「強磁場中におけるカイラル量子異常によって誘起される中性パイ中間子の反応」の解説 by kz_itakura

タイトルのとおりです。 個人的なメモ代わりにふぁぼってたら、予想していたよりも件数が多いのでtogetterに突っ込むことにしました。
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ほげ @kz_itakura

【論文解説1】新しい論文が完成しましたので、その内容を説明します。「強磁場中におけるカイラル量子異常によって誘起される中性パイ中間子の反応」 http://t.co/S9MCKIulHH これは、延世大学の服部氏、尾崎氏との共同研究です。

2013-05-31 10:51:39
ほげ @kz_itakura

【論文解説2】高エネルギー重イオン衝突では、電荷を持ったイオン同士が光速に近い速さで過ぎ去るために、非常に強い磁場が生成されます。その強さは宇宙最強の磁場であるマグネターのもつ磁場よりもさらに数桁強いものです。

2013-05-31 10:52:12
ほげ @kz_itakura

【論文解説3】そのような強い磁場中では、ハドロン(メソン、バリオンの総称)の性質が変化する可能性があり、最近興味を持たれています。本研究では、非常に強い磁場があるもとで中性パイ中間子の性質が大きく変わることを示したものです。

2013-05-31 10:52:53
ほげ @kz_itakura

【論文解説4】素朴には、中性パイ中間子は電荷を持ちませんので、磁場の効果は無いのではないかと思われるかもしれませんが、以下のように大きく影響を受けます。中性パイ中間子は二つの光子に崩壊することが知られています。

2013-05-31 10:53:57
ほげ @kz_itakura

【論文解説5】それが可能なのは、カイラル量子異常のためで、パイ中間子からクォークの3角ダイアグラムを通じて二つの光子に崩壊するダイアグラムが有限の振幅を持つのです。さらに、この2光子崩壊に対する高次効果として、二つの光子のうちの一つが電子・陽電子対に変わる、ダリツ崩壊があります。

2013-05-31 10:55:27
ほげ @kz_itakura

【論文解説6】このダリツ崩壊はQEDの結合定数がかかる分、2光子崩壊よりも頻度が小さく、分岐比はおよそ2%になります。98%は2光子崩壊です。以前の研究によって、非常に強い磁場中を走る光子は、その性質を大きく変えることがわかっています(Hattori-Itakura,2013)。

2013-05-31 10:56:15
ほげ @kz_itakura

【論文解説7】ですので、中性パイ中間子の崩壊が強磁場中で起これば、その磁場の効果が影響を与えて、分岐比が変化することが容易に想像できます。しかし、今回の論文では、そのような効果よりも遥かに大きな影響を与える効果が存在することを指摘しました。

2013-05-31 10:56:50
ほげ @kz_itakura

【論文解説8】中性パイ中間子が二つの光子に崩壊するダイアグラムが存在するということは、例えば電磁場中に外から光子を入射すると中性パイ中間子が作られるという反応が可能だということになります。原子のクーロン場の近くでこれが起こり、Primakoff効果として古くから知られています。

2013-05-31 10:57:21
ほげ @kz_itakura

【論文解説9】この過程を使って、中性パイ中間子の寿命の精密測定がされています。同じことはクーロン場ではなく、強い外部磁場でも起こります。そして、その逆過程も起こります。つまり中性パイ中間子が磁場を吸って、光子に転換する過程と、光子が磁場中で中性パイ中間子に転換するという過程です。

2013-05-31 10:58:52
ほげ @kz_itakura

【論文解説10】このようなことが起こる場合、光子と中性パイ中間子とが混合すると考えますが、磁場が存在する領域が非常に広大にならないと混合の効果が明らかに見えることはありません。なお、空間的に一様な磁場中を考えるなら、実光子と中性パイ中間子の転換は運動量の保存から不可能です。

2013-05-31 10:59:33
ほげ @kz_itakura

【論文解説11】なので、仮想光子が中性パイ中間子になるか、中性パイ中間子が仮想光子に転換し、それがさらに電子・陽電子対に崩壊するということになります。本論文ではそのような場合を考察しました。

2013-05-31 11:00:05
ほげ @kz_itakura

【論文解説12】まず、強磁場中の中性パイ中間子が仮想光子になり、電子・陽電子対に崩壊するというプロセスは、外部磁場を強くしていくに従って大きな寄与になり、通常の2光子崩壊よりも大きな寄与を与えます。つまり、このプロセスによって中性パイ中間子の寿命はどんどん短くなっていきます。

2013-05-31 11:00:28
ほげ @kz_itakura

【論文解説13】このようなことは、重イオン衝突で生成する磁場中では起こりにくいでしょう。というのは、重イオン衝突で生成する磁場の寿命は、中性パイ中間子の寿命に比べてはるかに短く、中性パイ中間子が生成される時間スケールに比べても短いからです。

2013-05-31 11:00:57
ほげ @kz_itakura

【論文解説14】むしろ、マグネターのような恒常的に存在する磁場中でこの現象が起こるだろうと考えられます。一方で、逆過程である仮想光子から中性パイ中間子への転換は重イオン衝突イベントで起こりえます。重イオン衝突では最初の高エネルギーな粒子衝突によって多くの仮想光子が生成され、

2013-05-31 11:01:55
ほげ @kz_itakura

【論文解説15】それらは通常、レプトン対に崩壊すると考えられています。しかし、今回考慮した効果は、そのうちのいくつかは中性パイ中間子になっているということを示唆します。

2013-05-31 11:02:45
ほげ @kz_itakura

【論文解説16】そして重要なことは、この中性パイ中間子への転換は、磁場と垂直方向に進む仮想光子に対して最も効率よく起こり、従って仮想光子が等方的に生成したとしても、磁場と垂直方向には中性パイ中間子に変わってしまうため、有効的に非等方的な放出になります。

2013-05-31 11:03:54
ほげ @kz_itakura

【論文解説17】これは、レプトン対に対する「負の楕円フロー」を与えることになります。論文では、レプトン対の楕円フローを表すv2という量の解析的な表式を出し、それを簡単なモデルで具体的にRHICとLHCの場合で計算しました。その結果、十分大きな負のv2が得られることが分かりました。

2013-05-31 11:04:22
ほげ @kz_itakura

【論文解説18】一方、中性パイ中間子は逆に磁場と垂直方向に「多く」生成されるために、「正の楕円フロー」を与えますが、中性パイ中間子は他にもものすごい量が生成されますので、この効果をはっきり見ることは難しいでしょう。(以上)

2013-05-31 11:04:50