第一話 第二話:エレベーター 第三話:音が、ほら。
- C_N_nyanko
- 1636
- 2
- 0
- 0
それで、一階についた。 誰もいなかったよ。心底ホッとしてエレベーターを出ようとした。 そしたら後ろからポンって肩叩かれてね。 「待たせたな」 って一言。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-16 20:15:52それから先は、どうなったことやら。 ところで君、やっと来たね。 ずいぶん僕を待たせたな。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-16 20:16:08「信号機って自分が渡るときは直ぐに変わるくせに、待たせるときは随分待たせるよな」 そう言う君は、少し不機嫌そうだった。 「交通量で変化させてるらしいからね、向きでも変わる……」 答えて、反対の歩道を見やる。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-16 23:49:08「そういえばさ」 と君はいった。 「信号が変わる前に、一瞬全部真っ赤になるだろ。向こうもこっちも」 「ああ、うん、衝突避けだろ」 「あれの時間が一番長い国って日本なんだぜ」 「へぇ」 驚いた。すると君は笑う。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-16 23:57:56「――ま、嘘だけどな」 君はそう言って、信号が青になったのを見て、横断歩道をさっさと歩いて行った。 「君は平気で嘘をつくなぁ」 ため息をこぼさずにはいられない。 「だけどすぐに否定するから可愛いもんだろう?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-16 23:59:13「自分で可愛いなんて言っちゃおしまいだよ」 渡りきったところで肩をすくめてみせると、君はあっけらかんと笑い、ふと何かを思い出したように言った。 「そういえば……わざわざ語って聞かせるほどの話じゃないんだが」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:02:29「ふぅん」 お決まりの相槌を打つ。気が進まないように切り出す君が、本当は僕に何か話したくて仕方がないのだとよく知っているからだ。 「耳元で曲が流れて消えないときってないか」 「あぁ、中毒性の高い曲ならよくある」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:03:51「中毒性か……」 君は小さく呟いた。 「まぁそう言う意味じゃ確かに中毒性はあるかもしれないんだが」 「どんな曲? 僕も知ってる」 「知ってる知ってる」 ほら、あれだよ、と君は言った。 「――かごめかごめ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:04:55「それは、また」 曰くありげというか、ぞっとするというか。 かごめかごめは、無条件で恐ろしい。もっと言えば、おぞましい。 「僕はあまり好きじゃないよ、あれ」 「俺も好きじゃない。今聴いてふと思い出したんだ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:06:38そう言って振り返る先には横断歩道。 「なんで、かごめかごめを流すんだろうな」 君は首を傾げた。 そして口を開く。 「かごめかごめ かごのなかのとりは いついつであう」 どこかぼうっとしたまま、君は歌った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:08:27それから数日後、歩道橋で君に会った。 「なぁ、大した話題でもないんだが、かごめかごめの話でもしようか」 君は不気味なほど楽しげに笑った。 真夜中なのに手ぶらで、しかも裸足の君は、僕の疑問に頓着しない。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:10:59「あれな、本当は、後ろの正面は絶対に外さなきゃいけないんだよ」 「どうして」 呑まれるままに聞き返すと、君は声を潜めた。 「当ててもらえるかもしれないと思って、何か悪いものが来るかもしれないだろ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:11:37あいつらはな、と、君は言った。 「名前を呼んで欲しいんだ。なんだっていい、とにかく呼ばれたいんだよ。だから遊びの中に同じ名前の子供がいると、こっそり混ざって呼ばれるのを待つ。だから、外さなきゃいけない」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:12:15外さなきゃいけなかったんだ、と、君は悲しげだった。 「呼んじまったんだよ、なんか妙な奴の名前。それからだ、かごめかごめが聞こえるの」 情けなく眉を歪めて目から涙をこぼしながら、君は唇を吊り上げた。 「嘘……」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:14:12「だったら、いいのにな」 言うなり、君の上体がぐらりと傾いた。止めるまもなく歩道橋を乗り越えて、君は真っ逆さまに落ちる。 その瞬間、僕は見た。 君の肩を掴んで一緒に落ちていく、小さい子供と、目が合ったんだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:15:17「なぁ」 病院の一室で、僕は君に声をかけた。 「かこまれたのは、かごまれたのは君の方なんだよ」 ぽんぽん、と、数度布団をたたいて病室をあとにする。 入口にいた小さな子供に、ねぇ、と声をかけた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 00:17:43「やぁ君、君はこれで、満足なのかい?」 その問いかけに。 『君』は、小さく頷いた。 そういうわけで、僕はまた、『新しい君』といる。 君の隣で、君当てのリンゴをかじっているよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-17 01:58:12