日本SFアンソロジーの感想 By 牧愼司

最近さかんな日本SFアンソロジーの感想です。
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牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

いっぽう、作品の象徴性をもっとも担っている“正午の鐘”については、ぼくはむしろ不要だったと思う。もちろん、これがスペキュラティヴ・フィクションとしてのこの作品の求心点だということは重々わかっている。しかし、作品全体の肌理になじんでいないと思うのだ。

2013-04-24 11:44:29
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

バラード『結晶世界』と比較するとよくわかる。バラード作品では光と闇が拮抗する“春分”が、スペキュラティヴな求心点だった。それが物語の通じてさまざまに変奏され、作品全体が緊密な構成をなしていく。

2013-04-24 11:44:56
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

「メシメリ街道」の“正午の鐘”にはそういう展開がほとんどない。作品世界の上に浮かんだ象徴にとどまっている。まあ、長篇と短篇を比べるのはちょっと無茶な話ではあるのだが。

2013-04-24 11:46:21
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

もちろん、それを差し引いても、「メシメリ街道」はオールタイムベスト級の傑作です。

2013-04-24 11:48:21
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

さて、『日本SF短篇50 Ⅱ』からベスト3を選ぶと、不動の1位が「メシメリ街道」、2位は順当に夢枕獏「ねこひきのオルオラネ」、3位を決めるのは難しいけれど、滾る勢いと物語の安定が両立している眉村卓「名残の雪」。

2013-04-24 12:28:48
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

神林長平「妖精が舞う」は、《雪風》の第一作であり長篇版とはだいぶ印象が異なる。さまざまな要素が濃縮されていて、長篇版を知った目で読み返すとじつにスリリング。しかし、単独ではその魅力の何分の一かしか発揮されない。

2013-04-24 12:29:35
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

大原まり子「アルザスの天使猫」はちょっとティプトリーを思わせるところがあり、この作者の良識・徳性――彼女がクズ論争の際にあらわした「SFの呪縛から解き放たれて」のなかで、聖書とキリスト教から学んだと表明していたことを思いだす――が垣間見える。

2013-04-24 12:30:03
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

良作ではあるが、大原作品ではもっと凄いものがあるだろう。いや、このアンソロジーの大変な作品選びの縛りはわかっていて、あえて言っているんですよ。スミマセン。

2013-04-24 12:30:27
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

小松左京「ゴルディアスの結び目」は、発表当時から現在に至るまで評判の高い作品だが、ぼくはそれほどの傑作とは思わない。人間精神の暗部とブラックホールを結びつけるアイデアは面白いけれど、そこで終わっている。

2013-04-24 12:31:37
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

この作品もまたSFの得意技であるメタファーの物象化。凄いっちゃ凄い。でも、しょせんはメタファー。べつにこの作品を貶しているわけではなく、多くのファンに愛されている有名作であり、ある意味SFらしさを代表するような作品なので、あえてイチャモン。

2013-04-24 12:33:40
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

1 日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 Ⅲ』(ハヤカワ文庫JA)読了。中井紀夫『見果てぬ風』が頭抜けて面白い。

2013-06-07 22:46:13
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

2 渦巻き型の壁に囲まれた世界というアイデアも秀逸だが、その世界との向きあうさまざまな態度(哲学といってもよいのだが仰々しく描かれているわけではない)が、おのおの起伏と色合いをもった挿話として滑らかに示されていく。結末のイメージも鮮烈。

2013-06-07 22:46:40
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

3 アイデアの衝撃という点では、森岡浩之「夢の樹が接げたなら」が出色。言語/世界認識へのアプローチは、ディレイニーやミエヴィルよりも納得がいく。ちょっとボルヘスっぽい。ただ、語りかたが素直すぎてもったいない。

2013-06-07 22:46:54
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

4 谷甲州「星殺し」は、アイデアはオーソドックスなのだが、視点のとりかたと語り口で凄まじいヴィジョンを見せてくれる。突きぬけた宇宙SF。こういう作品ってありそうで案外ない。貴重だ。

2013-06-07 22:47:15
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

5 以上が、この巻のベスト3。それに次ぐのが椎名誠「引綱軽便鉄道」。異常生態系を奇妙日常感覚で描いたシーナ作品をぼくは大好きなのだけど、これは鉄道の話なのでより楽しめた。

2013-06-07 22:47:28