山本七平botまとめ／「神かカイサルか」を突きつけられた中間派ファリサイ／～真のファリサイを偽善者と呼ぶ「本物の偽善者」＝商業左翼～

山本七平bot @yamamoto7hei

①ファリサイズムという言葉がある。 これはキリスト教世界では、ちょうど日本の「反動」「右翼」「ファッショ」と同様「偽善者」といった一つの悪罵に転化しており、従って非常に使いにくい言葉になってしまったが、これから記すファリサイズムには、そういう要素はない。＜『存亡の条件』

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②以前『文芸春秋』所収の共産党の宮本委員長の「離反者たちの共産党論議」の印象を編集長のＴ氏から聞かれた時も、また、清水幾太郎氏『わが人生の断片』の読後感を聞かれた時も、私が反射的に答えた事は 「面白い、非常に面白い、これは一種のファリサイズムですから…」 という言葉だった。

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③そしてそう言ってから、あわてて「私がいうファリサイズムとは……」と説明して誤解を防いだわけだが、一つの言葉が、その正確な意味内容を失って「悪罵」に変化してしまうと、全く使いにくくて困る。

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④しかし、この二つの文章を読んだ人は、この二つの文章に、ファリサイ派が常に受けていると同じ前述のような批評を下すことが、いとも簡単だということに気づくであろう。 そして、すでにそういう批評を下している人もいるかもしれない。

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⑤「自己正当化だ……」 「自分だけがいい子になって……」 「一種の偽善だ……」 「言い抜け……」 「自己弁護だ……」 「保身だ……」 「所詮それだけか……」 「といって自分の社会的位置を守る……」等々、 何とでも言える。 そして本人が真剣であればあるほど言える。

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⑥これは誰にでも言える批評であり、そしてまたヨセフスが二千年来受け続けている「つまるところ自己弁護だな」という批評にも通ずる。 一体全体、これはどういうわけであろう。 そしてその批評を受けている人たちは、ファリサイ派もそうだが、その時代における最もまじめな人たちなのである。

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⑦「神かカイサルか」 「新憲法か再軍備か」 「共産主義か資本主義か」 「アメリカか中国か」―― といった質問は、同一文化圏にそのままの基準で生きているものには無意味である。

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⑧ローマ人に向かっての「神かカイサルか」の質問が無意味な様に、又アメリカ人に向かっての「共産主義か資本主義か」も、カナダ人に向かっての「アメリカか中国か」も無意味な様に、無意味である。 同時にエッセネに向かってもこの質問は無意味だし、全く逆にサドカイ派に対しても無意味なのである

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⑨この質問が意味をもってくるのは、二つの基準の中間にいるものに対してだけである。 そしてこの質問が無意味なものにとっては、ファリサイは常に、一言でいえば、偽善者でしかない。 そしておそらく、宮本委員長も、清水幾太郎氏も――。

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⑩確かにイエスは 「わざわいなるかな、汝、偽善者、ファリサイびとよ…」 と言った。 しかしこう言った人間は、その信条に基づいて十字架にかけられる覚悟をしなければならない。 また、逆に、自己の信条に従わぬ者は短剣か鉄パイプで殺さなければならない。

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⑪さらに荒野に行くか、それでもなお追跡されたら黙って殺されなければならない。 だが、普通人にはそれはできない。 それをしないでいて、ファリサイを偽善者という者は「真のファリサイを偽善者という本物の偽善者」にしかなれないわけである。

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⑫…これも奇妙な比喩かも知れないが、エッセネの行き方は、荒野に「解放区」をつくり、そこの人間は文字通り共産主義社会に生き、一方、その党員およびシンパの一部は、「未解放区」にいる、という状態である。

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⑬こういう状態にある人びとは、たとえ未解放区日本にいようと、偽善とはいえないわけだが、そういう人から見れば、日本共産党は、偽善者集団、すなわち宮本修正主義集団となるであろう。

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⑭だがしかし、この「解放区」なしに資本主義社会の中に共産主義集団が混在して生きるとすれば、ここに生きる生き方には、二つしかないはずである。 一つは「資本主義を認めない」と言いつつ、資本主義社会の中に、そのままに生きていく生き方である。 こうすれば、一切、問題はない。

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⑮この生き方が最も端的に出ているのが、商業左翼であって、そこでは「解放区」すら売り物になりうる。確かに、こういう生き方は、ファリサイズムにはならない。

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⑯また、いわゆる「マルクス訓詰学」に没頭しても同じである。 そして、マルクス以外に典拠を求めないと言いつつ、大資本家になれば、また大資本家的ブルジョア的生き方をしたり、ブルジョア政府の顧間にでもなれば、その人の行き方は、ほぼサドカイ派と等しいであろう。