鳥山仁氏の【娯楽小説論・試論】(作家の強迫観念と、編集者や読者への対応)

鳥山仁(@toriyamazine)氏:作家・編集者。
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鳥山仁 @toriyamazine

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鳥山仁 @toriyamazine

そろそろツイッター上でこの手のお話をするのは量的な理由から限界やね。 (1) 【娯楽小説論・試論】(作家の強迫観念と、編集者や読者への対応)

2013-04-15 00:58:46
鳥山仁 @toriyamazine

(2)  小説は創作物、すなわち嘘だ。作家は歴史的事実を背景として利用したり、実在する兵器や車両、人物や動植物、地理、政策や思想を作品内に登場させるかも知れないが、それでも作品が嘘で構成されているという事実にはいささかの変化もない。

2013-04-15 00:59:05
鳥山仁 @toriyamazine

(3)  そこで、作家にとって重要になるのが強迫観念である。強迫観念とは要するに思い込みのことだが、作品に強迫観念を投影すればするほど、作者にとってそれは「本当に起きた出来事」のように思えてくる。

2013-04-15 00:59:16
鳥山仁 @toriyamazine

(4)  作品への没入が激しい作家の中には、自分が書いたキャラクターが「勝手に動き出す」という錯覚すら抱く場合がある。統合失調を始めとする精神病患者が作家に占める比率が高いのは偶然ではない。病的なほど思い込みが強ければ、それだけ作品を仕上げる能力が高くなるからだ。

2013-04-15 00:59:32
鳥山仁 @toriyamazine

(5)  それほど強い強迫観念がないと、小説を書いている途中でストーリー展開を「どうするか?」で蹴躓く。ゲーム的な言い方をするのであれば、分岐が幾つも思いつけるからだ。

2013-04-15 00:59:43
鳥山仁 @toriyamazine

(6)  ラストシーンだけに絞ったとしても、ハッピーエンドにする、バッドエンドにする、宙ぶらりんの状態で終わらせる(読者の判断に委ねる)など、いくつも処理の仕方がある。そこで悩んでいたら、いつまで経っても作品が仕上がらない。

2013-04-15 00:59:53
鳥山仁 @toriyamazine

(7)  特に作家が若年者だったり、引き籠もりがちだったりするケースでは、自己の経験を作品に反映させることが困難になるため、強迫観念への依存が相対的に高くなる傾向がある。

2013-04-15 01:00:05
鳥山仁 @toriyamazine

(8)  以上の理由から、思い込みの能力は小説執筆中には概ねメリットとして作用する。ところが、作品を仕上げて編集者なり読者なりに渡った瞬間から、それらの能力はことごとくデメリットとして作用する。

2013-04-15 01:00:20
鳥山仁 @toriyamazine

(9)  思い込みが強いと言うことは、容易に考え方を変えられない偏狭な性格、強い妄想癖と同義だからだ。それらは社会生活を送るには問題のあるパーソナリティとして認識されているし、それは作家として暮らしていくときにも変わらない。

2013-04-15 01:00:33
鳥山仁 @toriyamazine

(10)  編集者や読者が作家と同じ方向性の強迫観念を抱いているのであれば、幸せな関係が築けるが、実際には不特定多数の購買層に送り届けられる商業作品で、このような幸福な状況は望むべくも無い。

2013-04-15 01:00:44
鳥山仁 @toriyamazine

(11)  作家の強迫観念が編集者や読者の強迫観念と衝突すると、作品はこき下ろされ、作家自身の人格にまで批判が向けられる。こうした罵倒の嵐に怯え、パニックになった作家は、居丈高になって読者を見下してみたり、逆に読者や編集者の望む作品を書こうとして必死の努力を開始したりするが……

2013-04-15 01:01:31
鳥山仁 @toriyamazine

(12) ……どれも上手くいかない。  前者の場合は、逆に作品の欠陥を複数の読者から指摘され、ネットで発言をしている場合はその矛盾点や事実とは異なる妄想的な発言まで引っ張り出されて叩かれる。

2013-04-15 01:01:58
鳥山仁 @toriyamazine

(13)  まず結論から述べると、作家は自己の強迫観念を殺してはいけない。それは作家が創り出す創作物の死と同義である。ただし、同時に作家は作品として不特定多数の人間の目にさらされた強迫観念の成果物、すなわち小説が批判された時の対応も考えておかねばならない。

2013-04-15 01:02:49
鳥山仁 @toriyamazine

(14)  前述したように、批判されない作品を創ろうという努力は徒労に終わる。ネット上で自作がぼろくそにこき下ろされたのを目にして発狂し、「こいつらに何が分かる! 俺は頭が良いんだぞ! どうして俺を認めないんだ!」と喚いても現実は何も変わらない。

2013-04-15 01:03:15
鳥山仁 @toriyamazine

(15)  大切なのは、執筆中に武器として利用していた強迫観念を執筆後には客観視して、どのような批判が起きるかを事前に予測しておくことだ。批判や誹謗中傷は避けられないが、来る方向が分かっていればパニックになることはない。

2013-04-15 01:04:43
鳥山仁 @toriyamazine

(16)  まず、最初にすべきなのは「読者を自分と同じ強迫観念の持ち主」と見なさない事である。読者は読者で一個の人格であり、それぞれが異なる人生を送っており、またそれに伴い異なる価値観を有している。

2013-04-15 01:04:54
鳥山仁 @toriyamazine

(17)  にもかかわらず、作家が読者を「自分と同じ」あるいは「自分と同じだが劣っている」と思うのは増上慢も甚だしく、袋叩きの目に遭うのは当然としか言いようがない。「自分ならこうすれば喜ぶ」と考えるのは小説の構想時だけで十分であり、執筆が始まったらさっさと冷静さを取り戻すべきだ。

2013-04-15 01:05:08
鳥山仁 @toriyamazine

(18)  と言っても、この手のミスをする作家や作家志望者は何を言っているのか分からないだろうから具体的に説明しよう。要するに、作家が読者と同じだと思っているケースがあるように、読者の方が作家を自分と同じだと思っているケースがあるのだ。

2013-04-15 01:05:20
鳥山仁 @toriyamazine

(19)  この手の狂った読者にとって、彼らが妄想していることを代弁しない、あるいは妄想しているシチュエーションを再現しない作家は「分かっていない奴」ということになる。そこに作家自身が「僕は読者と同じ目線で小説を書いているんですよ」と主張したらどうなるかは考えるまでもない。

2013-04-15 01:05:38
鳥山仁 @toriyamazine

(20)  待っているのは「お前は読者と同じ目線で考えていると言っているが、実際には分かって無いじゃないか」という批判の嵐である。自分から「同じだ」というスタンスを採ってしまった手前、批判を回避するのは不可能だ。

2013-04-15 01:05:49
鳥山仁 @toriyamazine

(21)  また、自分が読者よりも賢く、立場が上だという認識の作家も同じ罠に引っかかる。こちらの方は「どうして俺達よりも頭が良いと主張している作家が、俺達の思っていることを執筆できないのだ?」というツッコミから批判の火ぶたが切って落とされるケースが多い。

2013-04-15 01:06:03
鳥山仁 @toriyamazine

(22)  こうやって追い詰められた作家は、思わず「自分の書いている小説の内容は高尚で、馬鹿な読者には分からない」と口走ってしまうことが多いが、これで詰んだも同然だ。

2013-04-15 01:06:16
鳥山仁 @toriyamazine

(23)  作家は自縄自縛の状態に陥り、自己の作品が高尚である、すなわち自分が頭の良い奴であることを、作品によって証明しようと躍起になる。ところが、自分がどうやって読者から批判されるかを、事前にシミュレーションすらできない人間の頭が良いはずもない。

2013-04-15 01:06:33
鳥山仁 @toriyamazine

(24)  敢えて作家が読者よりも優れている点を上げるとすれば、かつて熱心な読者であり、また小説を書く際に資料の収集に怠りがない点ぐらいである。その結果として出来上がるのは、ウンチクだらけの小説だったり、高尚と言われている海外の思想を丸写しにした小説で……

2013-04-15 01:07:07