鳥山仁氏の【娯楽小説論・試論】(作家の強迫観念と、編集者や読者への対応)

鳥山仁(@toriyamazine)氏:作家・編集者。
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鳥山仁 @toriyamazine

(25)  ……批判した連中から更なる失笑を買うようになる。  しかし、それでもまだ彼らは「自分は読者と同じ目線に立っている」と思っている作家よりもマシである。「自分は読者と同じ目線に立っている」と思っている作家は……

2013-04-15 01:07:46
鳥山仁 @toriyamazine

(26)  ……「自分は読者を馬鹿にしていない。だから悪くない」と思い込んでおり、何が駄目なのかと反省する気すらない場合が多いからだ。

2013-04-15 01:08:22
鳥山仁 @toriyamazine

(27)  読者から承認されたいという欲求が先行して、自分が読者と同じか優れていると主張する作家は、作家を読者の代弁者・ロボット・自動書記マシーンぐらいにしか思っていない読者を呼び寄せる。デビュー前の作家志望者は、くれぐれもこのようなミスをしないように注意すべきである。

2013-04-15 01:08:43
鳥山仁 @toriyamazine

(28)  次の注意点だが、自己の強迫観念を幾つかの要素に分けて客観的に把握するように努める。小説の場合は、以下の要素に分けることを推奨する。

2013-04-15 01:15:26
鳥山仁 @toriyamazine

(29) (1)テーマやモチーフ  いくつもの作品を執筆している作家は、ほとんどの場合同じテーマやモチーフを繰り返し作品内に登場させる。これは意図している場合でも意図しない場合でも同様である。何故なら、それらが小説を執筆する際の動機=強迫観念だからだ。

2013-04-15 01:15:42
鳥山仁 @toriyamazine

(30)  処女作を執筆している途中や、書き終わったばかりであれば例外だが、作品を3つ以上仕上げた作家は、これらを読み直し、自分が強迫的に反復しているテーマやモチーフを把握すべきだ。これらの強迫観念は、執筆者にとって最も頼るべき武器であり、編集者や読者に否定されても放棄しない。

2013-04-15 01:16:30
鳥山仁 @toriyamazine

(31)  逆に編集者や読者がこれらの強迫観念を指摘してきた場合で、かつそれが事実だったなら(事実かどうかは自作を読み直せば判明する)、素直に認めた方が良い。ここで恥ずかしがって否定したりすると、別のモチーフの作品を書かねばならなくなるので、きつい状況に追い込まれる。

2013-04-15 01:17:12
鳥山仁 @toriyamazine

(32)  老練な作家やコミュニケーション能力が高い作家であれば、こうした逆境を活かして新境地を開拓できる場合もあるが、ほとんどの作家にそのような能力は備わっていない。坂道を転がり落ちるように失敗するので、危険な賭に出ることはお勧めしない。

2013-04-15 01:17:37
鳥山仁 @toriyamazine

(33)  つまり、作品を創るたびに反復されているモチーフを変えるべきではない。  作家のモチーフやテーマは、性的なフェチと関係性が薄い限り批判の対象となることはほぼ無い。ある場合は批判の対象となるので次の(2)を読んで対応策を予め練っておく。

2013-04-15 01:18:14
鳥山仁 @toriyamazine

(34) (2)性的フェチ  性的なフェチもテーマやモチーフのように繰り返される傾向があり、別のフェチを上手く入れようとすると苦労する羽目になる。たとえば、ヘテロセクシャルの男性作家が描くヒロイン像は概ね処女作から一貫しており、しかも何作書いても大きな変化は無いのが通例である。

2013-04-15 01:18:34
鳥山仁 @toriyamazine

(35)  性的な嗜好は分かり易い分だけ批判のターゲットにされる事が多い。ヘテロセクシャルの男性作家が男性向けに書く小説のヒロインは、概ね男性にとって都合の良いプロフィールや外見や性格を有しているし……

2013-04-15 01:18:46
鳥山仁 @toriyamazine

(36) ……逆にヘテロセクシャルの女性が女性向けに書く小説のヒーローは、概ね女性にとって都合の良いプロフィールや外見や性格を有しているものだ。

2013-04-15 01:18:56
鳥山仁 @toriyamazine

(37)  すると、批判者はここに目をつけて作品を引きずり下ろしにかかる。こうした批判は大きく2つのパターンに分けることができる。

2013-04-15 01:19:09
鳥山仁 @toriyamazine

(38) 1.リアリティがない。  登場するキャラクターが対象読者にとって都合が良く、性格や価値観がリアリティ(本物らしさ)を著しく欠いているという内容で、主に男性嫌悪者(ミサンドリー)が男性向けの作品を批判する、または女性嫌悪者(ミソジニー)が女性向けの作品を批判する際に使う。

2013-04-15 01:19:37
鳥山仁 @toriyamazine

(39)  この批判に嵌るのは、常日頃から「作品のリアリティ」を重視すると公言している作家や作家志望者で、最初から「僕はフィクション(あるいはファンタジー)を書いている」と公言している作家は罠にかからない。

2013-04-15 01:19:56
鳥山仁 @toriyamazine

(40)  リアリティに関しては別項で詳細に説明するが、原則として娯楽作家は「リアリティにこだわっている」と主張しない方が良い。  貴方が「リアリティを重視する」と公言していて前述の批判を受けた場合は、批判に甘んじる以外の選択肢は無い。揚げ足をとられるような発言をしている方が悪い

2013-04-15 01:20:18
鳥山仁 @toriyamazine

(41) 2.ポルノ的な内容で読者に媚びを売っている。  性行為そのものや性的なシーンを想起させる描写がある作品に向けられる批判で、主にセックスが嫌いな男女から発せられる。

2013-04-15 01:20:33
鳥山仁 @toriyamazine

(42)  日本におけるセックス嫌いは人口の約1%を占めており、あからさまにポルノ的な作品には手を出さないが、誤って中間小説的な内容の作品に目を通してしまうことがあり、上記の批判に繋がるケースが多い。

2013-04-15 01:20:43
鳥山仁 @toriyamazine

(43)  もしも、貴方が考えている読者層が全年齢向けか一八才未満の女性であれば、前述した批判に耳を傾けた方が良い。性嫌悪の傾向は三〇代までは年齢と反比例する傾向が顕著で、一八才未満の女性読者の5割以上は性行為を嫌悪しているか関心がない。そこにわざわざ嫌われる要素を入れない。

2013-04-15 01:21:18
鳥山仁 @toriyamazine

(44)  逆に二〇代から三〇代の男性をターゲットにしている場合は、素早く反撃に入る。批判している相手はほぼ100%の確率でセックス嫌いなので、「貴方がセックスが嫌いなんじゃないんですか?」と反論して、批判者の性的強迫観念に論点を移行させてしまう。

2013-04-15 01:21:34
鳥山仁 @toriyamazine

(45)  成人以降の年齢でセックス嫌いは社会的に欠陥のある人物と見なされるので、公的な論争の場において批判者は圧倒的な不利に立たされる。この段階で論戦はほぼ勝ったも同然で、相手が認めようが認めまいが、同じ発言の繰り返しで追い詰めてしまえば良い。

2013-04-15 01:21:45
鳥山仁 @toriyamazine

(46) (3)リアリティがない。  リアリティ(本物らしさ)は強迫観念の中でも可変性が高く、知識や経験の蓄積によって変化する。

2013-04-15 01:44:11
鳥山仁 @toriyamazine

(47)  たとえば、貴方が列車が好きで車両の特徴や時刻表の作り方まで知っているとすれば、貴方の書く列車が登場するシーンは、列車についての知識のない作家が書いたものよりも、格段にリアリティが増しているはずだ。

2013-04-15 01:44:22
鳥山仁 @toriyamazine

(48)  また、勉強熱心な作家や作家志望者は、常に自己のリアリティを拡充すべく、様々な情報に接したり、実体験をしに行ったり、専門書を買い集めたりして怠りがない。こうした努力は美徳ではあるが、あまりにもそれを鼻にかけると攻撃の対象になりかねない。

2013-04-15 01:44:38
鳥山仁 @toriyamazine

(49)  特に娯楽小説の場合、面白さを優先してストーリーの構築を行うため、どうしてもリアリティのプライオリティ(優先順位)が下がる。にもかかわらず、自作の売り文句を「僕の小説は銃撃戦のリアリティにこだわりました」などと主張してしまうと……

2013-04-15 01:44:58