朝起きて一番最初にやるのは、自分を殺すこと。私は何処か別の場所に居て、これは生霊なの。世界には私のことが見える人と見えない人がいて、見える人は多分、私に恨みを買った人。私に傷つけられるべき人よ。ピアノ教師はそう前置きして、唖然とする生徒達の前で、美しい調べを奏でながら消えた。
2010-10-23 02:55:53私には携帯を使い捨てたい事情がある。私は以前、痴漢を捕まえた。痴漢の男は警察に連行される際、私に「殺す」とつぶやいた。以来、私の携帯には、収監中のあの男から頻繁に電話が入るようになった。拘置所の通話記録に、男が電話した形跡は無いそうだ。「殺す」新しいプリペイド携帯を買わねば……。
2010-10-22 02:17:40「あれ、サチかな?」従兄弟の健が言う。僕は法事のため、大学を休んで実家に戻っていた。サチは二つ年上の従姉妹。実は初恋の相手だったりする。会うのは数年ぶりだ。健と一緒にキッチンを覗く。そこには、甲斐甲斐しく食器を洗う、元カノの姿があった。彼女は現在、東京の病院に入院中のはずだ。
2010-10-22 13:18:52「熨斗紙の下に〈呪〉の文字を記して贈り物をすると、相手を不幸にできる」同じバレエ団の女を憎んでいた私は、それを実践した。効果は絶大で、女はすぐに引退した。ざまぁみろ。だが、不幸は私にも降りかかった。突然、腕を振る踊りができなくなってしまったのだ。ノシ 痛!「ノシの呪い」は本物だ。
2010-10-16 15:23:34窓辺に置かれたベッドの上で、彼女が身を翻す。「父に見られている」俺はカーテンの隙間から外を覗く。誰も居ない。居るはずがない。彼女は最近、父親の生霊に監視されていると言い張って、俺の誘いを拒絶する。こ、このアマぁ……。
2010-10-16 13:41:04再婚して程なく、黒いカセットテープが出てきた。バンドをやっていた学生時代にオリジナル曲を吹き込んだものだ。あらためて聴いてみると、幽かな女性の声がする。「がんばれ」同級生だった前妻の声だ。あいつ、いつも応援してくれてたっけ。試しに当時の楽曲を吹き込んでみる。もう、声は聴こえない。
2010-10-16 13:37:48目の前に、昔の恋人が立っている。またか。恐らく自殺を図ったのだろう。それも、死なないぎりぎりを狙って。案の定、向こうの母親から電話が入る。申し訳なさそうに、頼まれたからとか何とか、お決まりの文句が並ぶ。早く、本当に死んでほしい。でないと、私が奴を殺してしまいかねないから。
2010-10-11 20:31:49連日、夢に少女が現れ、遊ぼうとせがむ。起きても疲労が抜けない。母にその話をしたら、一葉の写真を見せてくれた。祖母の子供の頃の写真だ。夢の少女と瓜二つだった。祖母は現在、医療老人ホームで寝たきりの日々を送っている。昼夜を逆転させたら少女は夢に現れなくなった。ごめん、婆ちゃん。
2010-10-11 20:13:55友人の結婚式の引き出物に、銀のスプーンとフォークを貰った。捨てても、食器棚の奥に突っ込んでも、なぜかフォークだけが残る。私の目につく場所に必ずある。風の噂で、夫婦関係が上手くいっていないと聞く。今さら私に助けを求めているのだろうか。私を振って結婚したくせに、身勝手な人だ。
2010-10-11 19:43:28「カタン。コトン」玄関のドアに備え付けられた郵便ポストが鳴る。このところ、毎日だ。原因はわかっている。しつこい新聞勧誘員を強く罵ったからだろう。朝夕の決まった時間に、ポストに新聞が落ちるような音がする。実際には新聞は入っていないし、誰かが訪れた形跡もない。ただ、音だけがする。
2010-10-11 19:18:55私は自動車に撥ねられ、入院中だ。撥ねたのは零細企業を営む壮年の男性で、彼は見舞いの折、終始、「もう終わりだ」などと繰り返していた。ある日、男と連絡が取れなくなった。保険会社いわく、どうも夜逃げしたらしい。以来、深夜に男が病室に現れ、「お前のせいだ」と私をなじるようになった。
2010-10-11 18:57:25Aさんは、社内恋愛を清算したところ、直後から相手女性の生霊に付き纏われるようになった。弱り果てた彼が同僚数名に相談すると、実は自分も付き纏われていると返答する者が何人もいる。あの女、どれだけ飛ばしてたんだよ。いや、飛ばしてるんだよ。Aさんは現在、[兄弟達]と一緒に弱っている。
2010-10-09 01:14:56