日本SFアンソロジーの感想 By 牧愼司

最近さかんな日本SFアンソロジーの感想です。
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牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

アンソロジー『SF JACK』(角川書店)を読んでいる。堀晃「宇宙縫合」が、オールド・ファンには嬉しい楽しい。小松左京作品をそうとうに読みこんでいなければ書けないトリビュート小説。アイデア、テーマ、設定、情景、小ネタ、表現……あらゆるレベルで、みごとな換骨奪胎がなされている!

2013-02-24 18:04:43
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『SF JACK』読了1。夢枕獏「陰態の家」、吉川良太郎「黒猫ラ・モールの歴史観と意見」、堀晃「宇宙縫合」がベスト3。とはいえ、「陰態の家」はたしかに面白いけれど、獏さんならいつでも書ける趣きであって驚くにあたらない。

2013-02-24 19:24:11
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ぼくが推したいのは、「黒猫ラ・モールの歴史観と意見」。ヴィジョンの凄まじさやテーマの大きさという点では、現代日本SFとしては中くらいだけど、描きかた(手持ちのカードの出しかた)で読む者を魅了する。なんかカッコいいです。これが空気感ってやつね。

2013-02-24 19:30:15
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

しかし、直前にオーツを読んでいたせいか、SFの文章が異様に説明っぽく感じられてならない。ファンタスティックな設定やアイデアを軸とするために、それはある程度しかたがないことなのだが、それをうまく回避するのが小説家の技量であって……。その基準でみても、吉川良太郎はうまい。

2013-02-24 19:36:06
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

堀晃「宇宙縫合」は構成の取り方で、説明がジャマにならないよう(むしろ効果的に作用するよう)工夫している。かなりの小説巧者。

2013-02-24 19:42:27
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

逆に、説明的なSF文体を異化作用へのエンジンとして戦略的に用いているのが山田正紀。しかし、それがうまく機能する作品と、そうはいかない作品があって、こんかいの「別の世界は可能かもしれない」は程々。もっとも、これは読む側の感受性の問題であって、ぼくが鈍いせいなのだけど

2013-02-24 19:45:22
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

説明的になってしまうことをまったく意に介さないのが山本弘であって、無頓着なのか、わかっていて開き直っているのか、それはわからない。それが作品のオールド・ファッションドなたたずまい(黄金期のアイデアSF風な)とマッチして、いいかんじになることもある。

2013-02-24 19:49:22
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

しかし、テーマが認知論とか人間性の変容とか現代SFのそれになると、とたんに古びてみえる。こんかいの「リアリストたち」は、アイザック・アシモフの『鋼鉄都市』『はだかの太陽』の水準。

2013-02-24 19:54:07
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

SFの説明っぽさを正面突破でみごとに乗り越えたジェイムズ・ティプトリー・ジュニアというひともいるけど、あれは卓抜した才能があってこそ。「ティプトリーを見習え!」なんて酷なことはとてもいえない。

2013-02-24 20:01:46
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 Ⅰ』(ハヤカワ文庫JA)読了。面白かった。日本SFの毎年のベスト作品を集成(この巻は1963年からの10年巻分)しているのだからあたりまえなんだけど。もっとも、オールタイムベストに残るようなとびきりの傑作があるわけでもない。

2013-02-25 11:22:49
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

たとえば、小説の出来映えで収録作品ぜんぶの合計評価をした場合、直前に読んだ『SF JACK』(こちらは書き下ろしアンソロジー、現代の新作ばかり)に比べ、率直に言って、それほど上回ってはいない。しかし、なんというか、圧倒的に粒立っているというか華がある。

2013-02-25 11:23:10
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

もしかすると、ぼくが若いころにこれらの作品に親しんできたせいかもしれないが、それだけじゃないだろう。ひとつのアイデアやシチュエーションで押しきる力がある。

2013-02-25 11:23:35
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

逆に経年劣化しているものもあって、とくに類型的な情緒をベースにした作品や、レトリックに寄りかかっていたりする作品は、いま読むとけっこうツラい。

2013-02-25 11:23:51
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ぼくのベスト3は、石川喬司「魔法使いの夏」、星新一「鍵」、半村良「およね平吉時穴道行」。

2013-02-25 11:24:07
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『日本SF短篇50 Ⅰ』で意外な拾いものが、福島正実「過去への電話」。むかし読んだときは時間テーマのアイデアばかり気にしていたが、この小説はディテールをつみあげかたがみごと。全篇にあふれる屈託もさることながら、野良犬のくだりとか、酒場の女主人のふるまいとか、うわーっとなる。

2013-02-25 22:42:17
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

豊田有恒「退魔戦記」は悪くない作品なんだけど、半村良「およね平吉時穴道行」と同じ巻に入ったのでワリを食っている。過去の謎の文書の持っていきかた(嘘のつきかた)は、半村さんがだいぶうわてだ。もしかすると、物語の本筋よりもそっちのほうが面白いかも。

2013-02-25 22:58:19
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 Ⅱ』(ハヤカワ文庫JA)読了。この巻から、ぼくがリアルタイムで読んだ時期の作品なので、ちょっと感慨ぶかい。このアンソロジーを手がかりに振り返ってみると、神林長平の登場が日本SFの大きな転換点だと気づく。

2013-04-24 11:11:21
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

もしかすると、神林長平の先触れとして、新井素子がいるとみなすことができるかもしれない。

2013-04-24 11:12:21
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

それまでの現代日本SFは、大雑把にまとめると、まず広義での戦後文学として出発し、さらにそれを発展的・批判的・逆行的に乗り越える動きであった(これは作家側だけでなく受容側も含めてのこと)。しかし、神林長平(および彼以降の日本SF作家たち)はそれと無縁の意識や雰囲気のなかにいる。

2013-04-24 11:13:22
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

もちろん例外はあるし、この見取り図で個々の作品を論じることはできない。

2013-04-24 11:13:36
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ぼくがリアルタイムでSFを読んできた感覚でいうと、山田正紀の登場が現代日本SFの大きなエポックに思える。しかし、いま考えると、初期の山田作品はやはり先行する日本SF(戦後文学的な)があってこそ――それは単純な影響関係ではないが――より強い意味を持ったと思う。

2013-04-24 11:13:57
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

それに対して神林長平は、通時的な日本SFの流れとはいったん切れている。かといって、海外SFの影響下で出発したわけでもなさそうだ。よくディックとの類縁性が指摘されるが、ディックはディックで、神林は神林でそこに到達しており、それは時代性などで論じられるものではない。

2013-04-24 11:15:07
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『日本SF短篇50 Ⅱ』収録作のうち際立った傑作は、山野浩一「メシメリ街道」。これをSFMではじめて読んだときの驚きは忘れられない。以来、何度も読み直している。

2013-04-24 11:40:54
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

「メシメリ街道」は――ほか山野作品にもたまに見られるのだけど――寓話的な叙述のみで進むのではなく、妙な部分で現実的というか日常的合理性があって、それがユーモアのように働いている。

2013-04-24 11:41:35
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

たとえば、走り続けるクルマのために、ガソリンや食糧を売る補給車があったり、物品の販売はチケットによっておこなわれていたりなどのくだり。なんか普通にサイエンス・フィクションしているなー。そこがまた面白い。

2013-04-24 11:42:14