【買ってください】福間健二　2factory24

福間健二 @acasaazul

何があったというわけではないが、ぼくは明るい川岸の道を歩き、橋をわたって、なにか正体不明のものを売りに行く。無精ヒゲをからかわれ、売れそうにないけど、心が軽くなる夢のなかだ。金色のペンをもった天使が、いい人たちの名前をノートに書いている。（買ってください１）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

ぼくの名前はそこにない。ほっとしたような、さびしいような。ベンちゃんなら、低い声で、でもつよく言う。「おれの名前も入れてくれ」。次の日、天使のノートはベンちゃんの名前をトップにおき、名作はそれで終わる。反古典派のぼくの夢は坂道の途中だ。（買ってください２）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

いい人たち。いいカモなのかもしれないが、なにかを許している。その前に光る箱を光らない大箱にしまって、追いつめられていない。ぼくは許していない。夢のなかだから隊長をぶん殴り、興奮した箒で掃除したつもり。売れない坂道。自分が逃げるのは忘れて。（買ってください３）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

そんなに光っちゃだめだよ。泣いているように見えるベンちゃんの瞳のなかの、ぼくの盗んだ鍵の束。きみたちが主役になって解く謎は、大きなお腹をして手術台の上にある。そっと近づく。グレイゾーンの瘡蓋、刺激しないように。ベートーヴェン鳴らすな。（買ってください４）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

霧が出ている。売れのこったものを担いで、汚い廊下と階段の「旧世界」におりていく人たち。ぼくを許してはいない。いいさ、こっちが先に許さなかったのだ。濡れた靴でしぶとく歩くのは、どっちも。夜のぬくもりと安くておいしいものにはなんとかありつく。（買ってください５）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

東中野、大盛軒の鉄板麺。みんな、タバスコをどっとふって、豚肉とキャベツ、ごはんと麺に、ゆるむ背中がうたう「生の歌」の、散文による捕獲。心よ、さあ、どうしよう。夢のなかの夜。遠景の点々となった赤い明かりがにじみ、連帯しようとしている。（買ってください６）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

素直さと不器用さを隠す装置の「人食い巨人」に食べてもらう犠牲者をさがすべきだが、あれっ、ぼくのプリンセス、坂下の封建時代にタイツを引っかけている。そのかわいい脚がなんの用だろう。ノートのなかで鎖状に騒ぎだす、いい人たちのけだもの性に。（買ってください７）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

衝動的、いけないのか。その産物の、とがった破片を飲んだ目ざめこそ、ぼくの欲しいもの。おりてきた天使に恋をして生まれかわる人たちのなかに入って、どこにでも移動できる切符を拾う。でも大丈夫、きみたちのことは忘れないよ、古いセーターの毛玉たち。（買ってください８）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

交差点。青い音と十字にひろがる炎。「生きたまま死ぬこと」の左側、なんと書いてあるのか。読めなくても、資本主義の世はつづく。きのうまでのプリンセス、売れないのはおたがいさま。ベンちゃんのモデル、ブンちゃんは警備員のバイトをしている。（買ってください９）＃2factory24

福間健二 @acasaazul

この明るさ。深呼吸、だ。「誘惑はタイミングの問題だ」とうたう悪魔も罠にかける、いたずら好きの、いい人になって。生きるために何をぼろぼろにするのか。けだもの性におこる変化は内緒にして。朝の回、もう売るものがないこの男を買ってください。（買ってください10）＃2factory24