【編集者向け】小説用の文章の読み方

作家@toriyamazine氏が解説する <関連まとめ> 「娯楽小説の書き方」 http://togetter.com/li/457782 「創作者に必要な能力とは?」 http://togetter.com/li/104038 続きを読む
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鳥山仁 @toriyamazine

(1) 前回から間が開いたが、今度は編集者向けの「小説用の文章の読み方」について、つらつらとツイートしてみるテスト。

2013-02-25 09:28:56
鳥山仁 @toriyamazine

(2) 【娯楽小説論・試論】(小説と文章力編・編集者編)  編集者にとって、完成した原稿のチェックは多彩な編集業務の一部に過ぎず、必ずしもこの点に傾注するものではない。しかし、同時に編集者は作家よりも文章理解力が高く、なおかつ作家よりも文章力がある方が望ましい。

2013-02-25 09:30:47
鳥山仁 @toriyamazine

(3)  何故なら長編小説の場合、一人の作家が設定や誤字脱字、文章面で失敗をせずに書ききる可能性は0%だからだ。その理由を詳しく説明する必要はないだろう。たとえば、単行本一冊が400字詰め原稿用紙で400枚だったとして、この量の作品を1つの誤字も脱字も文章上のミスもなく……

2013-02-25 09:31:44
鳥山仁 @toriyamazine

(4)……書ききるのは不可能なのだ。少なくとも、私は私を含めてそのような作家を見たことがない。

2013-02-25 09:32:06
鳥山仁 @toriyamazine

(5)  逆に作家が短編を主体としている場合、編集者の存在が必要かどうかはすこぶる疑わしい。400字詰め原稿用紙に換算して、4~5枚の作品に編集者が文章を直したりアドバイスする必要があったとしたら、その作家志望者は筆を折った方が良い。誰にでも向いていない仕事はある。

2013-02-25 09:32:27
鳥山仁 @toriyamazine

(6)  だが、現実にはこうした短編は換金性が低い。しかも、作家志望者の大半は文章が下手だ。もっと正確に言うと、文章が上手でも話が下手な作家(少数だが存在する)よりも、面白そうな話を思いつくが文章が下手な作家の方が多い。

2013-02-25 09:32:52
鳥山仁 @toriyamazine

(7)  また別項でも述べたが、小説の独自性を阻害するのは、実はアイデアではなく文章力だ。本質的に文章力は画力と同じで、どんな壮大なビジョンを作家が思いついたとしても、それに見合った文章力がなければ書けないので作品にならない。

2013-02-25 09:33:14
鳥山仁 @toriyamazine

(8)  つまり、文章は下手だが面白い話を書けそうな作家に適切な指示を与えることによって文章力を向上させ、更に面白いアイデアを執筆可能なスキルを身につけさせる補助の役割をする事が編集にできれば、作家にとっても読者にとってもプラスの関係になる。

2013-02-25 09:33:43
鳥山仁 @toriyamazine

(9)  ただし、その為には編集が作家よりも文章を「分かっている」必要があるし、またそうであったとしても作家の大半は校正や校閲を容易に受け入れない。だから、校正をする時に、編集が具体的に修正案を書き、自分の方が作家よりも文章が上手いことを証明する必要が出てくる場合がある。

2013-02-25 09:34:55
鳥山仁 @toriyamazine

(10)  これを裏返すと、編集が作家を使い捨てと割り切るのであれば、このような関係を構築する必要はない。基本的に文章は直さず、売り上げが落ちてきたら切り捨てる、という方針の編集部もある。しかし、ドライな関係であっても、編集が文章について一定以上の知識を備えている方が望ましい。

2013-02-25 09:35:43
鳥山仁 @toriyamazine

(11)  といっても、編集が覚えておくべき知識も、作家のものとそれほど変わることはない。大きく分けて以下の3点を抑えておけばいい。 (A)同じ単語や同じフレーズを短いスパンで繰り返すと幼稚に見える。 (B)文章は短い方が読みやすい。 (C)文章の読み方には2つの種類がある。

2013-02-25 09:36:43
鳥山仁 @toriyamazine

(12)  (A)と(B)は作家用の文章力を説明する項目でも述べたが、概ねトレードオフの関係である。短く分かり易い文章というのは、要するに反復が多く幼稚かうるさい、もしくはよく言って詩的な印象を与えやすい。

2013-02-25 09:37:10
鳥山仁 @toriyamazine

(13)  こうした手法はコピーライティングなどの短い印象的なフレーズを1行だけ書く場合は有効だが、何千行も書く必要がある小説の場合は、使いどころを間違えると、作家が読者から「詩人」とか「ポエマー(笑)」とかいう有り難くない綽名を頂戴する羽目になる。

2013-02-25 09:37:43
鳥山仁 @toriyamazine

(14)  しかし、作家が長文を書こうとしてこんがらがり、訳の分からない文章が上がってくるよりは、まだ「詩人」の方が何千倍もマシだ。少なくとも読めるからだ。

2013-02-25 09:38:19
鳥山仁 @toriyamazine

(15)  つまり、編集が小説を読む際に最も気をつけなければならないのは(B)だ。作家に長文を書く技術があるとは限らない。だから、大抵の文章講座では「一文を短く切って書いた方が良い」という経験則が指導されるが、実作において長文を思わず書いてしまう状況までは言及されていない。

2013-02-25 09:39:06
鳥山仁 @toriyamazine

(16)  編集校正を行う場合、この点を把握していないと文章上のミスを見逃すことになる。  もっとも、これもそれほど難しい事ではない。主に以下の3つのシーンに気をつけて文章を読めばいい。

2013-02-25 09:39:48
鳥山仁 @toriyamazine

(17) (D)同じシーンで複数のキャラクターが同時に行動した様子を描写した文章。 (E)新しいキャラクターが登場し、今までいたキャラクターと絡んだ様子を描写した文章。 (F)1人のキャラクターが複数の行動を続けて行った文章。

2013-02-25 09:40:12
鳥山仁 @toriyamazine

(18)  以上の3つは、原則としてどれも同じで要するに「複数のキャラクターが行動した様子を描写するシーン」である。ただし、(F)の場合は同一人物なので少々変則的だ。  複数の人物が登場し、同時に行動する状況を描写しようとすると、どうしても複数の主語が存在する文章が書きたくなる。

2013-02-25 09:41:01
鳥山仁 @toriyamazine

(19) 仮に、この行動が同じであれば、文章上のミスが発生する確率は低い。具体的な例を出そう。 (1) AとBは教室を出てトイレに向かった。  この状況であれば例文のように主語が二つあっても、まずどんな作家もおかしな文章を書くことはない。

2013-02-25 09:41:56
鳥山仁 @toriyamazine

(20) しかし、Aがトイレに向かい、Bが職員室に向かったとしたらどうなるだろう? (2) Aは教室を出てトイレに向かい、Bは教室を出て職員室に向かった。  と書いたら一文に「教室を出て」と「向かう」が二重に使用されてしまう。

2013-02-25 09:42:35
鳥山仁 @toriyamazine

(21) これは、 (A)同じ単語や同じフレーズを短いスパンで繰り返すと幼稚に見える。  という原則に抵触するので悪文だ。 それでは、教室を出るところまで一緒にしてみたらどうなるか? (3) AとBは教室を出たが、Aはトイレに向かい、Bは職員室に向かった。

2013-02-25 09:43:18
鳥山仁 @toriyamazine

(22)  これなら「教室を出て」は一度しか使わずに済むが、今度はAとBという人物名と「向かう」が二重に使用されてしまうので、やはり(A)の原則に抵触する悪文である。

2013-02-25 09:43:52
鳥山仁 @toriyamazine

(23)  実は文章が下手な作家や作家志望者、編集者はこの段階で「詰む」。どうして詰んでしまうかは実際に体験した方が良いので、私はこの情景描写の正解を書かない。文章力があれば、同じ語句を二重に使用せずに一文で書けるはずだ。書けなければ、貴方に文章力がない証拠である。 (以下略)

2013-02-25 09:44:13