第三十四話:メガネ 第三十五話:ヒビ割れ 第三十六話:一匁
- C_N_nyanko
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君は頬に手を添えて、ほぅとため息をつく。 「あたしどうしちゃったんだろう」 「自己顕示欲が極まってる、とか?」 君はむっとして睨みつける。 「そういう話じゃないわ」 とにかく、と君は言う。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:07:05「悪い気はしないけど、怖いの。なんとかできない?」 「簡単に言うね」 僕は面食らった。 「僕はただの学生だ。力にはなれないよ」 「難しいことは頼んでないわ。喫茶店で居眠りするのを監視してくれればそれでいいの」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:07:50君は真剣だった。思うところがあるのだろう。 「……分かった」 僕は引き受けた。 それで、君が居眠りするのを眺めている。 別段変わったところはない。授業中に寝こけるのと同じように、すやすやと安らかな寝息だ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:08:08やがて君は目覚めた。 「何も起きなかったよ。夢は見た?」 「いえ。無駄骨折らせて悪かったわ」 こんな殊勝なことを言うなんて珍しい。 「あまり無理するなよ」 心配して言うと、一言余計よ、と、背中を叩かれた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:09:55その夜。買い出しに出かけていると、遠くに君が歩いているのが見えた。 こんな時間に、珍しい。 「おい、君」 声をかけても聞こえた様子がない。まるで夢遊病のようだった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:10:19嫌な予感がした。君の腕を掴んで、引きとめる。しかし信じられないほどの怪力で引き剥がされた。 ただ事じゃない。 僕は慌てて君の後に続く。 君は街灯のない暗闇に立ち寄った。かと思うと、そのまま闇にとろけた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:10:58僕は君の白い腕を掴んだ。 そこからぐにゃりと視界が変わった。僕は檻の外で君を眺めていた。 黒いもやもやした影の塊が集まって、君を値踏みしている。 「さぁ、この花いくらだ」 その言葉に、君は艶然と微笑んだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:11:45「八〇円!」 「八五円!」 「九二円!」 どうやらレートは大正頃のものらしい。 僕はポケットをまさぐって千円札を取り出し、手を高く付き上げた。 「千円! 千円出すぞ!」 途端、水を打ったように静かになった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:12:30進行役の男がひょこひょこと現れて、僕の手から千円札を受け取る。 「む、確かに」 頷いて、男は紙幣を受け取った。そして檻から君を取り出し、僕に放った。君を抱きとめて、地面におろしてやる。 「よし、次だ!」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:13:26化物たちは、新たな品に関心を向けて、もうこちらには見向きもしなかった。 「ほら、帰ろう」 僕は君を促して、その闇から抜け出した。 「花いちもんめ、ってあるでしょう」 夢うつつの中、君は言った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:13:36「あれね、名前を呼ばれるまですごく不安なの。呼ばれると、誇らしくて、勝っても負けても喜んで行くの。さっきのは、まるであの時と同じような幸せだった」 「それでも」 僕はまるで、駄々をこねるように語調を強めた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:14:03「君が勝手にどこかに行くのは、悲しいよ」 君は応えようと口を開いた。 その時。 「あんなに美しい花は見たことがない」 「お嬢ちゃん、戻っておいで」 「あの子が欲しい、あの子が欲しい」 後ろから、影が呼んだ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:14:38君の首が、ゆっくりと動く。 「振り向いちゃダメだ!」 叫んだが、遅かった。 君は、振り向いてしまった。 君の手がぐいと引かれた。 あ、と、君が小さく声を上げた。 するり、と、繋いでいた手がほどける。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:15:00気がつくと、僕はひとりで街に立っていた。 君の履いていた赤いハイヒールが、街灯の下に転がっていた。 「――ねぇ。僕は、君と話すのが好きだったよ」 僕は君の靴を拾い上げた。 誰も、返事をしなかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:17:01そのまま僕は街をさまよった。前から人が歩いてくる。分かっていたのに避けきれなくて、僕はぶつかった。 「あ、ごめん……」 謝った僕は、涙でひどい顔をしていただろう。 「大丈夫ですか?」 逆に心配された。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:17:34相手は着物姿の女だった。僕は返事が出来なかった。 女は母親が息子にするように、僕の頭を優しく撫でた。 「お伺いしましょうか?」 僕はこくんと頷いた。 そして、呟く。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:17:58「君は、優しい人だ」 その言葉に。 『君』は、困ったように微笑んだ。 そういうわけで、僕はまた、『新しい君』といる。 だけど僕は、君よりまだ、君が恋しいんだ。 また会いたいと、切に願ってる。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-28 02:18:17