鳥山仁氏の【娯楽小説論・試論】(作家の強迫観念と、編集者や読者への対応)

鳥山仁(@toriyamazine)氏:作家・編集者。
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鳥山仁 @toriyamazine

(50) ……すかさずマニアが現れて、鵜の目鷹の目で貴方の作品を検分し、そして間違いなく存在するはずの「リアルじゃない部分」に突っ込みを入れてくる。この検分に耐えられる作品はほぼ存在しないので、貴方が負ける確率は100%だと思っていて間違いない。

2013-04-15 01:45:16
鳥山仁 @toriyamazine

(51)  作家が自分の作品を「本当にあったこと」のように書く事は大切だ。ただ、それが他人である編集者や読者に伝わると思ってはいけない。読者の中には、貴方よりも特定の分野で質量共に優れた知識を有している人物がおり、彼らにかかれば小説内のリアリティなど簡単にひっくり返される。

2013-04-15 01:45:27
鳥山仁 @toriyamazine

(52)  前述したとおり、娯楽作家を目指すのであれば「リアリティを重視している」という自作に対する主張は控えるべきだ。大抵の「本物らしさ」論争は不毛である。これがライトノベルのような、目が人類よりも遥かに大きなキャラクターのイラストを用いる作品群であれば、この不毛さは際だつ。

2013-04-15 01:45:52
鳥山仁 @toriyamazine

(53)  そもそも登場人物がリアルじゃないからだ。  こうした批判を気に病む作家の中には「リアルに描いてはいないが、その事によってむしろリアリティが引き立つ」という逆説的な詭弁を用いる者もいるが、これもたいていの場合は簡単に論破されるので止めるべきだ。

2013-04-15 01:46:18
鳥山仁 @toriyamazine

(54) (4)下らない。中身がない。  読者の何割かは、自分が知らない知識が小説で開陳されるとパニックに陥る。彼らは自分が持っている知識の範囲内でストーリーが展開することを望んでおり、本質的には娯楽を愉しめるタイプではないが、商業小説の場合は購買層に含まれるためトラブルになる。

2013-04-15 01:47:15
鳥山仁 @toriyamazine

(55)  彼らは自分の知らない知識や価値観にぶつかると「こんなものは下らない!」とか「この作品には中身がない!」などとこき下ろしにかかる。特にパロディを多用している作品に、このような誹謗中傷が向けられる確率が高い。

2013-04-15 01:47:27
鳥山仁 @toriyamazine

(56)  何故なら、パロディは元ネタが分からないと面白がれないという特性があるため、知らない読者は無視する元ネタを調べるか、分からないことにパニックを起こすかの選択肢しかないからだ。

2013-04-15 01:47:37
鳥山仁 @toriyamazine

(57)  「下らない」をネガティブな意味で使用する読者は、そもそも娯楽を愉しめる価値観の持ち主ではないので、黙ってスルーするか自作を二度と買わないように罵倒して追い出すかのどちらかを選べばよい。いずれにせよ、論争を長引かせるのは不毛で意味がない。

2013-04-15 01:48:00
鳥山仁 @toriyamazine

(58) (5)内容が中途半端。  これは「下らない」の変形で作品内に自分が期待したフェチやシチュエーションが予想よりも入っていないことに対する落胆を意味している感想だ。たとえば、「恋と戦争を扱った一大ロマン作品」と銘打った小説を読者が買って読んだとして……

2013-04-15 01:48:11
鳥山仁 @toriyamazine

(59) ……その内容が恋愛シーンばかりで戦争描写がほとんど無かったりすると「この小説は内容が中途半端だ」という感想が出てくる。「下らない」が知らない知識に対するパニックを意味しているのに対して「中途半端だ」は知っている情報の不足を嘆いている点が異なる。

2013-04-15 01:48:22
鳥山仁 @toriyamazine

(60)  このような感想は、必ずしも悪意があるとは言い切れない。小説の売り文句と内容が乖離している可能性があるからだ。「内容が中途半端だ」という感想を自作につけられた場合、作家や編集者は読者の声に素直に耳を傾けて、次作からフェチやシチュエーションの比率をコントロールするか……

2013-04-15 01:48:32
鳥山仁 @toriyamazine

(61) ……無視するかの選択をしなければならない。複数のジャンルに跨った、いわゆるクロスオーバー的な作品は、このような感想をつけられる可能性が高いが回避は難しい。

2013-04-15 01:48:47
鳥山仁 @toriyamazine

(62) (6)必要性がない。  私が知る限り、娯楽小説に対する最悪の評価であり、この感想をつけた読者は本質的に娯楽小説を享受できる価値観の持ち主ではない。

2013-04-15 01:49:17
鳥山仁 @toriyamazine

(63)  まず「必要性がない」という批判は「あるシチュエーションが読者にとって必要とは思えない」のか「ストーリー上必然性のあるシーンが欠けている」のか「SFやファンタジー小説のように異世界もので設定上のリアリティを担保するために要求される設定が欠けているのか」の……

2013-04-15 01:49:41
鳥山仁 @toriyamazine

(64)  ……いずれかを意味しているのが分からない。  恐らく本人は「ストーリー上必然性のあるシーンが欠けている」と言っているつもりなのだろうが、本音は「あるシチュエーションが自分にとって必要とは思えない」だろう。

2013-04-15 01:50:12
鳥山仁 @toriyamazine

(65)  要するに「自分が嫌いなフェチなりシチュエーションなりが作品内に入っている」事に対する不満だが、それをオープンにすると自分も批判されるおそれがあるために「必要性がない」というまるで作品に問題があるかのごとき言い方をしているのだ。

2013-04-15 01:50:26
鳥山仁 @toriyamazine

(66)  娯楽小説にとって最も重要な判断基準は「面白いか詰まらないか」であって、それ以外の要素は好き嫌いの問題に過ぎない。それこそ、必要性がないという基準は必要ではない。

2013-04-15 01:50:40
鳥山仁 @toriyamazine

(67)  「必要性が無い」という批判は、概ね突発的な暴力シーンやネガティブな感情を想起させるシーン(いわゆる鬱展開)が登場した場合につけられる感想で、逆のパターン、すなわち明るく楽しいシーンがあっても「必要性がない」とは滅多に言われない。

2013-04-15 01:50:55
鳥山仁 @toriyamazine

(68)  従って、この感想を鵜呑みにすると、ストーリーに起伏が無くなるか、明るく楽しい「だけ」か、辛いことがあっても最後はハッピーエンドで締めくくられる話ばかりを「書かされる」という大変素晴らしい作業に従事させていただけることになる。

2013-04-15 01:51:23
鳥山仁 @toriyamazine

(69)  こうした作風の作家ならともかく、そうでなければこの手の批判をした読者は袋叩きにして良い。彼らに娯楽のなんたるかを説いても、好き嫌いでしか判断しないので議論は平行線を辿る。むしろ、嫌いなことを嫌いだと言えるように、言い方を変えさせた方がちゃんとした話し合いになる。

2013-04-15 01:51:48
鳥山仁 @toriyamazine

(70)  余談だが、このタイプが編集者として登場した時は、作家や作家志望者は警戒値を最大に上げて対応すべきだ。

2013-04-15 01:52:06
鳥山仁 @toriyamazine

(71)  この手の編集者は自分の好きなフェチやシチュエーションを決して口にせず、貴方の好きなフェチなりシチュエーションなりを言わせ、その後で「必要性がない」「読者は望んでいない」と責任転嫁を連発して、前述したパターンの話を無理矢理書かせようとする。

2013-04-15 01:52:18
鳥山仁 @toriyamazine

(72)  もちろん、彼に面白い小説のアイデアなど提供できるはずもない。  同じ強迫観念を持っていないと、それだけで消耗する相手なので、さっさと距離を置いて一緒に仕事をしようとは思わない方が良い。

2013-04-15 01:52:32
鳥山仁 @toriyamazine

まあ、こんな感じですね。後は枝葉末節なので省略します。

2013-04-15 01:53:11