紙ひこうき

かんころもち @ka_n_ko

ここまで来てはもう暴れても仕方がない。紙ひこうきにまとわりつかれたまま、憮然として席に座る大の男を、隣の席に座った子供がぽかんと見上げている。慌てて駆け寄ってきた母親が、その手を引いて隣の車両へと逃げ去って行った。完全に不審人物扱いだ、キースは少し泣きたくなった。

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舞い遊ぶ紙ひこうきに導かれて、イワンもまたモノレールへと駆け込んだ。車両の中をふわふわと逃げ惑う紙ひこうきを追いかける。他の乗客はそんなイワンを見て、遊んでいるのだろう、微笑ましいと優しい笑みを浮かべる。やがて駅につき、紙ひこうきはホームへ飛び出すと、急に力を失い地面に落ちた。

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ここまで必死に紙ひこうきを追いかけていたイワンは、ようやく手にしたそれを拾い上げ、不思議な紙ひこうきを眺めてはて、と首をかしげた。どこからどう見ても、それは何の変哲もないただの紙ひこうきでしかない。変なの、と顔を上げたイワンは、そこで思わず息を飲んだ。

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目の前に、紙ひこうきに囲まれた一人の男がいた。見覚えのある顔だ。ちょうど今朝、この駅で、同じ場所で。踏んでしまった書類を飛ばした持ち主の青年。彼もまた呆然とした表情で、イワンの事を見返している。イワンは少し躊躇ったが、それから勇気を出して、足跡のついた紙ひこうきを差し出した。

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あの、これ。あなたの落とし物ですか？ 今朝言えなかった一言を告げれば、紙ひこうき塗れの青年はぱっと笑顔を浮かべる。ううん、違うんだ。これは君へのラブレターなんだ。ちゃんと届いてくれたようで嬉しいよ、受け取ってくれてありがとう。ええっ と驚いたイワンは紙ひこうきを取り落とす。

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悪戯な風が紙ひこうきを揺らしたけれど、今度はそれを攫って行ってしまうような無粋な真似はしない。キースとイワンの髪を揺らした風は、「どうぞお幸せに」とくすくす笑っているようだった。