居上蜂花略奪戦「振りほどかれた/握りしめた手の行方」
男の動きが止まった隙に、彼に駆け寄る。投げ出した椅子が、がしゃあんとひどい音を立てた。彼のそばに膝をつく。額には、脂汗のようなものが浮かんでいた。息が荒い。荒くて弱い。地面に落ちた手を取って、握る。しんじゃいやだ。やだ。いやだ。「そ、じさん」やだ。「しんじゃやだ、やだ、やだよう」
2013-05-29 21:38:11攻撃は外したのだろうか。。 なんとか確かめようと身動きすると、パシャリ腹の方から水音がした。 途端にせり上がってきたモノを、と吐き出すと、嫌な呻きと共に、地面に更に血が広がった。 刺さっていた氷が解けて、抜けたのだ。
2013-05-29 23:30:43貫くと同時に傷をふさいでいたソレが水に戻った事で、どっと体内から血と、残っていた力が流れ出す。 「っぁ……――っ」 ガシャンと何かを投げ出したような酷く硬質な音が響いたのに、意識だけが反応した。どうなっている。 ともかく、血を、止めて。止めて彼女を――。
2013-05-29 23:31:39動いてくれない手で腹を抑えようとしたその時に、ぎゅっとその手が握られた。 「そ、じさん」 彼女の声だ。どうして。ここにいるんだろうか。縄は?あの男はどうなった? そもそも、無事なのだろうか。 自分の目の前に膝をついている彼女が見えた。 ああ、血で汚れちゃうな。そんな事を思った。
2013-05-29 23:33:22「しんじゃやだ、やだ、やだよう」 涙混じりの声に、そんな場合じゃないのに何故か笑みが浮かぶ。振りほどいた手を、こんどは彼女から握ってくれた。戻って、きてくれたのだろうか。わからないけれど、ずっとくすぶっていた苛立ちがおさまる。 「そんなかお、しないで……くださいよ。ほーか、さん」
2013-05-29 23:35:50落ちついたせいか、自身の血液をつかっての止血は上手くいったらしい。全て抜け落ちていくような感覚が止まる。だが、酷いめまいと吐き気がした。「こん、なの……いつもの、こと……っすから」 そう。いつもの事。へまするのも中途半端なのもいつもの事。だけど。その手を握り返して、一言を絞り出す
2013-05-29 23:37:30ぼろぼろと泣きだした彼女を見上げていると、ふとその背後何かが動いた。 それを認識した瞬間、体は反応する。 ――立てない。 驚く彼女をつないだ手で無理に引っ張りると、バランスを崩して自分の後ろに座り込む。なんとか上体を起こした格好で庇った。
2013-05-30 16:54:28「……、君たちを……少々甘く見過ぎていたかな……」 この場に響いたその声に、背後で彼女がびくりと震えた。 「嘘……」 呆然とした響きに歯を噛みしめると、ぎゅ、とその庇う背を彼女に押しつけるようにした。 大丈夫だ。まだ庇える。
2013-05-30 16:55:17自分を支える負荷だけで震える腕を抑えつけながら、ゆっくりと立ち上がるその男を見据える。頭を押さえ、そして胸元に生えてるかのような細い槍に手をやる。急所を外している。 口元から血が滴っている所を見ると、何らかの臓器は傷つけているらしいが、その男は自分と違いしっかりと立ち上がった。
2013-05-30 16:55:58「…………っ」 「そう殺気立たないでくれたまえ。君の感情は鋭すぎて中りそうだ、と最初に言っただろう。」 攻撃する意思が感じ取れないその姿に不審さを感じて睨みつけると、男はふう、と芝居がかったため息をついた。 「やれやれ。若者をからかい過ぎるのも私の悪い癖、といった所かな」
2013-05-30 16:56:56そして外に視線を向けるようにしてしばし黙ると、再び口を開いた。 「君の上司達もこちらに向かってきている頃合いだろうから、私は失礼させてもらおう。……部下を多く失ったのでね、彼らに可愛がられている君も同じ所へ送ってやりたかったんだが」 至極残念そうな響きが声に滲んでいる。
2013-05-30 16:57:45「まあ、君を殺してしまうと『うるさい』連中がいるから、今回の所は諦めるとするよ」 「逃げられると思ってんのか?」 「思っているとも。切り札は最後までとっておくものだ」 そして懐から携帯を取り出すと、数回だけ操作してまたしまう。
2013-05-30 16:59:05その視線が、自分を通り抜けて真っ直ぐ彼女を見た。 「『お嬢さん』また『おいで』。こちらにも、君の居場所は残しておこう」 「ってめ――!!」 声を上げようとして咳きこみ、また血が飛びちった。 「そーじさん!」 その自分の様に彼女が腕にしがみついてきたが、その発言だけは許せない。
2013-05-30 17:00:29血の味のする喉に力を入れようとしたが遅く、霞んだ瞳で瞬時に男の姿が消えたのを確認する。 「テレポート……」 背後で呟いた彼女の声に、仲間が残っていたのか。と歯噛みする。 だがそれ以上何かを考える間もなく、体は崩れ落ちた。限界を超えている。出血量も既に致死してあたりまえなくらいだ。
2013-05-30 17:02:38彼女の声が聞こえる。 それと遠くで、よくやった、という声がしたような気がした。詰めが甘い、と笑う声と、自分を叱りつけるような声も。 奈落に落ちるような感覚で意識は途切れた。
2013-05-30 17:04:00「たすけて、たすけてください」「うわ、派手にやられたモンだねェ」「ごめんなさい、ごめんなさい、たすけてください、血が、いっぱい、もう」「治療の手配は」「済んでるわ」「流石鳩羽仕事が早ーい」「おっ、自分で止血したんやな」
2013-05-30 17:59:30彼が、ひどくやさしく笑う。身体に穴が空いているというのに。握りしめた手は、こわいくらいに冷たかった。血が足りないのだろう。「そんなかお、しないで……くださいよ。ほーか、さん」切れ切れに、彼が言う。しゃべっちゃだめ。そう言いたいのに、言葉が喉で止まって出てこない。
2013-05-30 18:18:33水色の髪に隠れた眉が、一瞬ぐっと寄せられる。その目は今にも意識を手放してしまいそうだ。やだ、しなないで、しんじゃやだ。「こん、なの……いつもの、こと……っすから」宥めるような彼の笑顔に、息が詰まる。ぎゅっ、と掴んでいた手を握り返されて、どうしようもなく泣いてしまいそうになった。
2013-05-30 18:20:37裏話だけれども、『まだ戦える』じゃなくて、『まだ庇える』なのは、先輩達に散々叱られたので、今の自分の状態で最上の結果は何か、を考えられるようになったからなのでした。昔の創史なら怪我によるハイで立ち上がって、死んでた。
2013-05-30 19:19:36怜はこっそり雑魚共蹴散らしておじさんに向けてスタンバってたんだろうけど、手を出さなかったのは出していいと思わなかったからかな。他の異捜面子が件の部屋の前まで来ていない所で疑問に思ったとか、あと略奪と聞いた時に既に誰も手を出さないのだなぁと把握していたとか。
2013-05-30 19:51:45