山本七平botまとめ/イエスも答えられなかった「二者択一」/~ユダヤ人が陥った二重の文化・二重の基準の陥穽とは~

山本七平著『存亡の条件ーー日本文化の伝統と変容ーー』/第二章 民族と滅亡/イエスも答えられなかった「二者択一」/43頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【イエスも答えられなかった「二者択一」】彼らはエピファネースの狂信的弾圧に対決してそれを排除して独立したわけだが、政治的独立はそのヘレニズム化を停止はさせなかった。 当然であろう。<『存亡の条件』

2013-03-29 12:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

②だがヘレニズム化には恐ろしい記憶がつきまとっている。 これは戦後のアメリカ化と原爆の関係に似ているかも知れない。 原爆投下という恐るべき″弾圧″とアメリカを切り離す事は日本人にはできない。 そしてそれができないのに、日本がずんずんアメリカ化して行くのをとめる事はできない。

2013-03-29 13:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

③原爆を強調するのもアメリカ化を強調するのも、共に一種の後ろめたさが生じてしまう。 同様に当時のユダヤ人は、一種の罪悪感を感じつつヘレニズム化していかざるを得ない。 更に、時と共に反ヘレニズム化の指導者だったハスモン朝自体が、周辺のギリシア系諸王朝と変わらなくなってくる。

2013-03-29 13:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

④そしてその最盛時、アレクサンドロス・ヤンナイオス王のころになると、逆に周辺のギリシア都市同盟に戦いを仕かけ、また南部のイドマヤ人を征服してこれを強制的にユダヤ化するという、かつてのエピファネースと同じようなことをする。

2013-03-29 14:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤これはちょっと、西欧の圧力から脱した日本が同じように「皇道宣布」の圧力を周囲にかけはじめたのに似ている。 と同時に、かつての同志とその後裔に対する徹底的な弾圧と独裁化がはじまる。

2013-03-29 14:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥またローマは、既にイスラエルの周辺に進出して来て、機会があれば、かつての同盟国を征服してしまおうと機を狙っている、という形勢になって来た。

2013-03-29 15:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦一方、一般民衆は…自分たちの自発的蜂起によって、アレクサンドロスの後裔である大シリア王を追い払ったという自信と、自分たちの生き方こそ正しくて、ヘレニズム化した指導者は悪であるという確固たる信念をもちながら、実際の生活は、日々にヘレニズム化していった。

2013-03-29 15:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧ちょうど今の日本が、自らがアメリカ化しながら、対米追随とアメリカとを非難し、政治的指導者を一切尊敬せず、それを強く批判しながらも、暗にそれを支持している状態とよく似た状態であろう。 その基本にあるものは、奇妙な二重の文化・二重の基準であった。

2013-03-29 16:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨いわば、断乎たる共産主義者として資本主義を徹底的に否定しながら、資本主義の社会に生きているようなものである。

2013-03-29 16:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そしてそれより始末が悪いのは、彼らは、自らの命を賭して排撃した主義をまず徹底的に否定し、ついでそれに成功して独立を獲得したくせに、自らが否定したその主義に従って生きて行く結果を招来してしまったことであった。 ローマの影響が強くなれば、それはますます強くなった。

2013-03-29 17:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪そして最終的にローマ圏に組み込まれたとき、彼らは実に奇妙な状態に陥ってしまったのである。 有名な「神かカイサルか」という二者択一がある。 一方は、彼らが死を賭して守った伝統的秩序すなわち神政政治であり、これは彼らにとって絶対である。

2013-03-29 17:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫その絶対は、戦前の天皇制、戦後の平和憲法などとは比較にならないほど絶対的であり、瀆神(とくしん)は死刑を意味した。 だがしかし、彼らの日常を決定的に支配しているものは、カイサルすなわちローマ的体制であり、それに基づく自由競争的社会であった。

2013-03-29 18:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬確かにローマも階級社会であったが、帝政時代には、この階級を梯子のように昇れる能力主義の社会になっていた。 …驚くべき富をもつ「古代資本家」ともいうべき存在が、エルサレムにも出現してきた。

2013-03-29 18:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭事実、マカバイ朝後期の大きな特色の一つは、ユダヤに古代大資本家群を生ずるに至ったその経済成長である。 それまでの彼らは、中東の「箱庭」で、この地方には珍しい春秋の定期的降雨を利用する農耕牧畜民であった。 もっともこの傾向は北ほど強く、南ほど遊牧民的ではあったが。

2013-03-29 19:27:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮その彼らが、ローマという一大広域経済圏に組み込まれる事によって、一大商業民に転化したのである。 …ヘロデ王がカイサレアに大港湾を作ったのも不思議ではない。 ダニエル=ロプスは「近代的商業の基本的操作は、すべて、二千年前のイスラエルの大商業の中に見出される」と記している。

2013-03-29 19:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯従って、神殿に青銅の一枚板の扉を寄附するような大富豪が現れても不思議でない。 …そして多くのものは、現実にはその体制に組み込まれて生きており、その体制自体がローマ経済圏に組み込まれていた。 従ってこの二者択一を迫られたとき、彼らは口がきけなくなる。

2013-03-29 20:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰「カイサル」とは公言できない。 これは絶対に否定されなければならない。 しかし「神」といえば、即座に、今、自分が実際にそれによって生活しているもののすべてを捨てなければならない。

2013-03-29 20:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱その状態は、今の社会で「私は断乎として資本主義を否定し、この会社を破壊するために全力を尽くす」と社長の前で公言するサラリーマンより、ひどい運命になる。 またイスラエルそのものが、その態度をとれば、当然ローマ圏という大市場を失い、それによる経済的破減を覚悟しなければならない。

2013-03-29 21:27:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑲新約聖書には、イエスも同じ二者択一を迫られたという記述がある。 「カイサルに税金を納めることは良いか、悪いか」と。 これは、どちらにも答えられない質問である。 イエスは巧みに逃げて、実際には答えなかった――ある意味では。 従って、その返答に、質問者は釈然としなかった。

2013-03-29 21:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

⑳だが、質問者とても、この二者択一にはもちろん答え得ない。 こういう状態に陥ったとき、人は一体どのような生き方をするものなのであろうか。

2013-03-29 22:28:00