泣き止むまで、少し時間がたった。「あーあー、アンタにはばれたくなかったのにな」ポツリと居候が呟いた。「にんにくも駄目になるなんて。血吸ってないのに…」「俺のせい、かも」「ん？」「俺が、寝てるときにこっそりと唇に血をこう」垂らす真似をする。

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。今までで一番強烈に殴られた。「馬鹿！もー！本当に灰になれ！」「痛いな！」「何でそんな事するのよ！アタシの気も知らないで！」「うるせえ、知るかよ！」「飲みたくなかったのに！」「できるかよ、知らないふりなんて！公園のあの姿見て！ほっとけるかよ！！」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。怒鳴ろうとした居候が止まる。「あんな声だしてさ、あんなつらそうにしてさ。そりゃあ、俺だって、完全に知らない振りしようとも思ったけどさ。だけど、無理だろ、できねえよ。お前をあんな風にさせてまで我慢させるなんて…できねえんだよ…」俺は首を振った。

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「…阿呆」「ああ」「…馬鹿」「ああ」「…変態」「違う」「…覗き魔」「それも違う」「本当に、もう…灰になれ」その言葉と同時に居候がしがみついてきた。「…もうすぐ眠りに入るかもしれないのよ」「一人には慣れてる」「うん。モテなさそうだし」「ウルサイ」

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。居候の頭に顎をのせる。「まあ…何だ、あんまり血は飲まないようにはしてもさ、我慢はするなよ？」「うん」「心配すんな、何とかするさ」「誰が？」「…なんだ、その明らかに信用なさそうな目は」「…アンタが？…どうやって？」「今までで一番へこむ声色です…」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「にんにく駄目になったから餃子食べれないのよね…」居候の残念そうな声。「何言ってんだ、にんにく抜きでも旨いのは作れるさ。俺にまかせろ」包丁片手に答える。「…」「…何だよ」「素敵…アンタが今までで一番かっこよく見える…」「随分安っぽい評価だな！」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「夏も終わったし、これからはゲームの秋ね」「いや、違うだろ」「何よ、秋の夜長にゲーム三昧ってロマンチックじゃない？」「お前のロマンチック回路壊れてるだろ」「失礼ね、灰になるか、灰になるか、灰になるか選びなさい」「こら、耳かき持って何する気だ！」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「何やってるの？」居候がキッチンに入ってきた。「トマトジュースに…何入れてんの」「いや、血一滴じゃ少ないかなと思って、トマトジュースで嵩上げしようかと…」ため息つく居候。「たまに、じゃない、いつも思うんだけどアンタって…」「なんで、黙るんだよ」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「ちょっと出かけてくるわ」深夜、居候が言った。「少しだけ…一人になりたいの」先日のような悲しそうな表情。「…」俺は無言で近づく。「心配しないで、すぐ戻るから…って、ちょっと何触ってるの！」「なあ、このゲームショップの会員カードは何だ？」逃げた。

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「この町には他にも吸血鬼がいるのか？」「いると思うわ」「そっか」「でも、アタシ達引越し多いから数は少ないんじゃないかな…」「何で？」「だって、何年たってもなかなか成長しないのよ、傍目におかしいじゃない？」「成程」「…ドコ見て納得したのよ、ねえ」

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#twnovel 吸血鬼なう、な俺。コンビニから帰ると居候がソファで寝ていた。「人にアイス買わせておいてコイツは…」ため息ひとつ。「こら、起きろ」「…んー」「アイス買ってきたぞ」「…んー」ソファで小さく丸くなる。「猫か、おい」「猫は嫌い…哀れな駄犬、灰になりなさい」「寝言か！？」

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「おかえり。DVD？何借りてきたの？」目ざとくみつけた居候に俺は答えた。「吸血鬼モノひととおり。何か解決のヒントないかなと思って」「作り物にヒントねえ」「駄目もとだけどな」「いいけど…その隠した一本が本命かしら？」「ぎく」「見せなさい」逃げた。

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。リビングで正座なう。「前に吸血鬼は繁殖に興味なくなるって言ったんだけど例外もいるのね」DVDを指でくるくると回している。無性に怖い。「ええと」「灰になれなんて言わないわ。汚い灰が残るもの」「…」「ねえ、存在ごと消えて？」「綺麗な笑顔で言った！」

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。紅茶党の居候が、コーヒーメーカーを取り出してきた。「紅茶党は脱退か？」「眠気覚ましよ、最近眠くって」「…そっか」「そんな顔しないの」苦笑いな居候。「…なあ、おい」「何よ」「砂糖いくつ入れてんだよ」「苦いコーヒーなんて飲む価値無いわ」「甘過ぎだ」

ハラヨシ @harayosy

#twnovel 吸血鬼なう、な俺。「夏が過ぎて秋になってくるとさ、だんだん夜になるのが早くなってくるじゃない？」「ああ」「アタシ、冬が好きなんだ」「夏ってイメージだけど」「かもね。でも、冬が好き。夜が長いから」居候はコーヒーカップを両手で包むように持った。「吸血鬼はみんなそう」