山本七平botまとめ/”解放”という名の押付けーーその起源/~「諸悪の根源」だったアレクサンダー大王の東征~

山本七平著『存亡の条件ーー日本文化の伝統と変容ーー』/第二章 民族と滅亡/”解放”という名の押付けーーその起源/36頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【″解放″という名の押付け――その起源】ヨセフスは、その記述を、ユダヤ人が滅亡した紀元70年をさかのぼること245年の、紀元前175年、シリア王アンティオコス四世エピファネースの治世からはじめる。<『存亡の条件』

2013-03-28 18:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

②そして自らが直接戦争に介入する以前のこと、いわば「前史」は、旧約聖書の『マカバイ記』と前記のダマスクスのニコラウスの記録によっている。 従ってその資料である『マカバイ記』からはじめよう。 その冒頭は次の一文ではじまる。

2013-03-28 19:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

③「キッティームの地から身を起こしたフィリポスの子、マケドニア人アレクサンドロスは、ベルシア人とメデア人の王ダレイオスを完全に打ち破って、彼に代わって王となった」―― その死後は彼の後継者たちがその領土を分割して王となり「こうして、地上には悪が満ちたのである」と。

2013-03-28 19:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

④キッティームはユダヤ人が多島海方面を指す総称で、ここに記されているアレクサンドロスとは、日本では知らぬ人のない英雄アレキサンダー大王の事である。 面白い事にユダヤ人は彼とその後継者を「諸悪の根源」と見た。 なぜであろうか。 続く部分を読めば誰にでもその理由が明らかであろう。

2013-03-28 20:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤西欧が、今なおアンクサンドロスを評価するその点を、彼らは「諸悪の根源」と見たのである。 いうまでもなく、西欧の「評価」とは、彼の外征が単なる武力征伐でも侵略でもなく「ヘレニズム文化の宣布」ないしは「ヘレニズム化」という″崇高″な目的があったという点である。

2013-03-28 20:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥従ってこれは、それまでの″野蛮″な侵略とは別に考えなければならない――と書いた本さえある。 これは、おそらく、西欧が文化的知的優位を意識した最初なのであろう。 それまでのギリシアは長い間、確かに東方から影響を受ける”後進国”にすぎなかった。

2013-03-28 21:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦従ってアレクサンドロスは、西欧の知的優位を意識し、「ヘレニズム文化」なるものを、軍事行動によって広く宣布したといえる。 そして少なくとも西欧が、そういうことを感じうる彼は最初の人物であった。 今でも西欧は、それを信じて疑わない。

2013-03-28 21:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧この、戦争により文化を押しつける、 ないしは古い土着の″野蛮″な文化様式から″解放″してやる、 という行き方は、以後全世界に広まり、20世紀の日本においても、大東亜戦争の目的は「あまねく皇道を宣布するにある」などといわれた。

2013-03-28 22:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨だが、山崎正和氏も記しているように、この考え方が、実は、人類史上における最もやっかいな考え方なのである。 氏が指摘するように、たとえばスペイン人がメキシコに来て、ただ銀塊を奪って引き揚げるだけなら、その損害は知れている。

2013-03-28 22:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩人間の経済上の争いには常に「採算」という限界があり、これを越えて人が行動することはないわけだが、しかし全く違った文化とそれに基づく意識で生きている人間を、強制的に自己の思想に改宗させて、頑迷な古い文化から解放してやろうとする者が権力を握れば、それは際限のない弾圧になりうる。

2013-03-28 23:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪これには、限度がなく、それが招来する流血の悲劇は、小は、鉄パイプによる反対思想の持主(?)への殺害から、大は、命じられた思想通りに生きることを拒否する者への大量虐殺にもなりうる。 これは常に″解放″につきまとう問題であって、″解放″に粛清が付随するのを不思議がる必要はない。

2013-03-28 23:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫そしてこの問題がアレクサンドロスの時の「ヘレニズム化強制」に始まった訳である。 といっても彼自身はいわば「スローガン」だけであって幸い(?)早死した。 ところが前記の紀元前の175年に、このスローガンを現実に忠実に決定的に行おうとした、史上最初の人間(と思われる)が出現した。

2013-03-29 00:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬それがシリアのセレウコス朝の王アンティオコス四世エピファネースである。 エピファネースは現神王の意味だが、彼はエピマネス(狂人王)とも呼ばれた。

2013-03-29 00:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭アレクサンドロスの死後の分割で、パレスチナは大体エジプトのプトレマイオス朝の勢力下に置かれていた(非常に不安定ではあるが)が、紀元前200年ごろからシリアのセレウコス朝の支配下に置かれた。 とはいえ、彼らはペルシア時代から一貫して高度の自治権を保有していた。

2013-03-29 01:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮史家はこの時代を祭司侯国時代という。 ぺルシアにとって、パレスチナはエジプトヘの陸橋であり、これを失うことはエジプトを失うことを意味していたので、支配者というよりをしろ同盟者という態度をとり、ユダヤ人を優遇した。

2013-03-29 01:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯…この長い長いペルシア期を、彼らは、実質的には他の制肘を受けない独自の文化の中に生きていくことができた。 したがってこの、頑迷な伝統に生きるユダヤ人を″解放″して、ヘレニズム文化の恩恵に浴させようという権力者が出て来たら、それは確かにエピマネス(狂人王)であろう。

2013-03-29 02:27:48
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰しかし困ったことにエピファネースは、ローマで教育を受け、これまた熱狂的なヘレニズム信奉者であった。 その彼が、ユダヤ人を、徹底的にヘレニズム化する決心をしたわけである。 従ってそれは「批旧批伝統」一大文化革命、流血の大弾圧となっても不思議ではなかった。

2013-03-29 02:57:40