『ママ、わたしは生きてる』(イントロ)

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Shimada Yuichi @chimada

テイレシアスの目。それは女の子の姿形をしていた。「それ」がほんとうに女の子であるのかどうか。それに関わらずテイレシアスの目は女の子だった。女の子はフッカを見た。「そう。あなたにはわたしが見えない。残念だ。男装中毒。あなたならわたしを見ると思ったのに」テイレシアスの目は女の子だ。

2013-03-20 06:35:57
Shimada Yuichi @chimada

「ミカト。わたしは生かされたんだよ。わたしの協力者は消えた。死んだのではない。消えたんだ。テイレシアスの目が彼らを見るたび、彼らはどこかに行ってしまった。そう思いたい。まさかどこにも行かれずにただ消えていくだなんて、わたしには耐えられない」「めでたしめでたし。ぱちぱちぱちぱち」

2013-03-20 06:47:32
Shimada Yuichi @chimada

拍手の音が部屋に鳴った。ミカトによるものだった。それはどのような意味合いもない、形式的な拍手だった。消えたものに向けたものでも、『目』に宛てたものでも、「めでたし」を畏れたものでもない。言うなれば。火に触れて熱かったから手を引っ込めた、そんな当たり前のような拍手だった。ぱちぱち。

2013-03-20 06:51:15
Shimada Yuichi @chimada

「フッカさん。テイレシアスの目をぼくは応援する」「ミカト?」「だってそうだろう。ぼくの嫌いな世界が消えていくんだ。なんて愉快なんだろう。消えてしまえ、消えてしまえ、ひとつひとつ野の花を摘むように消えてしまえ。そうしてあとに残るのは飾られた花だけだ」「ミカト」「ごめん、フッカさん」

2013-03-20 06:53:36
Shimada Yuichi @chimada

テイレシアスの目がミカトの部屋に遊びに来た。「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。女の子の誘いを断るって、やるわね、魔法少女ミカト!」「なんなの。女の子はみんなして結託してぼくを魔法少女にでもしたいわけなの。そのようなことを話しあうサミットがぼくに内緒で開催されたの?」「何を言っているの?」

2013-03-21 06:44:30
Shimada Yuichi @chimada

「ほんと、あなたが来てくれないって知って、わたしは泣きそうになった。けれど我慢した。コートの中なら平気だからね。ああ、そう。手土産を持ってきたわ。窓の外をごらんください。そうだよ、ミカト。わたしはあなたの嫌いな世界を消去してきた。ミカト。これでわたしを許してくれるかなぁ」「うん」

2013-03-21 06:47:48
Shimada Yuichi @chimada

ミカトたち一行は(ミカト・サクラ・フッカは)窓の外を見た。あらためる。窓の外を見ようとした。見ようとしたけれどその試みは失敗した。見るためには目的が必要ではなかろうか。窓の外にはその目的がいっさいなかった。めでたしめでたしだった。それはおわった物語だった。みんなが幸福に暮らす。

2013-03-21 06:50:43
Shimada Yuichi @chimada

見るという行為がある。それをひとつの文にすると、たとえばこうなる。「ミカトは見る」なるほど。このときミカトは何を見てるのだろう。それが目的だ。見るという行為だけでは行為は成り立たない。そのためには目的が必要だった。その目的が窓の外では一切失われていた。だからミカトは見なかった。

2013-03-21 06:53:20
Shimada Yuichi @chimada

ミカトは窓の内を見た。そうしなければ崩れてしまいそうだった。何が崩れるのかはよくわからないけれど、とにかく「何か」だ。それはもしかしたら「神話」と呼ばれるものかもしれない。あるいは「異性」と呼ばれるものかも。なんだっていいけれど。とにかくミカトは窓の内を見ることで己を回復した。

2013-03-21 06:54:44
Shimada Yuichi @chimada

ミカトは窓の縁に腰掛けた。「テイレシアスの目。何をしにきた」テイレシアスの目(あるいは予言者)はミカトに答える。「え? ごめんなさい。もしかして予言者はここに歓迎されていないのかな。帰るよ。わたし、帰るよ。いやぁ、わたしをもとの世界に帰してぇ!」「喜ばしいことに世界はおわったよ」

2013-03-22 06:27:15
Shimada Yuichi @chimada

「世界がおわった」ミカトのことばは行き過ぎだろうか。それは各々の主観に委ねよう。が、テイレシアスの目による「現象」、その結果だろうか、窓の外には描写すべき何ものもなかったということはもう一度確認しよう。「もしかして、わたしのせいで?」「そう。『目』。君のおかげだよ。ありがとう」

2013-03-22 06:30:04
Shimada Yuichi @chimada

「えへへ」テイレシアスの目はデレた。とくべつツンツンしているようには(あるいはそれが認められるほどテイレシアスの目はこの場に馴染んでいなかったのか)見られなかったが、とにかく『目』はデレた。「よかったら、わたしの頭をなでなでしてくれないかな、ミカトくん」「いいよ。はい、なでなで」

2013-03-22 06:31:44
Shimada Yuichi @chimada

限界遊女は時を越えて活動する。だからといって彼女の特権が「時間」に関わるものだということはない。限界遊女は保存に関わる特権だ。だからこそテイレシアスの目による現象の前に生き残ることができた。限界遊女に残ったものは、生存の保障と、ひとりの男の子だった。それで限界遊女には十分だった。

2013-03-23 07:57:56
Shimada Yuichi @chimada

限界遊女は男の子を隠し、それから活動を再開した。活動といっても大したことはできない。彼女の身体には彼女の関係が保存されていた。限界遊女。彼女さえ生き残れば。そして身体に保存しているものを解放することができれば。その可能性さえ保存されていれば。世界はまだ、おわってなんていなかった。

2013-03-23 08:02:52
Shimada Yuichi @chimada

限界遊女はそれでも頭を悩ませた。彼女にできることはあくまで「保存」だ。保存したものを保存するということ。そこから何かを引き出すことが許されていない。緊急事態においても、「彼女自身の保存」という目的に適うものしか引き出すことができなかった。すなわちそれが「ひとりの男の子」だった。

2013-03-23 08:04:41
Shimada Yuichi @chimada

限界遊女は活動を再開した。とはいっても彼女にとっての活動はあくまで「保存」に関わることだ。それ以上のことはできないし、あるいはしてはいけないのかもしれなかった。そんな彼女に依頼が舞い込んだ。依頼? めでたしめでたしでおわりそうな世界で、だれが彼女に依頼なんてものをするのだろう。

2013-03-23 08:08:38
Shimada Yuichi @chimada

「こんにちは。限界遊女。いや、時間というものがまだ残っているとして」「大丈夫。時間観念はわたしが保存している」「ええー。限界遊女。やるじゃん」「それがわたしの特権です」「そう。そんなあなたにわたしからお願いがあります」「お願い、ね」「絶対遍歴に『世界の名前』を教えてあげて」

2013-03-23 08:11:31
Shimada Yuichi @chimada

限界遊女は依頼を受けた。その内容はこれ。「絶対遍歴に世界の名前を教えて」絶対遍歴。それは記憶に関わる特権だ。記憶とはいったいなんだろう。それは忘れるものだ。それは思うものだ。それは語るものだ。そして、「限界遊女。絶対遍歴なら、眠った世界を揺り起こすことができる」だ、そうだ。

2013-03-24 09:58:18
Shimada Yuichi @chimada

こんにちは。ぼくはアマクサ。はじめましての方も、お久しぶりの方も揃っているようだ。あらためて自己紹介するまでもない。ぼくは妻に逃げられた男だ。それ以上の名誉はないね(皮肉ではなくて)。これは制服が消える話だ。うふふ。今回は(前回もかな)ぼくは道化役を喜んでつとめよう。よろしくね。

2013-03-24 10:58:26
Shimada Yuichi @chimada

「ミカト。テイレシアスの目とお話しよう」「うん。眠いからまた今度」「じゃあ、ミカト。テイレシアスの目に何かお話して」「うん。眠いからまた今度」「ミカト。テイレシアスの目はエッチなことができない」「お話をしよう」「わぁい」「どんな話がいいだろうね」「ミカト。むかしむかしの話がいい」

2013-03-25 07:16:48
Shimada Yuichi @chimada

「メトロポリスの話は知っているか」「知らないよ、ミカト」「そうだな。じゃあ、その話をしよう」「うん」「メトロポリスは女の子だった。メトロポリスはひとりだった。メトロポリスはプログラムだった」「ねぇ、ミカト。プログラムってなに?」「うん? プログラムか。いうなれば神話だろうか」

2013-03-25 07:21:15
Shimada Yuichi @chimada

集中力とはひとつの点に力をこめることではなくて(そうかもしれないけれど)ひとつの点より外のすべてを見るということではないか。盲点があるということ。テイレシアスにとってミカトは盲点だったのだろうか。だからこそ結果としてテイレシアスの目の関心はミカトに集中することになったのだろうか。

2013-03-26 07:05:04
Shimada Yuichi @chimada

たとえふたつの目を持っていても、盲点はあり、それはテイレシアスの目である女の子にとってもおなじようなものだったろうか。盲点を失くすためにはどうしたらいい。盲点をあきらめることだ。盲点をだれかにあずけることだ。わたしのかわりにあなたに見届けて欲しい。テイレシアスの目は何を求める。

2013-03-26 07:10:39
Shimada Yuichi @chimada

『ミカトくん。今日から君をあずかることになったフッカだ。よろしくね』『あなたは』『うん?』『あなたは年下の男の子が好きな女のひとか』『初対面の女性への挨拶としては合格だ』『すみません』『ミカトくん。〈あれ〉は女のひとじゃないよ』『じゃあ、なんだって言うんですか』『〈おめでた〉だ』

2013-03-27 06:42:05
Shimada Yuichi @chimada

時はどこにあるのだろう。テイレシアスの目は世界を見た。世界は消えてしまった。めでたしめでたし。そのとき、時は止まったのだろうか。もちろん、ミカトは時を観測しているだろう。心臓は動くし、犬は鳴くし、テイレシアスの目は話をせがむ。時はどこにあるのだろう。ミカトは時を読んでいた。

2013-03-28 07:20:30