"wight"概念研究メモ

ここ一週間くらいで「ワイト」概念について何度か言及してきたので、そろそろ憶え書き的意味でまとめを作って、関連ポストとともに放り込んでおくことにする。
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--- @vanaheimr

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2010-03-11 01:25:49
にるば @nirvanaheim

北欧のサガはワイト(vaettr)に満ちている。放浪冒険譚としての色合いの濃いこともあり、『グレティルのサガ』などにもよく言及されるが、ブログでも触れたハーラマルセイのソルフィンが父カールの墓塚での話など、かの『指輪物語』の塚人譚の元ネタもといイメージソースの一つに相違あるまい。

2010-09-06 06:57:15
にるば @nirvanaheim

まあこちらでは、墓塚に入って宝を得たと思ったところで襲われたのは、平和に慣れた「小さい人」ではなくひねくれた剛勇グレティルなので、見事単独で撃退して首をはねたのだが……

2010-09-06 07:21:44
にるば @nirvanaheim

グレティルがこのカールの塚から持ち帰った宝の中に、特筆されるものとして業物の短剣がある(ソルフィンの家伝来の品であり、グレティルが自分のものとする際に微悶着があった)。指輪を知る者なら当然このキーワードに思い当たるところがあるだろう。

2010-09-06 07:28:07
--- @vanaheimr

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2010-03-11 01:25:49
にるば @nirvanaheim

なるほど、dydeってdeedか……で、didとdeedが同根か。

2010-09-08 01:50:59
にるば @nirvanaheim

ちなみにOEDのwightの頁、第一義A項に挙げられてる"a creature"の出例の頭に挙げられてるのは『ベオウルフ』だけど……

2010-09-08 02:24:24
にるば @nirvanaheim

ベオウルフの該当個所は曠野の巨怪グレンデルの形容で、それを「Wiht unhælo/Wight unhallowed/不浄なるワイト」から始めるところなんだけど、これを見て素朴に、ワイトは日本語で言えば「いきもの」という意味だった、とか言い出す人はまさかいませんよね。

2010-09-08 02:27:25
にるば @nirvanaheim

『初期イングランドにおける癒し手の領域、薬草の知識、星うらないのわざ(Leechdoms, Wortcunning, and Starcraft of Early England)』に採録された文書によれば、麝香薊(ジャコウアザミ)を甘くした酢と一緒にとれば胃の痛みに効くらしい。

2010-09-08 05:39:21
にるば @nirvanaheim

加えて、「日の出の頃と、月が山羊座の位置にある時にこの薬草をとる」習慣を継続する限り、ƿiht yfeles(wight evil)はまったく向かってこなくなるそうな。「(胃痛を起こす?)悪いもの」程度に訳しておけばいいのだろうが、病気を起こす悪霊的存在を示唆しているのだろうか。

2010-09-08 05:46:33
にるば @nirvanaheim

というか、まんま「悪霊は」と置き換えても問題なさそうだな。

2010-09-08 05:49:32
にるば @nirvanaheim

OEDに載ってるwightの出典を当たってみてるだけだけど、何故これが "1. A living being in general; a creature." の例になってるのかは謎い。文脈的に悪しき魔物どもの爪牙から身を守る呪文とかではない筈だが。ウィルスとでも言いたいのかと。

2010-09-08 06:01:42
--- @vanaheimr

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2010-03-11 01:25:49
にるば @nirvanaheim

RPGによる分類学的営為とは、様々な伝説・作品etcに現れる、ただの獣ならずホモ・サピエンスならざる存在を、時空的固有性を剥ぎ取って一般化し、また、共通項のある諸存在を一つの項目名・概念の元にまとめることに始まる。後は、その概念についての本質主義が生まれるだけである。 #TRPG

2010-09-08 07:56:35
--- @vanaheimr

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2010-03-11 01:25:49
にるば @nirvanaheim

そういえば先日言及したグレティルのサガでのカール墓塚譚の件ですが、当該部分自体では元カール翁はvættrとは呼称されてなくて、haugbúiと少し説明的な名詞になっています。haugがこれまで言ってきた塚に相当し、búiは複合して、〜のもの、〜にいるもの、〜の住人、くらいを表す。

2010-09-08 20:15:09
にるば @nirvanaheim

辞書の例として、ein(→only one)-búi(ただ一人でいる/生きる/暮らすもの)→隠修者、himin(→heaven)-búi(天の住人)→天使、ná(→near)-búi(近くに生きるもの)→隣人、等が載っています。勿論haugについても例示あり。というか冒頭にあり。

2010-09-08 20:24:18
にるば @nirvanaheim

そのまま引っ張ってくれば、"haug-búi, hellis-búi, berg-búi, a dweller in cairns, caves, rocks, of a ghost or a giant" となる。ケルンcairnは石を積み上げて作られた塚のことね。

2010-09-08 20:27:46
にるば @nirvanaheim

略奪にあっている塚の主ということを強調するためか、短い話の間haugbúiと呼ばれてるけど、基本的には他の箇所で出るmeinvættr(汚らわしいワイト)と性質が変わらないこともあってか、例えば1900年の英訳ではずばりbarrow-wight(塚のワイト)と訳されたりしている。

2010-09-08 20:33:44
にるば @nirvanaheim

総じて言えば、概ねワイト概念は人間と主観的に並べられるような存在の一般的総称であって、まず無害な無機物や獣や虫でなく、また明らかに崇めるべき上位存在である神等でなく、しかも人間自身や肯定的に見られる半神小神等でない方面に重点があるような概念であった、とでも言うことができるだろう。

2010-09-08 21:17:08
にるば @nirvanaheim

幽霊、悪魔・病魔、妖怪、妖魔、妖精。また、逸脱的な人間。この辺りの連続的なイメージ領域に使われた言葉であったのが——人間の社会が発達し、「人外の人」のイメージ的な力が弱まっていくとともに、心情表現として使われる幅が広がり、いわゆる我々の主観的な「人間」の領域へ重心が移っていく。

2010-09-08 21:24:39
にるば @nirvanaheim

これはエルフとかについてもそうなんだけど——トールキンはエルロンドばりの言語と古伝承の大家だから当然そういう事情は全部分かっていて、自分の物語には古形を反映した描写を行っている。しかも実際の歴史的経緯のように、古きnon-humanたちが衰えて行く事情も予定的に告げている。

2010-09-08 21:41:58
にるば @nirvanaheim

でも受け手の側はそんな大家ではない。一般に、近代から見える「昔」というのは、近代に残る非近代、近代直前の残滓でしかない。だから、トールキンが「実際の伝承にない新しい」姿を生み、固定化させた、とか言われてしまう。いや、中つ国という「世界」が新しい要素を生み出しているのは事実だけど。

2010-09-08 21:46:11
--- @vanaheimr

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2010-03-11 01:25:49
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