第四十話:兄、来る 第四十一話:『頂戴』 第四十二話:からっぽ
- C_N_nyanko
- 1051
- 0
- 0
- 0
最初はスルーする気だったけれど、あまりの物珍しさに思わず見入ってしまったんだ。それで、僕の視線に気づいて、男は笑いかけてきた。 「よぅ、気になるならひとつどうだ?」 もちろん、丁重に断ったよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:16:54とある一件以来、得体の知れないペットボトルは警戒することにしてるからね。君も気をつけたほうがいい。 「そうか、お前これの威力を分かってないな?」 男は馬鹿にしたように笑って、僕に一つペットボトルを放った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:18:02「これ、何が詰まってると思う?」 僕は首をかしげた。どうみても空っぽだ。 「何も」 すると男はまた大げさに僕を笑う。 「分かってないな、そこにはな、『からっぽ』が詰まってんだ」 「……はぁ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:18:19わけがわからなかったよ。だけど男は大真面目に、両手を広げて劇がかった調子で説明するんだ。 「誰もいないとNobody is hereっていうだろ? 『無人』はそこにいるってわけだ。それと同じさ」 「……同じ?」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:19:34「目には見えんが、そこには『からっぽ』が詰まってる」 からっぽは凄いぜ、と男は笑った。 「あまり知られちゃないが、こいつはひどく便利だ。だから俺はからっぽを詰めて売るのさ」 ひとつどうだい、って勧められたよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:21:03僕は苦笑いしてごまかした。 「やれやれ、全く分かっちゃないなぁ」 男は呆れたように首を振った。そして、紐のついたペットボトルを取り出して、橋の下を指差したんだ。 「いいか兄ちゃん、よくあのドロドロを見とけよ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:22:07言われるがままに男の示した方向を見た。驚いたね。黒いブヨブヨした塊が、道路にうごめいているんだ。今でも嘘みたいな光景だった。 男はこう言った。 「あいつは交通事故の原因さ。車を絡め取って引きずり込もうとする」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:22:54あいつらの退治にこれが使えるんだよ、と、男はペットボトルをポイと放った。 途端、目に見えない何かがペットボトルから勢いよく飛び出てね。次の瞬間には、ペットボトルいっぱいに、黒いブヨブヨが押し詰められていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:23:33男は紐を手繰り寄せてペットボトルを回収した。 「『からっぽ』を開放してやったんだ。そうすれば、空っぽのかわりに何かが詰まるだろ? このメカニズムを応用して、あれが回収できる」 そして、改めて僕に訊いた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:24:59「お一つどうだい? ゴミ出し何かにも使えるぜ?」 そういうわけで、僕は「からっぽ」の詰まったペットボトルをひとつ買った。 ひとつ百円。悪くない値段と思うだろ? http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:25:40それで今朝方使おうとしたんだけれど、キャップ部分が硬すぎて開けない。あれこれ試したけど、どれもダメでね。 結局諦めて、捨てることにした。 さっき捨てた、あのペットボトルがそれ。もし欲しかったら、君に譲るよ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-05-30 23:26:37