作品集『波紋』『崩壊』、短篇集『JOKE』の作者解説まとめ

8月30日にパブーにて公開した作品集『波紋』と『崩壊』について、作者であるところの私が、当時を思い返したり、読み直して感じた印象を呟いたもの。 作品集『波紋』http://p.booklog.jp/book/5210 作品集『崩壊』http://p.booklog.jp/book/7993 短篇集『JOKE』http://p.booklog.jp/book/7825 続きを読む
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@mado_m

ちょいとこれより8/30の作品集『波紋』『崩壊』、短篇集『JOKE』公開時の各篇解説ツイート企画のためのポストをします。あとでtogetterでまとめることを前提に。対象は『波紋』『崩壊』の各篇。『JOKE』は当日、joe_kugaで行います。

2010-08-28 12:45:46
@mado_m

作品集『波紋』『崩壊』は2005年までに執筆した短篇を集めた作品集で、前者が比較的明るめ、後者が比較的暗め、という印象でそれぞれ編集したものです。創作を始めたのが2004年と考えると、かなり初期の作品ですが、ほとんどが2005年の下半期に書かれています。

2010-08-28 12:49:23
@mado_m

作品集『波紋』は全15篇。枚数は約180枚。掌篇が多く、長めのものは少なめですが、これは当時の自分(高2!)が日常的な描写の積み重ねに慣れていなかったためであります。故に枚数がどんどん短くなって、結果としては掌篇が多くなってしまいました。さてはて、実際に各篇を見てみましょうか。

2010-08-28 12:53:15
@mado_m

「ぐるぐる回る」は〈流れ〉を意識したものでした。当時の私は田舎と都会の対立で、話を進めていく癖があり、この〈僕〉もまたその対立に巻き込まれながら、〈赤い風車〉に象徴される〈流れ〉によって淀みなく進んでいく。「へー」など語尾を延ばす言葉遣いが多いのも、その〈流れ〉のためであります。

2010-08-28 12:57:05
@mado_m

「輝き」は純粋に習作として書き始め、当初は収録する予定はないものでした。冬の教室、〈私(たち)〉が発見した雪の風景、その一瞬を切り取りたいがために〈輝き〉として書いた、そういう作品です。寒暖の対比がふと逆転する瞬間に、その〈輝き〉が現れる――そんな瞬間を書きたかった作品です。

2010-08-28 12:59:49
@mado_m

「ひかり」は〈私〉がプロポーズされるまでの過程を描いた作品ですが、冒頭から挿入される〈犬〉によって、ある奥行きが登場したのではないかと私は思っています。その〈犬〉は実在の犬であったり幻の犬であったりしますが、〈犬〉と〈私〉との〈距離感〉によって、結果的に物語が構築されていきます。

2010-08-28 13:05:35
@mado_m

「死ねばいいのに」は、若い当時の私の、ある意味で希望に満ち溢れた短篇であるような印象を今では受けます。〈苛め〉は多分に当時の私にとって身近なものであり、それとの対峙の仕方、身の処し方ということに関して、おそらくこの短篇で理想を描きたかったのかと思います。が、まあ何というか……。

2010-08-28 13:07:37
@mado_m

「遺書」は〈アユミ〉という少女の偶然の死(自殺ではない)によって出現した遺書を、〈僕〉〈私〉〈俺〉の三人が読んでいくという構成をしています。その中で浮かび上がっていく三者三様の〈アユミ〉像と、遺書を信頼するか否かという倫理観が、何かしらこの短篇に〈何か〉を付与している気がします。

2010-08-28 13:12:16
@mado_m

「ドカドンドン」は言うまでもなく太宰治の「トカトントン」のタイトルをパロディー化したものですが、太宰的な告白体(ただし当時の私的な解釈による)を採用して、夫殺しの妻の心情を語らせていきます。しかし、今思えば彼女はいったい誰に語っているのか……そればかりを思います。

2010-08-28 13:14:37
@mado_m

「傷彼」は王安石の「傷仲永」を翻案したものですが、ここで早熟の天才として登場する〈谷崎吾朗〉は、他者の〈私〉(新聞記者)によって、かなり客観的に捉えられています。〈私〉の徹底した観察者としての態度が〈谷崎吾朗〉の凋落を断定的に捉えてしまう点で、嫌な作品ではあります。

2010-08-28 13:18:14
@mado_m

「軌条の悪を嗤う人々」は、田舎と都会の対立軸で語られていく話です。三年ぶりに実家に帰った〈私〉とそれを迎える〈両親〉、不在の三年間(非共有)と過去(共有)という対立が生きてきた作品ですが、いささか後半にかけて陳腐化してしまったのが残念な感じを今となっては受けます。

2010-08-28 13:20:56
@mado_m

「逃げども追われ捕まり果てる」はかなり私小説的な内容で、今となっては恥ずかしい掌篇ですが、当時の私にしてみれば〈高野〉の言った言葉というのは怖く、受け容れ難いものであり、現在もモデルになった人物の、私との断絶され具合については驚きばかりを感じます。他者性の話かもしれません。

2010-08-28 13:23:21
@mado_m

「五輪書」は、宮本武蔵のそれとは何の関連もなく、単に地・水・火・風・空にまつわる五篇を書きたかっただけという身も蓋もない作品ですが、地や風の章は割合気に入っており、そのお陰で作品集に入った作品です。各篇ごとに〈感じ〉が違う断片的な点が、現在の私に繋がると言えばそうかもしれません。

2010-08-28 13:26:21
@mado_m

「奇蹟」は村上春樹の短篇を読んだ直後に書いた作品で、村上春樹的な感じを出そうと思って書いたものです。途中から出てくる〈光る石〉が、いかにも文学的な感じを醸し出している点で、どことなく嫌な感じがしますが、そのある意味で計算尽くの何かが、ふと抜けていく瞬間が面白いのかもしれません。

2010-08-28 13:28:47
@mado_m

「砂の民」は初期作品中では最も失敗し、しかし最も気になり続けていた作品です。作品集に入れたのは一番最後で、最後まで躊躇っていた作品ですが、〈私〉の行動の一切がかなり謎である点が、今読んでも不気味であり、それ故に後半における陳腐化にはなかなか困ったものを感じます。

2010-08-28 13:31:48
@mado_m

「A Puzzle」は、ある夏に感じた〈異変〉を切り取った作品です。目の前の風景は、何らおかしな点は認められない。しかし〈私〉の目に映るそれは、それまでいた世界とは何らかの点で異なっており、しかしそれは純然として〈私〉内部だけの出来事であるので、証明ができない。そういう作品です。

2010-08-28 13:35:59
@mado_m

「光と闇」は個人的には作品集中では最もよくできた作品かなと思っています。書き出しから提示されていく現在形での語り、〈私〉と〈光〉と〈闇〉の閉じた関係性、結末。この作品集中では最後に書き終えた作品ではありますが、さすがにそれだけあって書き手としての成長も伺える、そんな作品です。

2010-08-28 13:45:15
@mado_m

「波紋」は作品集の表題作であり、私が初めて文学的な志向を持つに至った作品でもあります。この作品が起点であり、故に最も稚拙なものでもありますが、〈波紋〉によって表される音と、それによって逆説的に引き起こされる静けさの気配(或いは余韻)が、この作品の基調を決定づけています。

2010-08-28 13:47:53
@mado_m

作品集『波紋』に関してはこれにて終了です。「遺書」「砂の民」「光と闇」辺りが、私としてはそこそこ面白いのではないかと思っています。「奇蹟」なんかは嵌る人は好きかもしれないという印象で、「五輪書」が最も理解に苦しむ作品であるかもしれません。「輝き」「死ねばいいのに」は短すぎますね。

2010-08-28 13:51:23
@mado_m

作品集『崩壊』に移りましょう。これは全10作で、約220枚です。比較的長めのものが多く、内容は非日常的なものが多いです。残虐さも高めであり、その辺りが分量を増やした原因と言えば、そうかもしれません。ということで、各篇を見てみましょう。

2010-08-28 13:55:15
@mado_m

「マトリョーシカ」は、当時私の凝っていた〈私〉の分裂を〈マトリョーシカ〉に託して書いていった作品ですが、その分裂は、作中では〈過去〉によって引き起こされます。〈自殺未遂〉の経験のある〈私〉は結果として分裂を来してしまい、大小の〈私〉を生むこととなる。なかなかのワンアイディア。

2010-08-28 13:56:55
@mado_m

「At the same time」もまた、分裂を主題にしています。しかしその分裂は〈僕〉に起こるのではなく、〈世界〉それ自体に起こります。その結果、〈ユキ〉と〈ミカ〉の同時存在が可能になり、ユキと関係しながら同時にミカとも関係するという、多分にシュールな世界が生まれるのです。

2010-08-28 14:03:15
@mado_m

「豚の夜」は、暴力の生起する〈湿った場所〉について書いた短篇です。〈加奈子〉は〈俺〉にひたすら暴力を振るわれ続け、ほとんどそれしか語られない一枚岩な作品でありますが、〈俺〉の語る理由の陳腐さが、その暴力の滑稽さを物語り、〈湿った場所〉における暴力の無意味性を暴きます。

2010-08-28 14:05:10
@mado_m

「説明過多」は、まさしくワンアイディアで書かれた掌篇であり、辞書的な意味を確認しつつも、結果的に物語を導入することで、ある一文を拡大していき、その主観的一文を小説として成立せしめてしまうという、何というか、「だからどうした」で終わることを割と真面目にやってしまった作品。

2010-08-28 14:07:33
@mado_m

「崩壊」は表題作であり、作品集中では最初に書かれたものです。ここでも〈湿った場所〉における暴力が描かれますが、最初から上滑りしていき、ひたすら空々しいものとして機能していきます。〈バトル〉要素さえ取り入れた結果、〈崩壊〉はまさしく〈日常〉のそれとして語られるのでしょう。

2010-08-28 14:10:26